経済・社会の「好循環」へ自動車産業ができること 自工会会見

2022.01.28

自動車産業が考える「成長と分配」。また、豊田会長から語られた「成長」へのカギとは。

1月27日、日本自動車工業会(自工会)のオンライン記者会見が開かれた。自工会として、今年初めての会見。豊田会長だけでなく、副会長と次期副会長全員が参加し、理事会で議論された今年の5つの重点テーマを発表した。

その中でも、豊田会長が“すべての背骨”になると話したのが「成長と分配」。政府が掲げるこのテーマを自工会としてどのように考えているのか、会見での発言から、その真意に迫る。

オートサロンで気づかされた原点

豊田会長

新しい年がスタートしてから、早くも1カ月がたとうとしております。ウィズコロナの暮らしも3年目となりましたが、足元では、変異株の感染が急拡大しております。

医療従事者の皆様をはじめ、経済・社会を回し続けるために日々奔走されているすべての方々に、心より感謝申し上げます。

また、現在、部品の供給不足やコロナ影響により、新車の納期が長くなっております。楽しみに待たれているお客様に対しまして、ご迷惑をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。そして、このような状況の中で、日々、生産対応をしてくださっているすべての皆様に、深く感謝申し上げます。

今年の年始は、関係の皆様のご尽力により、東京オートサロンが2年ぶりに開催されました。

私も、クルマ好きの一人として会場に足を運びましたが、パーツメーカーの皆様がカスタマイズやクルマの新しい楽しみ方を、思い思いに提案しておられました。そこにクルマファンが集まり、まさに「クルマ好きのためのお祭り」という雰囲気でした。

私が現場で実感いたしましたのは、たくさんの仲間がつながり、支え合いながらやっているのが自動車産業だということ。そして何よりも、「やっぱりクルマって楽しい!」ということでした。

どんなに時代が変わっても、楽しい未来をつくっていく。みんなでやればもっと楽しくできる。改めて、大切な原点を肌で感じ、新年をスタートいたしました。

自工会会長が考える「成長と分配」

豊田会長

本年1回目の理事会では、自動車業界の今年の重点テーマについて議論をいたしました。私たちが目指しているのは、自動車を軸にみんなが幸せになる社会づくりのお役に立つことです。そのために、この5つのテーマを設定いたしました。

この中でも、すべての背骨となるテーマが、「成長と分配」です。来月には春季労使交渉も控え、岸田総理も政策の中心に据えておられますので、本日はこの点について、私の考えを申し上げたいと思います。

自動車産業はこれまで、すべてのステークホルダーへの還元や分配を進めてまいりました。コロナ禍の2年間で雇用は22万人増やしております。平均年収が500万円とすると家計に1兆1000億円のお金を回した計算になります。

近年の平均賃上げ率は、約2.5%と全産業トップの水準であり、自動車メーカーの12年間の累計納税額は10兆円、株主還元は11兆円です。従業員だけではなく、取引先、株主など幅広いステークホルダーに、持続的に還元をしてまいりました。

これをさらに広げていくためには、その「パイ」を増やしていくこと、つまり成長が必要です。私は、成長とは、一部が富を独占するのではなく、その果実が広く行き渡り、みんなが笑顔になるために必要なものだと思っております。

好循環を生み出すためのカギ

豊田会長

その成長をどう実現するのか。バブル崩壊以降、日本の経済成長は停滞し、先が見えないデフレ社会の中で、金融資産や個人貯蓄など、さまざまな「保有」が滞留しております。これを動かし、大きく回していくことが必要ではないかと思っております。

自動車で言っても、「保有の回転」がカギになります。いま日本には、8000万台の保有母体があります。この平均保有年数は非常に長期化しており、現在、15年以上になっております。

これが10年で回るようになれば、市場規模は、現在の500万台から、800万台になってまいります。

これにより、自動車出荷額は7.2兆円増え、新たな雇用が生まれ、バリューチェーン全体にもお金が回ってまいります。税収も、消費税1%分に相当する2.5兆円の増収になります。

自動車だけの話をしているわけではございません。CASEの時代は、人々の暮らしを支えるすべてのモノやサービスが情報でつながり、クルマは、単なる移動手段ではなく、蓄電池や情報通信デバイスとして、社会インフラの一部になってまいります。

自動車は、社会全体ともっと密接につながる存在になると思います。だからこそ、自動車を軸にすれば、経済・社会の好循環を生み出すことにもつながっていくと思っております。

より良い社会づくりの「ペースメーカー」として役割を果たしていくこと。これは基幹産業である私たちの責任であり、使命です。今年はぜひとも、「成長と分配」の実現に向けて、保有の回転を促す政策を、政府の皆様とも一緒に議論させていただきたいと思っております。

今は、何が正解か分からない時代です。大切なことは、「とにかく、何かを決めて、まず動いてみること」だと思います。

自動車業界が動くことで、仲間を増やし、みんなで一緒に前に進んでいく1年にしてまいりたいと思っております。今年も皆様のご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

中長期的に、持続的な成長を

2月から、各社で本格的に労使交渉が始まっていくが、記者との質疑応答では、その動きを踏まえ、改めて「成長と分配」の受け止めが問われた。

豊田会長

まず、岸田政権が掲げる「成長と分配の好循環」という趣旨に、自動車業界全体で賛同しております。

ただ、「分配=賃上げ」という話で議論されていたり、この10年間で賃金が上がっていないと報道されることもありますが、(自動車業界の)実態は、ステークホルダー全体への還元を、より大きな視点で時間をかけてやっているということだと思います。

たとえば近年の、従業員の平均賃上げ率は約2.5%。全産業トップであり、かつ10年間続いております。継続して(分配を)やっている産業であることを正しくご理解いただきたいと思います。

また、(従業員だけでなく)国や社会にどう分配しているかというと、2009年度以降の自動車・部品産業各社の累計企業納税額は約10兆円になります。そして自動車は非常にすそ野が広い産業なので、サプライヤーに対する累計購買額は250兆円でございます。これはまさに、サプライヤーの売り上げに値する金額です。

さらに、コロナ禍でも自動車産業は22万人の雇用を増やしています。平均年収を500万円とすると、家計に1兆1100億円のお金を回している。また株主に対しても約11兆円を還元。

通常の分配でも、研究開発、設備投資、賃上げなども含め、自動車産業は毎年7兆円、電池投資でも約3兆円と、これだけのお金を回していることを、ぜひともご理解いただきたいと思います。

ただ、自動車産業はすそ野が広いため、まだまだ行き届いていないところもあります。自動車5団体の中には、部品工業会や車体工業会*など、現場と近い仲間もおりますので、連携を深め、分配の実態がどうなっているか事実をしっかり検証していきたいと思います。

「中長期的に安定した雇用」と、「みんなが未来に向けて希望と自信を持てる社会づくり」が必要ですし、そのためには、それぞれの企業の国際競争力を上げないといけないこともご理解いただき、中長期でどうなっていくのか(という視点で)春闘を見守っていただきたいと思います。

*一般社団法人 日本自動車部品工業会、一般社団法人 日本自動車車体工業会

日本の基幹産業として、賃上げはもちろん、納税、株主還元、部品の購入や、設備投資などを通じて、経済の好循環に貢献してきた自動車業界。

豊田会長からは、自動車を軸に多くの人が幸せになる社会を目指し、今後も「成長と分配の好循環」をけん引していく決意が示された。

「中長期目線で、みんなでやってきたのが自動車業界」。そんな想いとともに、来月、各社の労使交渉がスタートする。

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