例年以上に多様な質問が飛び交った決算会見。経営に影響を及ぼす数々の課題にトヨタはどう向き合っていくのか?
5月11日、トヨタは2022年3月期の決算を発表した。
既にニュースになっているように、実績は売上も利益も過去最高となり、見通しは原材料価格の高騰などを踏まえ、減益の予想を示した。
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決算報告と長年にわたる体質改善の説明に続いて行われた質疑では、新型コロナウイルス感染拡大、部品不足による減産、原材料価格の高騰、ウクライナ・ロシア情勢、各国市場の減速など、いつにも増して、さまざまなテーマについて質問が飛び交った。
それは、トヨタの経営に影響を及ぼす環境変化がそれだけ増してきていることの裏返しでもある。
トヨタは、この不透明で、厳しさを増す環境をどのようにとらえ、対応していくのか――。4人の登壇者の回答をテーマごとに一問一答で紹介する。
テーマⅠ:コロナ・部品不足による減産
――前期のグローバル生産は、計画の見直しが度重なって857万台で着地。今期も半導体不足などが続く中、970万台と計画した根拠は?
山本正裕 経理本部長
昨年、計画に対する減産が度重なりました。それでも、生産現場も仕入先の皆様も、一台一台、気持ちを込めてクルマをつくってくださったことに感謝申し上げます。
今回、今年の計画を970万台としました。大事なことは、原点に立ち返って、安全と品質を守りながら、一台一台、生産を続けていくことだと思います。
この計画も先々どうなるかわかりませんが、これを基準として1年間進めていくことになります。
ここにはコロナや半導体の影響など、今わかっていることを織り込んだつもりです。
(仕入先の)現場に伺う中で、急な減産で人の入れ替えや補充が必要になったり、部品が余って置き場がなくなったりと、大変なご苦労をかけていると伺いました。
計画を早めにお伝えできれば、急に止めることなく、タクトタイムを下げて、今いる人がそのまま仕事ができたり、手の空いた人に改善活動をしてもうなど、人材育成を続けることができます。
体質改善の源は現場にあると思っており、そういったことも含めてやっていければと考えています。
テーマⅡ:原材料価格の高騰・価格転嫁
――原材料価格の影響が前期(2022年3月期)6400億円、今期(2023年3月期)1兆4500億円と巨額になっている。市況をどう見ているか?
近健太副社長(Chief Financial Officer)
今期の原材料価格の変動(1兆4500億円)は過去に例がないレベルとなっています。前期の6400億円も過去一番でしたが、その倍以上の影響です。
仕入先との間では、原材料高騰分は原則トヨタで負担をするというルールがあり、それに基づいて、グローバルでどれくらいの影響があるか足元の相場などを踏まえて見積もっています。
資材のインフレの状況は、OEM(完成車メーカー)や仕入先の区別なく、一体となって実行していく必要があり、使用量を少なくしたり、より安価な材料に変えたりする取り組みをやっていかなければなりません。
もう一つ、クルマの開発、生産、販売者として、よりお客様に付加価値を感じていただける商品開発をしていく。
一律に値上げするのではなく、企業努力をして、より競争力を高められる取り組みが必要だと思っています。
ただ、年間3000億の原価改善も、ぐっと力を入れてやっていかなければならないので、危機感を持ってやっていきたいと思います。
――海外メーカーが車両の値上げに踏み切る中、トヨタの価格転嫁の考え方は?
長田准執行役員(Chief Communication Officer)
トヨタの特徴はグローバルにフルラインナップで、乗用車・商用車を展開しているということです。
各地域でいろいろなお客様のニーズにきめ細かく対応していく必要があると考え、商品の企画、価格の決定をしています。
今回のインフレに伴い、少しお金をいただいてもいい層のお客様もいると思いますが、クルマを日常の足として使うお客様も世界にはたくさんいます。
こういった方から資材価格が上がり、インフレしたからといって、お金をいただくのは大変難しいと思います。
各地域を見渡して、どこで、どのラインアップで価格を上げられるのか、厳しいのかをきめ細かく見て、決めていくというのが基本的なスタンスです。
もう一つ、トヨタはクラウン、カローラ、ハイエースなどロングセラーが多数あるメーカーです。
こうしたブランドは、多くのお客様に長く愛されており、クルマの商品力や価格の相場観を持たれています。
商品を出すときは、その期待に応えなければならないので、同じように価格を急に上げられないということもあります。
原価低減を単年でやるのではなく、時間をかけてしっかりやって、お客様のご期待に応えていきたいと考えています。
テーマⅢ:BEV需要・電動化時代の競争力
――これまでBEVについて、世界の多くがセカンドカー需要だと説明していたが、現在、需要をどう見ているか?
前田昌彦副社長(Chief Technology Officer)
BEVの加速度が非常に上がっていると感じています。各社、品ぞろえが広がり、選択肢が増えた影響もありますし、米国を中心とする規制強化の影響も無視できないと思います。
これだけ厳しい規制を確定させたのはアメリカが最初で、各OEMが動きを加速させる非常に大きな要素になってくると思います。
レクサスRZやbZ4Xなどの前評判を聞いていても、非常に期待値が高まっています。
実際のお客様の反応に規制が相まって、今後しばらくBEVは加速状態にあると思える情報が増えてきたのは事実です。
一方で不安要素もいっぱいあると思っており、資材高騰がより大きく出る傾向があります。お客様は価格転嫁や各地域の補助金などに非常に敏感なので、慎重に見ていく必要があります。
――BEVは電池がコストの半分を占めると言われる。電動化でコスト構造が変わる中、競争力をどう維持するのか?
前田副社長
競争力とはお客様に選んでいただけるということであり、我々は「選ぶのはお客様」だと常々申し上げています。
少しでも良品廉価なものを選ぶ方もいれば、ご自身のライフスタイルを表現するなど、付加価値的なものとして選ぶ方もいます。使用環境が過酷な地域では、安心して乗れるサービスを求める方もいます。
過去は台数や利益の高さに目が行きがちだったものを、カンパニー制をしくことで、各カンパニーが集中して、時には他のカンパニーと競争して、お客様により良い商品をお届けするようになりました。
それから、トヨタはグローバルフルラインナップで、多くの地域でB to Cのビジネスをし、それぞれのお客様の声を聞いています。これは、「町いちばん活動」を通してでないと拾えません。
この活動が始まってから、(満足度調査の)点を取りにいくのではなく、各地域のお客様の生声をしっかり聞くようになりました。これもすべて、トヨタが長年かけてきた「体質改善」だと思います。
お客様に近いところで活動すれば人材も育成されていく。そうした体質改善が続いた結果として、選ばれるようになるのではないかと思います。
テーマⅣ:日野自動車の排ガス不正
――日野自動車の排ガス不正問題で消費者の信頼が毀損されたり、出荷停止となるなど課題が山積している。親会社としてどう受け止めているか?
近副社長
今回、連結子会社の日野自動車の不正で、支えていただいたお客様、販売店、仕入先、行政当局に非常にご迷惑をおかけし、信頼を失ってしまう事態になってしまいました。
本当に残念なことで、親会社としても大変申し訳ないと思っています。
親会社の監督責任として、今後、彼らがステークホルダーの皆さんからの信頼を取り戻す努力をしっかり支援し、一緒になって取り組んでいくことが務めだと思っています。
現在、特別調査委員会にも、真因の追求など、大変ご尽力をいただいています。
その調査結果も聞きながら、ガバナンス、風土改革、事業改革、何よりお客様、ステークホルダーの皆様の信頼回復に向けて、一緒に取り組んでいきたいと思います。本当にご迷惑をおかけしております。申し訳ございません。
テーマⅤ:各国市場の減速
――欧米ではインフレ、中国ではゼロコロナ政策など、各国市場の減速をどう見ているか?
長田CCO
今年度はいつも以上に難しいと思っています。世界を見渡してプラス要因があるとすると、やはりコロナからの回復だと思います。
一方、マイナス要因としては、資材高騰も含めたインフレがあります。
ウクライナの情勢も、いろいろな形で不安が出てきており、半導体を中心にした供給制約もかなり大きな要因で、プラスとマイナスが混ざりながら今期は進行していくと思います。
地域別に言うのは非常に難しいですが、大雑把に言うと、中国、アメリカについては、21年度に対して、やや上回ってくるのではないかと見ています。
日本、アジアについては、ほぼ21年度並みではないかと思います。
一方で、一番読みにくいのがヨーロッパで、エネルギー、資材を含めて、かなりウクライナ・ロシアの問題の影響が経済にも出るのではないかと思っており、全体的に21年度を下回るのではないかという見通しです。
ただ、刻々と状況が変わっているので、前提が変われば、日々見直し、収益構造の改善や納期を早める体質改善につなげていけるよう、日々努力していきます。
テーマⅥ:ウクライナ・ロシア情勢
――ウクライナ・ロシア情勢に絡んで、ロシア事業を今後どうしていくのか?
長田CCO
2月24日にウクライナ侵攻が始まり、非常に多くの尊い人命が失われました。
こういった中で安全な暮らしが脅かされたり、ヨーロッパ中心にエネルギーや食料が不足し始めている現実もあります。世界中の多くの方々と同じく、トヨタとしても非常に心を痛めています。
私たちトヨタは、こういった侵攻、その結果生じた戦争からは、幸せは決して生まれないと思っており、一刻も早く、ウクライナをはじめ、世界に平和と安全が取り戻されることを切に願っています。
トヨタには世界中に約1億人の保有のお客様がいます。これに加え、支えてくださっている数多くステークホルダーがいます。
ロシアの事業の問題については、そうした方々のご理解、共感を得るという軸をぶらさずに、状況を見ながら、どう対応するかを考え続けていきます。