水素エンジンの耐久レース参戦から早3年。この挑戦を毎年24時間、寝ずに見守り続けてきた自動車研究家・山本シンヤ氏。トヨタイムズは決勝レースを前に話を聞くことにしている。3年目に思うこととは?
24時間レースからはじまった“水素エンジンへの挑戦”は3年目を迎えた。
その挑戦を、自動車研究家の山本シンヤ氏も、ピット裏で追い続けている。そんな山本氏にトヨタイムズは毎年声をかけている。
なぜなら、その年々の挑戦を“山本シンヤ節ともいえる的確な言葉”で表現してくれるのが我々としても興味深いからである。
1年目、カーボンニュートラルに衝撃の新提案を投げかけた水素エンジンのことを山本氏は「夢の扉を開けたエンジン」と語っていた。
2年目の挑戦となった昨年は「内燃機関は味方になった」と表現。BEV(電気自動車)ばかりが取り沙汰され、内燃機関(エンジン)は時代に逆行しているかのような論調に対する皮肉を交えた。
燃料が気体から液体水素に切り替わった3年目、山本氏はその挑戦をどう表現したのか? 今回も森田京之介記者が話を聞いた。
ピット裏の景色が変わった
森田
1年ぶりに3年連続で、同じ場所で、同じ格好で来ました。今年もシンヤさん目線で、水素エンジンがどう進化しているのか、世の中がどう変化しているのか伺います。まずシンヤさんは今年も眼鏡が…。
山本
ちょっと違うんですね。毎年新作を用意する。冗談ですけど自分も常に進化していかなきゃいけない。
変化に気がつきやすい、定点観測のいいところだ。
森田
シンヤさんの進化同様に、水素エンジンも今年は結構大きな進化がありますね。
山本
気体から液体に変わる。
森田
当然、我々が去年も一昨年も立っていたこのピット裏も変化があります。
山本
一番は、立ち入り禁止区域がなくなった!
森田
わずかタンクローリー1台。この1台で水素エンジンカローラが3台分、24時間レースに参戦できる量って書いてありました。
山本
気体の場合だとピットインして給水素できなかったのが、液体だとできるから、今後もし仲間が増えてきても、いつでも供給できますよという技術も増えている。
もともとロケットで使われてきた液体水素という技術をクルマに使う、まさに最先端技術を量産にフィードバックする取り組みであり、ロケット技術が一気に身近なものになった感覚だという。
3年目で言えるようになった“本音”
森田
1年目は、水素エンジンってちゃんと走れるの?っていう段階からスタートして「夢の扉を開けたエンジン」「内燃機関って味方なんだよね」っていう話が去年でした。
水素エンジン、3年目。どうなりました?
山本
世界がちゃんと本音を喋れるようになった。
今までどうしてもみんな電気自動車にしたいっていう話ばかり出てたじゃないですか。
だけど心の中では、他の選択肢もあるのになって。
2年前はトヨタしか言えなかったことが、今どのメーカーも言ってるじゃないですか。
日本の自工会と世界の自工会が同じ発信ができるようになった。みんながちゃんと本音を言えるようになったっていうのは結構大きいと思います。
(豊田)章男会長が言っている現地現物って、本当にみんなを動かすんだなっていうのがわかりますね。
本音を言えるようになったからこそ仲間が増えている。今回のスーパー耐久では、日本の自動車メーカー5社が集結した「S耐ワイガヤクラブ」が発足。
モータースポーツ活動の普及とカーボンニュートラルの実現に向けて、メーカーの垣根を越えて議論する取り組みだ。
ビジネスの面ではライバルでも、カーボンニュートラルという目的に対してはみんな仲間である。そんな意識が明確に出ていると山本氏は評価する。
レース前から未来は見えている
森田
液体水素に変わったチャレンジ、今年は24時間レースをどう展望しますか?
山本
やっぱり余裕しかないです。なぜなら2年間チャレンジしてきた実績があったうえでの積み重ねなので、今までの先が見えない挑戦じゃなくて、見えている中での挑戦だから、たぶんゴールは見えていると思います。
もちろんレースなので、絶対トラブルは起きると思うんです。でもちゃんと未来は見えている。
森田
24時間耐久レース、例によってシンヤさんは?
山本
いますよ、ずっと。寝ない。だって何が起こるかわからないから。
インタビューの2時間後、ル・マン24時間レースを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長が、2026年から水素エンジンのクルマもル・マンで公認すると発表した。
欧州といえばBEVの声が強い。しかし、その欧州の最も伝統的なレースが水素を…。世界の“本音”が聞こえてきたのかもしれない。