「内燃機関は味方」 自動車研究家 山本シンヤ氏インタビュー

2022.06.17

水素エンジンカローラがデビューして、ちょうど1年となった今年のスーパー耐久 富士24時間レース。

この節目となるレースで、トヨタイムズは、ある人物を直撃した。1年前にインタビューを実施した自動車研究家の山本シンヤ氏だ。

昨年は水素エンジンの可能性に期待を寄せ「水素エンジンは夢の扉を開けた」という言葉を残した同氏。

あれから1年、水素エンジンの挑戦と進化を見守ってきて、印象はどう変わったのか?

24時間レースの決勝前に、昨年と同じ場所で、ちょっぴりマイナーチェンジした山本氏に森田京之介記者が話を聞いた。

素性としては余裕しかない

森田記者

1年ぶりに同じ場所ですね。私は同じ格好で、シンヤさんは同じような格好。でも、眼鏡がちょっと違いますか?

山本氏

(今回、水素エンジン)カローラだってGRカローラになっているから、僕もマイナーチェンジ。

2021年422日、トヨタは水素エンジンでレースに出ると発表した。当時、山本氏は水素エンジンがモータースポーツで使われるイメージが湧かず、半信半疑で受け止めていたという。

あれから毎戦欠かさず、サーキットに足を運んで、水素エンジンの挑戦を見守ってきた山本氏の印象はどう変わったのか?

山本氏

もう余裕ですよ。向こうで水素エンジンのメディア試乗会をやっていて、僕も乗ってきたんですが、「ガソリンエンジンよりいいんじゃない?」と思えるくらいのフィーリングだったんです。

それと、今までの水素カローラの戦いを見ていると余裕しか感じないですよ。もちろん24時間何が起こるかわからないけど、素性としては余裕しかないです。

モータースポーツにワークスが参戦。これこそ変化

この1年で水素エンジンカローラは大きな進化を遂げた。出力は約20%、トルクは約30%向上し、ガソリンエンジン車以上の性能を実現。燃費も20%向上し、給水素時間は70%短縮された。

中でも山本氏が注目するポイントはどこか?

山本氏

タイムがすべてではないですが、速さはやっぱり大事だなと。佐々木(雅弘)選手も言ってたんですが、速さがないと、信頼も耐久もないんだと。

まず、極限を究めてから広げていこうという考えですね。

あとは給水素。去年、ここで見ていたら5分半くらい。それが1分半ですね。「なに、この短縮率は…」と。

さらにびっくりしたのが、奥に液体水素カローラが置いてあったじゃないですか。次の引き出しがちゃんとある。

もう一つ、山本氏が指摘したのは「カーボンニュートラルに向けた仲間づくり」。

参加者の顔ぶれには、トヨタ、SUBARU、日産、マツダ、ホンダといったワークスチームが並ぶ。

その多くが、カーボンニュートラルな燃料を使って、レースの現場で未来の技術開発を行っている。

森田記者

1年前のこの水素エンジンカローラがデビューしたときには

山本氏

ある意味、孤高の存在だったじゃないですか。

森田記者

でも、そこからだいぶ景色、意識といろいろ変わった1年でした。

山本氏

この雰囲気が変わったところがすごいですよね。

今までエネルギー危機のときは、モータースポーツは撤退となりやすかったんです。1970年代のオイルショックのときには、ワークスチームがみんないなくなった。

カーボンニュートラルって、ある意味、燃料危機じゃないですか。そうしたら、今度はモータースポーツにワークスが参戦してきた。これこそ変化ですよね。

「モータースポーツなんてやっている場合じゃないでしょ」となりますよ。

水素エンジンがひとつの原単位になって、そこから広がりが出た。そこはすごいと思います。

手段は違えど目的は一緒

去年と違う景色を目の当たりにした山本氏。午後から始まるレースを迎える心境も去年とちょっと違うという。

「本当に大丈夫?」という昨年のドキドキは、「もっといい成績が出るんじゃないか」というプラスのドキドキになった。

去年、水素エンジンを「夢の扉を開けたエンジン」と表現した同氏は、今年、1年たってどんな評価をしているのか?

山本氏

夢の扉を開けたじゃないですか。そうしたら、その扉を他の人がちゃんと通ってくれている。

水素エンジンしかり、カーボンニュートラル燃料しかり、バイオディーゼルしかり。だから全然意味が違うと思います。

1年前、「EV(電気自動車)以外は敵」という論調があったじゃないですか。そこで豊田(章男)社長が「敵は炭素。内燃機関(エンジン)ではない」と言っていました。

今年、この光景を見ていると「内燃機関はカーボンニュートラルの味方」なんですよね。そう思いました。


森田記者

そうすると1年で180°変わっている。

山本氏

本当にそうですよ。風向きが本当にガッと変わった。

森田記者

なんでこんなに変わったんですか?

山本氏

やっぱりそれは夢の扉を開いたからですよ。

今までは誰かが一歩を踏み出すのを待っていたのに、今回は水素エンジンがまず一歩踏み出してくれたから、「実は僕もそう思っていました」と。

でも、結局みんな、目的は一緒でカーボンニュートラルだよねと。手段は違うけれど、目的は一緒。

森田記者

ずっとモリゾウさんが言っていることですね。

山本氏

その背中を押してくれたのが水素エンジンじゃないかな。

水素エンジンによるレース参戦。それを豊田社長はカーボンニュートラル社会の実現に向けた「意志ある情熱と行動」と表現する。

そして、そんな情熱と行動に共感した仲間たちの挑戦で、エンジンを使ったカーボンニュートラルへの選択肢が増えつつある。

1年前とは真逆になった世の中の変化をとらえ、今年も山本氏は水素エンジンが果たした役割を的確に言い表してくれた。

森田記者

今年の24時間でもいろんなことを試して、鍛えて、壊して、直していく。

山本氏

今回はあまり壊れてほしくないですけどね。去年は4時間くらい止まってしまって、本当の意味で24時間走り切ることも一つの証明かなという気がします。

森田記者

今回もよろしくお願いします。24時間耐久で。

山本氏

はい、寝ませんので。

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