今、豊田章男が語る「社長就任14年間で悩み、行動してきたこと」。そして、「これから」のこと。
14 年間かけて整えてきたのは、誰かを幸せにする体力
Q31. ブランドを守るために我々に期待していることは?
ブランドを好きになり、そのブランドで笑顔を増やしてほしいです。
Q32. 代理店創業者から時間を経て、真の意味での「覚悟力」が足りない、親側、子側への指導のあり方は?
苦労してください(会場笑)
Q33. レクサスが電動化 100%を目指す中で、新たに意識すべきことは?
レクサスが2035年に完全BEV(電気自動車)化をすると、レクサスがほしいお客様全員に、レクサスのクルマをお届けすることができなくなるかもしれません。
充電、インフラの制約など、電気が十分にない人が世界には今10億人程度います。つまり、トヨタはグローバルでフルラインの会社でありながら、レクサスの販売地域は限定されることになる。
こういう決断がいずれ問われるという覚悟を持つことが必要です。
Q34. カーボンニュートラル化に向けて、逆風や批判が多くあった中でも、初めからマルチパスウェイを信じ、動いてこれたのはなぜか?
現実を見てきただけです。トヨタも以前はシェアと台数を見ていました。今はもっといいクルマ、町いちばん、自分以外の誰かのために、だと思います。
シェアと台数は結果です。目標にしないでほしいです。結果は大事。結果がないと、体力がなくなります。良いことばっかりやったって誰かを幸せにするには体力が必要。
しかし、それを目標にした瞬間に手段が変わってしまいます。経営層の方はぜひ忘れないでください。
Q35. アフリカがマルチパスウェイを進めていく上で、肝に銘ずべきポイントは?
アフリカでは、クルマは命を運んでいます。その点をぶらさない軸にしてほしいです。
Q36. 商品軸では中南米もダイハツ商品が入るなど、ホームであるアジアとほぼ近くなっている。「各地域はホーム&アウェイでやろう」という言葉に込めた意味は?
アウェイの先はホーム。どっから見るかだけです。そういう意味ではみんなホームです。
Q37. 競合は国の支援をもらっているところもある。我々トヨタはどう戦っていくべきか?
自分たちの力で持続的、自立的にやる方法を考えるために、この14年間で体力を整えてきたのだと思います。私が社長になったときは体力がなかったので、支援に頼る必要もありました。
例えば Woven City は、本来は国レベルのプロジェクトです。それを自前の土地とお金でやっているからこそ、自分たちの未来を作れるのではないでしょうか。
トヨタは、自立的に持続性のある形でモノづくり、商品づくりをやっていきたい。そうしないと自分が社長になったときのように、全部刈り取られた状態で次にバトンタッチしないといけなくなります。
Q38. 商品、モータースポーツ、Woven などたくさんの種をまいていただきました。まだ心の中で留めている種があればぜひ教えてほしい。
種はいろいろあるんです。昔、種まきした後に中国プロジェクトから外れました。そのときに何と言われたか。「うまくいったら育て方がうまい、失敗したら種が悪いと言われるぞ」と。
私が会長であるトヨタでは、そういうことを言わせたくないです。まく人・育てる人・収穫する人がいるなかで、みんな誰かに感謝してほしい。
種をまいたから育てられる、育てたから収穫できる、収穫したらゴールじゃなくて、また次への種まきへのサイクルを回す。「今はそのサイクルができているか?」と考えていただきたい。
Q39. フィリピン35周年記念式典のイベントで司会者から「あなたにとってGRとは何ですか?」と聞かれたときに、「Revolution!」答えた意味は?
これは友山(茂樹 国内販売事業本部長)に聞いてもらった方がいいですね。
GRは今でこそレーシングブランド的になりましたが、私たちが30代で始めたときは、「本当にトヨタは大丈夫か?」と生意気にも思っていました。
会社方針も大事ですが、誰かに害を与えない、迷惑をかけないといった当たり前のことは会社の言うことを聞くとして、もっといいクルマのためには、もっとお客様の笑顔を取るためには、誰でも発言をする機会をフェアに与えてほしいです。
これを聞いた皆さんは、今日から、明日から、どこでも、自由に皆さんの考えを言ってください。
Q40. 新興国のモータースポーツ活動でやるべきことは?
FUN TO DRIVE。どれだけの笑顔を得られるかということだと思います。
大きな拍手。笑顔で写真に収まる豊田。いつもの光景だ。あの足音は何だったのだろうか。
40の質問に答える前に、豊田はこのように語っていた。
「私の社長就任は『あなたにはできないでしょ』『責任を取って早くやめなさい』と言われるスタートでした。そのときから、皆さんと同じ人間である豊田章男がどう悩み、どう行動し、トヨタの思想と技と所作を整理してきたのか。皆さんに伝えたい」
今回の回答の中で、特に強い語気を感じたことが2つあった。「14年かけて変えてきたトヨタが、かつてのトヨタに戻ろうとしている」「皆がそれに気づく前に食い止めなければならない」。
だから、自分自身で伝えなければならない。その気持ちが、あの足音の正体かもしれない。
「豊田章男塾」。豊田が始めた「トヨタらしさを取り戻す闘い」の第2章はすでに始まっている。