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豊田章男への40の質問 「トヨタが普通の会社に戻るという恐怖が常にある」

2023.11.07

今、豊田章男が語る「社長就任14年間で悩み、行動してきたこと」。そして、「これから」のこと。

私は捨てられた人間だから、誰ひとり捨てたくない

Q11. 次世代のためときには工場閉鎖の決断もされた。現場メンバーに温かいコメントをくれた。その強さとやさしさの源泉は?

ひとことLOVEです。ベースにLOVEがあるんです。公聴会でもトヨタ自動車へのLOVEがあったからこそ、それを感じて応援してくれる人がいて、生き残ったんだと思います。


Q12.
生産撤退にあたり、従業員・ステークホルダー・ブランドを守るという軸で判断されてきたと思います。曲げてはいけない軸・大切にしている考えは?

大変でした。一番考えたのはクルマLOVEとフェアネスです。

世界中でクルマの販売はやっていただいていますが、生産と開発をやる地域は限られています。どこで生産開発しても Made by Toyota の観点がないとお客様に対してノットフェアだと思います。

Made by Toyota at ○○ region ということだと思います。Made by Toyotaに私はこだわりたい。


Q13.
迅速な「決断」ができる秘訣は?

自分が責任者だからです。責任を取る覚悟があるから、すぐ決められます。

覚悟がなくて誰かのせいと思っていれば決まらないと思います。公聴会も辞めればいいという覚悟を持っていました。


Q14.
公聴会前のエピソードで「一日一回笑うことを仕事にした」と聞いた。大きな決断を迎える際の一貫した習慣や心の持ち方は?

公聴会では初めてトヨタの役に立てると思いました。社長は終わるけど、初めてトヨタに必要な仕事ができるという喜びだったんです。

これまでの人生、「あなたは特別」「あなたはできない」といつもレッテルを貼られていましたので。

大げさに言うと、死ぬときには笑っていたいと思って、一日一回笑うことにしました。どうせ辞めるんだから最後は笑おうという感覚でいました。

ただ、寝ると公聴会での質問が頭に浮かぶんです。いい答えが浮かんだなというときは、メモ帳に書き留めていくんです。そのメモで臨みました。

笑っていたからできたんじゃないかなと思います。知らないから責任取らないではないんです。

私自身、トヨタ自動車に何度も捨てられてきたので、自分が社長になった以上は「誰ひとり捨てたくない」というのがぶれない軸です。


Q15.
危機対応におけるトップの役割、大切にしてきたことは?

決断、覚悟、責任です。


Q16.
南アフリカの洪水対応のとき、①従業員の安全、②周辺地域の復旧、③自分たちの生産事業という優先順位を付けた背景やエピソードは?

基本動作です。洪水だからではなく、危機対応の順番はいつもこれです。その前に、まずは事実確認からです。

ただ、事実確認というのは、ボトムアップでは都合のいい情報しか出してこない場合があるので、組織を超えた信頼できる「マイピープル」に事実確認を任せます。

事実があれば、手を打てます。そうすると部隊が動きやすくなる。安全確保、周辺地域の復旧、その次に生産再開です。

Q17. 危機につながる Bad News について、過去と比べて社内から上がってくる情報と世間とのギャップは?

まだ駄目ですね。変わってないです。当時は米国内と日本国内で3カ月くらいギャップがありました。今も似たようなものです。

ただ、最近ではトップをはじめとしたコミュニケーションの頻度が変わりました。コロナ禍でオンラインで結ぶようになり、ある程度の最新情報が入るので初動は早くなりましたが、トップまで上がってくるスピードまでは分かりません。


Q18. 2021年に米国で初のシェアNo.1を獲得しました。約10年前にフォードのシェアを上回ったときに比べてネガディブ報道がありませんでした。この10年間の違いをどのように考えているか?

以前はトヨタだけが良ければいいというようなアナウンスをしていました。今は、各州をまわり、販売店と毎日会話をして(なにか異変があれば気づける)脈診のような活動をしている。単に売れた台数ではなく、悩みを相談する仕組みができあがっています。

「トヨタだけが良ければよいでは駄目だよね」というカルチャーができあがっているから今回はバッシングがなかったと思っています。この点は北米トヨタに感謝したいです。


Q19. 独立系パートナーに期待していることは?

私との会話です。中間管理職をかませずに、直接のコミュニケーションをとるように、お互いが努力したほうが良いと思います。


Q20. トヨタの事業の誘致・進出を求める国とどのように相談していくべきか?

「誰のために」ということだと思います。

政治家の名声のために、では優先順位は高まりません。私が14年間で主権を現場に戻したように、トヨタはそういう会社であり続けてほしいと思います。

政治のプレッシャーでどうこうするではなく、それによって雇用を増やす、お金が還元できる、トヨタのモビリティを投入することで移動の自由が生まれるのか、どんな命を運ぶのか、そういったことが大事です。

トヨタが普通の会社に戻る恐怖が私にはある。多くの人が感じたら Too Late

Q21. インドでは「日本の自動車関係は(スズキの)鈴木修さんと話をするからトヨタはいいよ」と言われることがあります。関係づくりを進めていく上で大切なことは?

まずは鈴木修さんがやってきたことに興味を持つこと。あの方には実績があり、信頼があります。だから発言に共感が生まれ、動こうと決まったらすぐ動くんです。それなしに、修さんみたいになろうと思うのは甘いですね。


Q22.
ステークホルダーとの関係において、特にその利害関係が短期的には相反するような場合の対処方法は?

短期的か長期的かは分かりませんが、私自身、あまり相反したことがないです。

例えば高く売りたいサプライヤーと安く買いたいトヨタ。相反すると言いますが、もっといいクルマをつくりたいという共通のベースがあるんです。

大事なのは、商品の魅力、品質、適切な価格です。高く売りたい、安く買いたいでなく、適正価格。トヨタは B to C なので最後はお客様が負担するんです。お客さん目線で適性かを議論すれば、利害関係はないと思います。目的は何かを考えるべきです。

Q23. 他業種との人的交流が盛んになっている。トヨタの企業文化を理解してもらい、共に会社の成長に貢献していくための心構えは?

相手をリスペクトすることです。向こうの企業文化に興味を持つことではないでしょうか。興味を持つ相手には会話が始まります。

未来づくりは一社でできない。一つの産業でもできない。未来を一緒に作ろう、クルマで未来を変えようとなった瞬間、他業種を巻き込む必要があるので、そういう形になると思います。


Q24.
長年、中国を見てきた会長が対立軸を作らないで絆を深めるヒントは?

チャイナLOVEです。


Q25.
誰かのためを考えるとき、例えば「タイ国民6700万人のため」など、どうすれば大きなスケールで考えられるのか?

タイLOVEです。愛がなかったらできません。


Q26.
次世代の海外のリーダーに意識してほしいことは?

今の大人がどういう姿を見せるかです。次世代と言う前に、子は親のやることしかやりません。親がまず未来のために動く、自分以外のために動く姿を見せていけば、次の世代もやりますから。

反対に今の大人が自分のことや意見ばっかり主張して、自分はそんなに偉いのかという姿を見せると、必ず次世代のリーダーはそうなります。私もそういうリーダーのことも見てきました。

私には「創業メンバーの無念を晴らしたい」という気持ちがあります。そう言うと「あなたは創業家だからでしょう」とも思われるのですが、創業者だけでなく「創業メンバー」の無念です。

クルマは一人ではつくれません。喜一郎にも仲間がいました。そういう仲間に報いる。一人のヒーローではなくみんなの会社。そういう勘違いをさせないような雰囲気づくりが大事だと思います。

トヨタが普通の会社に戻るのではないかという恐怖が常にあります。多くの人が恐怖を感じたときには Too Late。

社長の肩書を持ってしても、トヨタが変わるのに14年かかりましたが、戻るのはあっという間です。


Q27. 新興国での人材育成、養成校を目指し南アでも Toyota Academy を開講した。これまでおもしろいと思った育成の仕方があれば教えてほしい。

日本のトヨタアカデミー(トヨタ工業学園)を見学された方が良い。北海道で芋ほりしたり、地域で清掃したり、人間教育をやっています。

知識や技のみでなく、人間としての優先事項です。カリキュラムではなく原体験で学ぶこと。ごっこのセミナーでなく、実際に活動先の方たちに相手にされるかどうかからスタートです。


Q28.
若い頃の自分にメッセージを送ることができるなら、どのようなアドバイスするか?

「まだいじめられてる? でも仲間も多いでしょう?」ですね。私はいじめられの人生ですから。「やる気失ってない? でも仲間できたかな?」という言葉を送ってあげたい。


Q29.
幸せの量産という経営コンセプトで、後進となる幹部の育成について、どのような観点で評価、育成してきたのか?

それは皆さん、ご自分で考えてください(会場笑)

Q30. なぜ、ここまで労力と時間を使って豊田章男塾をやるのか?

他の人に任せては、結局、私の人間的なことは説明してくれないんです。だからこういう時間を割くようにしてきました。

恩着せがましく言うわけではないですが、実は今日はここ最近で唯一のホリデイだったんですよ。相当ハードですが、ここで休まないといけない日。

でも皆さんがせっかく来られるなら、という気持ちでやってます。トヨタを普通の会社に戻したくないからです。

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