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評価ドライバーの凄すぎる感知能力が、クルマづくりを変える?

2024.12.10

4つのボディバリエーションからなる16代目クラウン。今回はクラウン スポーツの評価ドライバーとエンジニアに密着!クラウンだからこそ、譲れない味づくりとは。

4つのボディタイプを展開する16代目クラウン。それぞれのモデルは、クラウンネス(=“静粛性” “快適性” “上質さ”)と称される、歴代クラウンによって培われてきた乗り味が追求されている。その一方で、それぞれのモデルには各ボディタイプならではの異なるキャラクターも与えられている。

こうしたクルマの乗り味づくりで重要な役割を果たすのが、評価ドライバーだ。トヨタイムズでは、クルマの乗り味がいかにつくられるのかを明らかにすべく、クラウン シリーズ各モデルの開発に携わった評価ドライバーとエンジニアを取材。今回は、スポーツにおける“乗り味づくりの現場”に迫る。

クラウンである以上守らなければいけないもの

俊敏でスポーティな走りが楽しめる「新しいカタチのスポーツSUV」として登場したクラウン スポーツ。

上質でありながら俊敏な走りのクラウン スポーツ

「見て、乗って、走って、高揚感を感じていただけるようなクルマを目指して開発しました」

そう語るのは、クラウン スポーツの製品企画主査を務めた本間裕二だ。

本間

入社当時は、シャシー設計にてレクサスGSやRXのサスペンション、パワーステアリングの設計を担当。現在は16代目クラウンの開発主査として車両全体の開発の取りまとめを担当

コアなスポーツではなく、シニアの方から女性まで皆さんに楽しんでいただけるスポーツに仕上げたいと考えました。

街乗りでは快適に移動できて、いざワインディングロードに行くとキビキビとした走りを楽しめる、そんなクルマを目指しました。

クラウンシリーズにおけるシャシーの性能設計開発リーダーを務めたMSプラットフォーム開発部のエンジニア、松宮真一郎。先行して開発したクロスオーバーの仕上がりが良かったため、そこをスポーツとして超えるのはハードルが高いと感じたと、開発当初を振り返る。

松宮

2020年からクラウンシリーズを担当。サスペンション開発とシャシー制御開発を行う、エンジニア

まずクロスオーバーをベースにホイールベースを短縮した先行開発車で、硬いスプリングや太いスタビライザーを付けて、それに合わせてダンパーをチューニングした仕様をつくり、評価ドライバーの片山さんと話し合いながら、スポーツの方向性を探っていきました。

そのときに「単純に足まわりをハードにしたクルマは、クラウンじゃない」とはっきり言われてしまいました。

新型クラウンシリーズ全体の開発支援に携わった評価ドライバーで、凄腕技能養成部に籍を置く片山智之は、「クラウンである以上、絶対に守らなければいけないものがある」と語る。

片山

2016年にはドライバーとしてニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦するなど、モータースポーツの現場でも運転技能の向上や“もっといいクルマづくり”に尽力している、評価ドライバー

クロスオーバーでも同様ですが、走り出しから20km/hくらいまでの上質で滑らかな乗り味です。スポーツを名乗るモデルだとしても、クラウンである以上、そこはこだわらなければいけないと、開発チームのメンバーに話しました。

メンバーは、片山から指摘された走り出しの質感の追求とともに「スポーツとしての走りの味をどう表現するか?」というテーマに取り組んだ。

操縦安定性や乗り心地の開発に従事したTC車両性能開発部のエンジニア、寺尾京真も乗り味の方向性を検討するうえで、「スポーツ」という車名に引っ張られたという。

寺尾

2020年からカムリやクラウンシリーズを担当。スポーツの開発ではボデー剛性や操安乗心地の実験・評価に従事するエンジニア

スポーティな走りを重視して仕上げたのだが、片山さんからは走り出しの質感と同様、クラウンとしては乗り味が雑だというフィードバックをいただきました。

松宮

クラウンである以上、上質で快適な乗り味は譲れません。走りの上質感を実現するためには、細かな路面の凹凸をしなやかにいなすサスペンションが必要です。

では、どうしたらスポーツらしい俊敏な走りと、しなやかさを両立できるのかをメンバーで検討し、単なる速さではなく運転する楽しさを追求する方向を目指そうという結論に達しました。

このときに「硬いだけがスポーツじゃない」というキーワードに行き着きました。

片山とともにクラウン スポーツならではの乗り味づくりに携わった車種担当の評価ドライバー。左から伊藤竜平、山﨑碧

開発メンバーはパーツ構成やバルブの板厚が異なるショックアブソーバーを何十パターンとテストしながら、最適な仕様を探った。最終的にはショックアブソーバーの使い方を工夫することで、イメージした乗り味を実現できたという。

松宮

ショックアブソーバーは複数のバルブを組み合わせて減衰力を変化させますが動き出し部分の減衰は高く設定し、その先は少し緩めて、さらに大きく動いた時は減衰を高めてしっかりクルマの動きを受け止めます。

クラウンに相応しいスポーツセッティングを模索する中で片山さんからのフィードバックをもとにチューナーの方と一緒につくり込んだ結果、そういった設定に行き着きました。

たった300gの違いにこだわるクルマづくり

先行開発車には、上質な乗り心地以外にも気になる点があった。それは、サスペンションの前後バランスだ。

片山

フロントのサスペンションが少々張りすぎていると感じました。クルマはアクセルをぬいたり、ブレーキを踏むとフロントタイヤに荷重が移動し、それによってドライバーが思った通りに気持ち良く曲がることができます。

先行開発車は、サーキットでのコーナリングのようにブレーキを強く踏んで高い制動Gを出す場合は問題ありませんでした。

ただ、街乗りでアクセルオフから軽くブレーキを踏んで交差点を曲がるような状況では、フロントサスペンションが突っ張って前輪に荷重がかかり難く、ドライバーがイメージしたラインより外側にふくらんでいってしまいます。

スポーツといえども、タウンスピードの領域でもドライバーが意図した通りに気持ち良く前後に荷重移動できる、そんなクルマに仕上げたいと思いました。

車種担当評価ドライバーのリーダーを務めた塚田正男(右)。入社以来、先行開発を担当。2019年に車両技術開発部(DTG)へ異動し、カムリ・RAV4・ハリアー・クラウンスポーツなどの車種担当を担う

コーナリングには、“走る・曲がる・止まる”というクルマのすべての機能が関わる。そこで、シャシーやサスペンションのメンバーだけではなく、アクセルやブレーキ性能に携わるメンバーも一緒になり、片山のイメージする走りを実現すべくチューニングを重ねたという。

本間

かつては、操縦安定性の担当者は操縦安定性のみを、動力性能の担当者は動力性能のみを見る、といった具合に機能軸で組織が分かれていました。

しかし、それでは “走る・曲がる・止まるという性能を全体として最適化するのが難しい。

そこで現在は“クルマ軸”という観点で組織を編成していて、動的性能に関わるメンバーが1つのグループとして協力しながら開発を進めています。

ところで、開発陣がいかに細部にまでこだわりながらクルマづくりに励んでいるのかが分かる、興味深いエピソードがある。

フロントサスペンションが突っ張る現象に対してショックアブソーバーのチューニングを重ねた結果、片山がOKを出した仕様とNGを出した仕様の減衰力の差は、わずか3ニュートンだったという。

松宮

3ニュートンを分かりやすく説明すると、車重が1800kgのクルマに対してたった300g分です。

ショックアブソーバーが動いたときに突っ張る力を3ニュートン下げることで、クルマの挙動がまったく違ってくるのです。

3ニュートンとは、線図で表すと重なってしまうほど小さな数値だ。だが、この小さな数値の世界をエンジニアが体感し理解することで、片山たち評価ドライバーとのコミュニケーションが深まり、それが「もっといいクルマづくり」につながるという。

「新しいカタチのスポーツSUV」を目指して開発されたクラウン スポーツ。こうした、評価ドライバーによる官能評価を最大限に活かした開発が、トヨタのクルマづくりの現場に着実に浸透しているのだ。

次回はセダンの味づくりについて。上質な乗り味を体現するためにこだわったことが、次々と明らかに…。

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