クルマ好きを惹きつけてやまないエンジンの音。トヨタの音づくりはいかにして始まったのか。音づくりの変遷をたどる。
トヨタイムズの連載なのにこれまでSUBARU、マツダと他メーカーのサウンドばかり。トヨタは語られないのか。そうヤキモキされている皆さま、お待たせしました。
今回以降、トヨタの音づくりについて取り上げていきたい。
トヨタ自動車にはTOYOTAとGAZOO Racing(GR)、LEXUSブランドがある。以前、アメリカでScionというブランドもあったが、現在は3ブランド。連載では、ブランドを越えてトヨタとして取り上げていきたい。
好みは人それぞれだが、トヨタのエンジンサウンドというと第3回でも名前があがったLEXUS LFAの音を思い起こす人が多いのではないだろうか。
LFAは2009年10月東京モーターショーで「ブォーンブォーン」と突き抜けるような高音のエンジン音を轟かせ、その姿を現した。そしてクルマの中から豊田章男社長(当時)が現れこう語った。
豊田社長(当時)
LFAには私自身も開発初期の段階からその味づくりに参加してまいりました。私が思うLEXUSの究極とは、本物を知り尽くした人が最後に求める味、ひとたびその味を知ったら、その付き合いは一生ものになる。
そんな上品で魅力的な味をこのLFAにつくり込んでまいりました。同時にLFAの開発で限界まで挑戦するということは、どんなに時代がかわろうとも技術・技能を伝承し、昇華させていくというクルマづくりの本質に通じるものがあると思っております。
その当時もてる最高の技術を結集し、運転する楽しさがもたらす「感動・官能」を極限まで追求したクルマ。美しいエンジンサウンドにもとことんこだわり、音の専門であるヤマハに協力を仰ぐなど、これまでにないエンジン開発にもチャレンジした。
アクセルペダルの踏み込み具合によって変わる、後方からの排気音と前方からの吸気音の絶妙なハーモニーをドライバーはまるで指揮者のようにサウンドをコントロールする楽しさを実現したLFA。
ここで改めて、天使の咆哮と言われるLFAのサウンドをお楽しみいただきたい。
LFAの音を語る前に、それまでの歴史をひも解いていこう。
音を消すことが出発点
トヨタのエンジンサウンドがどのようにつくり込まれてきたのか。
音づくりに携わる技術者に話を聞いた。その一人、レクサス性能開発部感性性能開発室 佐野真一主任によれば、音づくりの出発点は1980年代の静粛性を追求したクルマづくり——サウンドを出すのではなく、いかに音を消すかという取り組みにあるという。
佐野主任
NVH(Noise ,Vibration, Harshness:騒音、振動、衝撃音)という表現がされ始めたのが80年代頃です。1989年に発売された初代LEXUS LSは静粛性を追求し、世界中を驚かせました。
それを実現したのが極めてバランスのいいV8エンジン。エンジンの駆動力をダイレクトにタイヤに伝達し余計な振動を発生させない構造にするという初代LS開発責任者の鈴木一郎主査の思想のもとできたエンジンでした。
一方で初代LSの開発をしていた頃、「静かにするだけではなく、不快な音を消して心地よい音だけを残そう」という取り組みが始まっていたことが資料として残っています。
また、エンジン回転数に応じてつくった合成音を発生するサウンドシミュレータも80年代前半には開発されたが、まだクルマに搭載できるサイズではないためサウンドシミュレート室が新設され、そこで音の確認をしていました。
それから80年代後半、だいぶ小型になったと言ってもトランクの大半を占める大きさのシミュレータをセンチュリーに搭載しMR2から合成した音を鳴らすなどの実験をしたという資料が残っていました。そこには「振動や乗り心地とマッチしない音は非常に違和感があった」ことからそのクルマごとにふさわしい音質があると記述がありました。
ただし、この時点ではまだいいエンジンサウンドをつくるという方向に完全に向かっていたわけではありません。ノイズの中でも特に低音のノイズを抑え込む手段は質量しかないのですが、軽量化が求められていく中で、いかに静かなクルマをつくれるかというせめぎ合いに奮闘していた頃です。