4つのボディバリエーションからなる16代目クラウン。トヨタならではの乗り味が生まれる現場に潜入!開発秘話が明らかに...。
歴代モデルに継承されてきた “クラウンネス”
4つのモデルはそれぞれ異なるボディタイプでありながらも、クラウンとして共通の“乗り味”が実現されている。歴代モデルによって培われ、継承・進化がされてきた「クラウンネス」=“静粛性” “快適性” “上質さ”だ。
こうしたクルマの味づくりで重要な役割を果たすのが、評価ドライバーだ。彼らはデータにも表れないわずかな違いを感知する能力を駆使し、開発車両のテストを実施。
一方、エンジニアは評価ドライバーから得られるフィードバック、いわゆる官能評価を基にエンジニアリングを行い、開発車両を進化させる。この評価ドライバーとエンジニアによる共創が、「もっといいクルマづくり」には不可欠となる。
トヨタイムズでは、評価ドライバーとエンジニアが、クラウンシリーズ各モデルの乗り味づくりにいかに取り組んできたかを明らかにすべく、開発に携わった関係者を取材。今回は、クロスオーバーの“乗り味づくりの現場”に迫る。
心を動かしたプレゼンテーション
16代目クラウンとして最初に企画された「クロスオーバー」。「“セダン”と“SUV”の融合」と謳われる同車は、リフトアップしたボディと最大21インチの大径タイヤを採用しているのが特徴。まさに新しい時代のクラウンを象徴するモデルだ。
凄腕技能養成部 FDチーム 片山智之
クロスオーバーの開発がスタートするタイミングで、当時プロジェクト責任者だった皿田(明弘)CEと、プラットフォーム開発責任者の米田(啓一)主査が、プレゼンテーションのために凄腕技能養成部を訪れてきたんです。通常はそのようなことはないので、驚いたのを覚えています。
そう語る凄腕技能養成部の片山は、トヨタ社内でも十数人しかいない「匠」の称号を与えられた、文字通り“凄腕技能”の持ち主だ。すべての開発車両の運動性能に関する最終的な監査を行うFDチームに所属している。
2016年にはドライバーとしてニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦するなど、モータースポーツの現場でも運転技能の向上や“もっといいクルマづくり”に尽力している。
クラウンの開発には、1991年に発表された9代目から携わってきた。16代目についても、現場で運動性能の開発を行う車種担当評価ドライバーに対し、方向性を示しながら最終確認を行うなど、すべてのモデルでの運動性能を監修。いわばクラウンマイスターともいえる評価ドライバーだ。
MS製品企画 米田啓一
クラウンは長い歴史を誇るトヨタの基幹車種です。トヨタのフラッグシップであるクラウンには、お客様の期待も大きいです。
しかも、今回は大変チャレンジングな短い開発期間のなかで、プラットフォームをTNGAの既存のものをベースに新開発する必要がありました。それには優れた評価ドライバーの力が不可欠です。そこで、まず凄腕技能養成部を訪ねたんです。
クロスオーバーとはいえ、クラウンを名乗る以上、上質さや快適性といったクラウンネスはしっかり継承しなければいけないです。とはいえ、今回のクラウンはグローバルモデルということもあり、高速安定性も非常に重要でした。凄腕技能養成部には、そのような話をしたことを覚えています。
片山と米田は評価ドライバーとエンジニアとして、レクサスのスーパースポーツカー「LFA」の開発でタッグを組んだこともあり、長い間さまざまな開発を行ってきた旧知の間柄だ。
15代目はドイツのニュルブルクリンクで走りを鍛えて、少しスポーティな方向に振ったが、従来のクラウンならではの乗り味を復活させたいのだと、プレゼンテーションを聞いて、片山は感じ取ったという。
クラウンといえば初代から一貫してFRレイアウトを採用するセダンでしたが、今回はリフトアップしたスタイルということで、プラットフォームを刷新する必要がありました。
そこで、エンジニアと我々、評価ドライバーが新しいクラウンの方向性について認識をしっかりと擦り合わせる必要がありました。米田さんたちがプレゼンテーションに来てくれたのも、そのためだと思いました。
先行開発車から見えた課題
まずプロジェクトチームは、先行開発車を製作することから開発をスタートさせた。同様のプラットフォームを採用しているレクサスESをベースに、車両のリフトアップや、新開発のマルチリンク式リアサスペンション、DRSを搭載したものだった。
操縦安定性の開発を担当したMS制御開発部のエンジニア、太田健一は先行開発車についてこう話す。
太田
大径タイヤを履くことで車高が高くなると、重心の位置も上がります。クロスオーバーの重心高はちょうどセダンとSUVの中間くらいなのですが、これがクラウンならではの走りを実現するうえでネックになるだろうと感じました。
従来のクラウンのようなFRセダンの利点として、回頭性とライントレース性の良さ、優れた操縦安定性と乗り心地の両立などがあげられます。
一方、今回のクロスオーバーでは重心高が高まる分、コーナリング時に車体がふられやすくなります。それを抑えるためにサスペンションをハードにすると、クラウンネスの上質な乗り味が損なわれてしまいます。そこが課題だと感じました。
太田とともに操縦安定性・乗り心地開発を担当したMS車両性能開発部(当時)のエンジニア、東浦諒は新たなプラットフォームのボディ剛性不足を指摘する。
東浦
ボディ剛性が高いとボディ自体のたわみや振動が抑えられ、サスペンションもしなやかに動かせられるので、乗り心地も良くなります。
先行開発車については、片山さんをはじめとする評価ドライバーから特にリアまわりのボディ剛性の低さを指摘されました。クラウンならではの上質な乗り味を実現するために、対策が必要でした。
片山
ベースとなるプラットフォームはRAV4やハリアーにも採用されているのですが、ハリアーに対してクラウンがどう位置づけられるかが重要なポイントでした。当初の先行開発車では、操縦安定性でも上質な乗り味という点でも、クラウンの後継モデルとして厳しいのではと感じました。
ボディの剛性不足については、評価ドライバー片山たちのフィードバックをもとに、ボディのどの部分にブレース(補強材)を加えるのが効果的か、設計検討とテスト走行を重ね、解消していった。
開発を進めていく中で、クルマがまっすぐ走らないという壁にもぶち当たった。一体、どういうことなのか。