トヨタの会議室で「みんなが泣いた」500回の検証から、障がい児用車いすを後ろ向きにした理由

2024.11.28

運転中、車内にいる子どもの命の危機を感じて冷や汗をかいて停車場所を探す。そんな悩みを受け、トヨタではあるバギーの開発を急いでいる。

トヨタの新規事業創出プログラム。その最終審査会で、審査員全員が涙を流した取り組みを紹介する。これは福祉モビリティの話を超えた、家族愛のストーリーでもある。

夜中のアラーム、早朝の投薬。寝れない…

「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちをご存じでしょうか。

生まれたときから長期入院を余儀なくされ、退院後も痰が詰まって呼吸困難にならないように家族が24時間ケアをする。全国におよそ2万人いるとされ、この10年で倍増しているという。

新事業企画部、後藤太一主幹はこう語る。

新事業企画部 後藤主幹

私の息子も先天性の難病を持って生まれ、出生から1年半、一度も家に帰れず集中治療室で過ごし、その後、呼吸器を付けた状態で在宅ケアが始まりました。

在宅ケアは本当に過酷で、呼吸器が外れないよう常にチェック、痰が詰まらないように15~30分ごとに吸引が必要。夜中は栄養注入や機器のアラート、早朝には投薬。

まともに寝れない。こんな世界があるんだと驚きました。

でもそんな中でも、親として他の子たちと同じように育ててあげたい。公園で遊んだり買い物に行ったり、人生を楽しんで欲しい。

後藤は、息子とのお出かけでいくつもの幸せな思い出ができたという

でも、多くの医療機器や酸素ボンベ、ケアに必要な荷物を積んでの移動なので気軽に外出できない。移動できないってここまで辛いのかと痛感しました。

障がいのある子どもたちは、バスで特別支援学校に通うことが多い。しかし医療的ケア児はそのバスにも乗れないことがあるという。

通学バスに乗るには看護師の同乗が必要。だが看護師が足りないため、睡眠不足の親が子どものケアのタイミングを気にしながら送迎しているのが実態だ。

「運転中、痰が詰まって呼吸困難となりモニターのアラートが鳴るなかで、冷や汗をかきながら停車場所を探します」。

そう語るのは宮城県在住の高橋邦子さん。重症仮死で生まれ、脳性麻痺で寝たきりの幸太郎さんを大切に育ててきた。

介護者の大半は母親であり、その介護負荷はあまりにも大きい。慢性的な睡眠不足、過酷なケアが数十年も続くことへの強い不安、緊張が連続する日々…

子どもから離れられないため多くの親は働きに出ることも難しく、なんと40.8%もの家族がわずか5分以上でも目を離すことができないと答えている*。
*2020年 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」より

呼吸困難になっていても気づきづらい

医療的ケア児は、移動する際にバギーに乗ることが多い。人工呼吸器など医療機器を積める大きなベビーカーのような乗り物だ。

そのバギーをクルマの後席に載せて移動するのだが、運転中、後席に横たわった子どもの様子を確認することは難しい。痰が詰まって呼吸困難になるリスクがあるにも関わらず、現状は解決するソリューションがないのだ。

呼吸困難になる可能性があるにも関わらず、運転席からは様子がわかりづらい

そこでトヨタでは、あるバギーの開発を急いでいる。下記画像を見ていただきたい。車内でのバギーの向きを前後反転させていることが大きな特徴だ。

バギーの開発だけでなく、それを積む車両の改造も必要だが、運転席から子どもの様子に気づけ、停車後に医療的ケアを行うことも可能。

開発にあたっては全国のご家族や医療関係者、公共交通機関や行政などに500回以上のヒアリングを実施。幸太郎さんのケアを続ける高橋さんはこう語る。

高橋邦子さん

小さい頃は、運転席から様子がわかりやすいように抱っこしてクルマの助手席に乗せていましたが、いまは体重が30kg。4年前に転んで落としてしまってからは、出かけることはめっきり減りました。楽しむために外出することは、今はありません。

このバギーがあれば「家族でのお出かけも考えられるかも」と期待を寄せる。

しかし開発はそう簡単に進まなかったそうだ…

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