日本の8割もの路線バスが減便や廃止を検討...。そんなデータもあるなかで限界集落の人たちの移動はどうなるのか
利用者が増えなかった理由。それは「ちあバスを積極的に利用すると路線バスの廃止が確定してしまうかも?」という住民たちの懸念だ。
また、当初は予約制になっており、前日の16時までに横手市役所に電話をして、名前と年齢を伝えないといけないこともネックになっていた。
狙半内共助運営体 会長 奥山良治さん
この辺の住人は、市役所に対して敷居が高いイメージがあるんですよ。役所に電話するときは標準語を喋らないといけないという意識も。言葉が通じないから気軽に電話もできないですよ。
そこで、奥山会長の自宅の電話や携帯電話にかければ直接予約できる仕組みに変更。さらに予約制から定期便に変えることで「いつ乗れるか」も分かりやすくした。すると利用者は徐々に増えていったという。
車載カメラを設置しない理由
2018年10月に路線バスは廃止。地域の足の一本化が決まったという。路線バス時代から赤字は半減し、ドアtoドアで移動できるなどお客様の嬉しさは増えることとなった。
ドライバーの働きやすさにも配慮。監視されているような居心地の悪さをなくすため、車載カメラは設置していない。それらの配慮もあって新規ドライバーは増加。過疎地でシニアの活躍の場が広がった。
今では全国10自治体20路線まで拡大した「ちあバス」。しかし、鉄道や路線バスが赤字路線を次々廃止するなか、トヨタの試算では交通空白地域で「ちあバス」が必要とされる場所は約1万路線もあるという。
ところが、過疎地交通は儲けを期待しづらく参入企業も少ない。誰かが本気で向き合わないと、移動できずに苦しむ方々が日本中で増え続けていく。
だからこそトヨタは慈善事業ではなく、持続的なビジネスにするための可能性を探っているのだが、自治体目線でこのようなヒントが語られた。
横手市役所 経営企画課 鈴木愛美主任
地域の取り組みは、行政が入り込みすぎてもうまくいかないこともあります。狙半内地区のように、自分たちで解決しようという土壌があることで持続的な取り組みになるように感じます。
トヨタの関係者はこんなストーリーも紹介してくれた。
CV統括部 川口靖プロフェッショナル・パートナー
運行ルートの終点に暮らすお婆さんは、亡くなられる前に「生きている間にこんな山奥までバスが来るとは思わなかった。ここに住み続けられたのはこのバスのおかげ」と言ってくださいました。この取り組みを進めて本当に良かったと心から思えました。
クルマが走ることも難しい豪雪地帯のいちばん奥地。ちあバスはそんな場所に希望も届けていたのだ。
車両メンテナンスなどサービス面で支援を続けている秋田トヨペットの代表取締役社長、伊藤哲充は「モビリティの原点」に気づけたと話す。
秋田トヨペット 伊藤社長
集落同士の交流が生まれたり、町から集落への観光客も増えたり、移動手段以上のものが生まれました。住んでいる方々が元気になっていく様子も見えたんです。これが「モビリティの原点」だと気づかされました。
さらにこう続ける。
秋田トヨペット 伊藤社長
モビリティは「デジタルを使わないといけない」と思っていました。でもそれだけじゃなかった。移動が便利になると町の人たちが元気になる。便利になると空いた時間を別のことにも使える。これがモビリティの本質なんだと思います。
CV統括部 榊原伸之グループ長
デジタルありきじゃなく、今すぐできることをやる。2017年6月に皆さんにお話をして11月には実証実験がスタート。これは驚異的なスピードですし、その仕組みを雨の日も雪の日も今日まで回し続けている。
皆さんの熱量や結束力があってこそで、改めてやってみること、やり続けることの重要性を感じました。
狙半内共助運営体 会長 奥山良治さん
移動手段が確保されたことで、地域の方たちから「本当にありがたい」と言ってもらえました。80歳代の親を病院に連れて行くために会社を休む人もいたので、若い世代にも感謝してもらえた。それが心の支えです。
行けなかった場所に行ける。できなかったことができる。これほど分かりやすい幸せはないかもしれない。今日も、あらゆる人の想いを乗せ、ちあバスは走り続ける。