日本の8割もの路線バスが減便や廃止を検討...。そんなデータもあるなかで限界集落の人たちの移動はどうなるのか
「福祉」という言葉の意味をご存じでしょうか。
辞書で調べると「幸福・幸せ」という意味。幸せの量産をミッションとするトヨタにとって福祉領域は欠かせないテーマだ。
トヨタの福祉関連の取り組みをシリーズで紹介するこの企画。第一回は、路線バス廃止に揺れる過疎地域に新たな移動手段として登場した「ちあバス」。
お年寄りが多い集落で、バスの廃止は大問題!深刻な社会課題に対してトヨタが取った行動とは…
なんと8割もの路線バスが減便や廃止に?
「この辺りに若い人なんていないよ」
男性が住むのは秋田県横手市の狙半内(さるはんない)地区。町の中心部からクルマで約1時間の険しい山間部にある過疎地域だ。
運転免許を持っていない高齢者にとって、バスがないと薬をもらうための通院すら難しい。そんななか、唯一のライフラインである路線バスが赤字により廃止の危機に…
都会に住んでいる人には実感しづらいが、日本の4分の1の地域では公共交通機関すらない。さらにドライバーの労働時間を見直す2024年問題で、8割もの路線バスが減便や廃止を検討*しているという。
*出展:全国「主要路線バス」運行状況調査(2023年)帝国データバンク調べ
この狙半内地区でも、路線バスの廃止が検討されるなかである取り組みが始まった。この写真を見ていただきたい。
これは自家用車ではなく、トヨタが取り組む地域の足「ちあバス」。地元出身の漫画家・矢口高雄氏の代表作 釣りキチ三平にちなみ「さるはんない三平カー」の名で親しまれている共助型の乗合交通だ。
特徴はプロのドライバーではなく、地元の一般の方が運転していること。横手市、地域住民、トヨタ、そして地元の販売店が力を合わせて運行が実現した。
地域の暮らしを支えるこの取り組みだが、道のりは順調ではなかった…
路線バスにはできないことを
ちあバスは狙半内地区の一番奥にある集落から、病院やスーパーのある十文字地区までの約25kmを週4日、4往復する。
家族に送迎を頼みづらい平日を中心に運行。運賃は200~700円(障がい者や中学生以下は半額)と区間によって異なる。ミニバンなので狭い道にも入れ、路線バスでは不可能だったドアtoドアが実現。
「家の前で乗り降りできるから便利」「病院の玄関まで運んでくれて助かる」と喜びの声が聞こえる。家族からも「仕事を休んで病院に連れて行っていたが、自力で行ってもらえるので助かる」との声も。
さらに路線バスと違って運行ルートも気軽に見直しやすい。
狙半内共助運営体 会長 奥山良治さん
運行ルートは要望によって都度改善しています。停留所はなるべく屋根のある場所にして、雨が降っても濡れずに待てるなどの工夫をしています。
定年退職後、ドライバーを始めたという方を取材すると「喜んでくれる人がいるなら、家でぼーっとしているよりもいい(笑)。普段話すことのない地域の人たちとも交流できて楽しいですよ」と笑顔で話す。
ドライバーが玄関先まで重い荷物を運んであげるなど、狙半内共助運営体の好意による高齢の利用者に寄り添ったサービスが行われている。
そんなちあバスだが、誕生までの波乱とは一体…?
想定外!まさかの事態が発生!
過疎地の移動問題に対し、トヨタでは数年前から多人数の送迎に適したミニバン「ウェルジョイン」を使い、地域の足を確保しようとする動きがあった。
CV統括部 平田哲也主幹
トヨタでも、地域の足を守るため兵庫県豊岡市などの先行事例を参考に、ノアクラスのミニバンに「ウェルジョイン」という送迎に使いやすい仕様を開発しました。
実証実験を進めようと、いくつかの自治体に提案したのですが、難航していたタイミングで秋田県庁からトヨタに出向されていた方がいたんです。その方を通じて(移動難民問題の解決を目指す)秋田県や横手市とのつながりが生まれました。
地域の足は、サポートする行政や企業がどれだけ前向きでも、地域住民の主体性がないと持続的なサービスにはならない。狙半内地区では、以前から雪下ろしや草刈りなど地域の困りごと解決に取り組む共助運営体が組織されていたことが功を奏した。
2017年11月、路線バスの廃止が検討されるなか、地域の足「ちあバス」の実証実験がスタート。利用実態のデータ収集が行われた。
ドアtoドアの運行でコストメリットや利用率、さらに前期高齢者のドライバーが安全に運航できるかも繰り返し確認。
実証実験には大きな期待が寄せられていた。しかし、誰も想定していなかった大問題が…
最初の2カ月間、利用者がほとんどいなかったのだ。その原因が悩ましい。認知の低さ以外にも理由があった。