いつも元気な母に突然の余命宣告。家族はトヨタのあまり知られていない取り組みに希望を託した
トヨタの福祉領域の取り組みをシリーズで紹介するこの企画。今回は、余命宣告を受けた女性とその家族の物語。
トヨタが地道に取り組んできたある機能が、まさかこんなストーリーを生み出していたとは…
軽い脳梗塞かなと思ったら
「母はお出かけが大好きで、いつもお気に入りの黄色いシエンタで出かけていました」。そう話すのは、群馬県前橋市で美容室を営む大原幸生(おおはら ゆきお)さんと、父の佐一(さいち)さん。
おしゃべりが大好きで活発なお母様だったが、ある日、足がしびれるというので病院に行くと、まさかの事態に…
息子の幸生さん
最初は軽い脳梗塞かなと思って救急車を呼んで、調べてみたら全身に癌が…。脊髄まで進行していたので歩くことも難しく「余命一年」と宣告されました。
突然のできごとに動揺する家族。しかし家族は次第に「残された時間のなかで、お出かけが大好きな母に、少しでも外の景色を見せてあげたい」と思うようになった。
買ったばかりの新車を買い替えるか
ご家族が営む美容室は、2021年に改装。スロープが完備されたバリアフリー設計だという。
父の佐一さん
改装工事が終わったのが、ちょうど妻が車いすになった頃。お客様のためにと思っていたけど、まさか妻がそうなるとは…
足が不自由になり体力も落ちていくなかで、どうすればお出かけを楽しめるか考えました。
普通のクルマではお出かけが難しいため、福祉車両を買い直すしかないのか…。しかし当時は、お母様がお気に入りの黄色いシエンタを購入したばかり。家族は悩んだという。
そこで、いつも懇意にしていた地元の販売店、トヨタカローラ群馬の狩野さんに悩みを打ち明けた。
トヨタカローラ群馬 狩野和弘さん
余命のお話を聞いたときは、まさか…と思いました。とても元気な方でしたから。
相談を受けたとき、トヨタから新車のメーカーオプションとは別で、いまお使いのクルマに後付けできる回転シートの案内が届いていたことを思い出したんです。今は後付け純正用品として全国展開されていますが、当時は群馬県で試験導入が始まったところでした。
「ターンチルトシート」は、乗りやすいようにシートがドアの外側に横回転(ターン)。足を上げずに乗車できる。さらに前傾(チルト)するので足が地面に着いたまま奥まで腰掛けることができ、介助者が座り直させる苦労もない。
降車時は両足が地面に着くので、立ち上がりがラクだ。介助者がいなくてもセルフ操作も可能、運転席と助手席に取り付けることができ、助手席ならば後付けもできる。
利便性だけでなく、新たに福祉車両を買い直さなくてもいいという点が大きなメリットだ。
父の佐一さん
妻のクルマの乗り降りは、俺が手伝えばいいと思っていたけれど、いかんせん自分自身が歳をとっていることもあって大変でした。
クルマを買い替えるといっても、うちは裕福なわけでもないし、余命が迫るなかで納車を待つ余裕もない。急にクルマを買い替えるのは難しいけど、シートを変えるだけならと後付けを決めました。
さらにもう一つ、導入を決めた理由があったという。
息子の幸生さん
母のためでもありましたが、なにより介助する父さんもラクにしてあげたかったんです。旅行だけでなく日常生活でも病院に行きますから、これなら介助する側も負担が減ると感じました。
いつものクルマが、お母様も乗り降りしやすいクルマへと変身。しかしこの後、思いもよらぬ事態が。出かけることを拒否されたのだ。一体何が…