トヨタの各工場の歴史と、目指していく進化を紹介する連載シリーズ「トヨタ工場の継承と進化」。今回は、本社工場の現在と未来への挑戦を紹介。
【シャシー製造部】フレーム加工に「五感」は不可欠
2023年11月、60年の歴史に幕を引いたトヨタ初の海外工場・サンベルナルド工場(ブラジル)。そこで活躍した「コマツ700トンプレス機」が“里帰り”した先が、シャシー製造部。
ここでは主に、クルマの足回りに使われる鉄板のプレス加工やフレームの溶接を行い、ランクル300のフレームなどは、ここから生まれている。
鉄板を切ったり曲げたりするプレス加工だが、鉄板の伸び縮みに合わせて一定の品質に加工するためには、人の感覚が必要だという。気温の変化や加工過程の加熱によっても伸縮具合は変わるため、緻密な計算が必要な作業だ。
鉄板に高熱を加えて溶かしてつなぐ「アーク溶接」の工程では、つなぎ目の温度は1,300度にも上り、人が立ち入れないところは機械が行う。
一方で人を育成するための溶接工程も意図的に残されている。
人の手による作業を残す意図を、シャシー製造部 技術員室 田畑千尋 室長はこう語る。
シャシー製造部 技術員室 田畑 室長
一度、熟練の技能者と最新の機械で溶接を競わせたことがありますが、機械は人には勝てない。
人の五感でしか感じられない、数値には現れない溶接の良しあしを機械に伝えていくことが一つの課題です。また、そのためには人の五感による溶接技能も絶やしてはいけません。
近年では、フレーム強度を高めるためにレーザー溶接にも着手。こうした技術も取り入れていることから、シャシー製造部は、2024年から「フレームセンター」として、フレームづくりを研究・発信する役目も担っている。
全員活躍で未来をつくる
豊田喜一郎が日本で自動車産業を発展させるために設立した本社工場(当時は挙母工場)。その覚悟を受け継ぎ、挑戦し続けることを誓い、江里義憲 工場長は「本工魂」という言葉を使う。
今回紹介した4つの部署は、それぞれ取り組む領域は違えども、未来に向けた人づくりや、より良いものを追い求め挑戦し続ける姿もまた「本工魂」の表れだろう。
そして今、本社工場が取り組もうとしているのが、“全員活躍”の職場づくりだ。
組織や機能の枠を越え、オープンでフラットなコミュニケーションを促すため、3年前から全部署を同時中継でつなぐ「HONKO LIVE」を実施。各部署での改善やデジタル化などを配信している。
HONKO LIVEをきっかけに「私こんなことできます」と手を挙げる若手も多く、それをきっかけに生まれた事例も多くあるという。
江里 工場長
若手の技能者から工長までが混然となってコミュニケーションをとれるHONKO LIVEを楽しみにしている人も多いです。中でも嬉しかったのは「入社して30年経つけど、こんなに楽しい時間はない」と言ってくれる人もいたことです。
本社工場、ひいてはトヨタの土壌とも言えますが、モノづくりの技能を磨いた人のいる場所では、挑戦の新しい種を植えると、苦労はしますが、きちんと芽が出て成長する。
本社工場はさまざまな領域でそのような場所があるので、どんどん挑戦できる領域が拡大するのが嬉しいですし、取り組んでいるメンバーも嬉しいと思っています。
もっと一人ひとりが活躍して、本社工場の器が大きくなる。器が大きくなれば、挑戦のための余力が生まれる。そのためにも、全員活躍を目指しましょうと。
成長できる土壌をみんなで守って、もっと良くしていこう。スキルを磨くだけではなく、そういう人間力を含めた「本工魂」を磨いていこう。そんな発信をしています。
技能を深め、技術を高める。永続的に挑戦しながら、本工魂をつないでいく。
挑戦できる環境、成長できる場所があるからこそ未来への種を植えられる。全員が活躍できる、元気が出る職場づくりを推進していきたいです。
最新の機械を導入するだけでは、未来をつくることはできない。“全員活躍”という成長の土壌があってこそ、モノづくりの技能は磨かれていく。
強い技能を育てていく
「継承編」「進化編」の2本立てで紹介してきた本社工場の歴史と未来。
最後に現場一筋60年以上、たたき上げの河合満おやじの言葉を紹介して締めくくりたい。2023年に開かれたモノづくりワークショップに先立ち、現場からの相談に応えたものだ。
河合おやじ
私がいつも言っているのは「技能はこういうモノやクルマが工場に入るから育つというものではなく、常に育てて強くしておけばどんなものが来ても怖くない」ということ。
私が10年前に高技能者を育てようと動き出したのは、トヨタがこのまま自動化がどんどん進み、人の技能が無くともボタン押せば自動でモノができる、それが当たり前と思う人がどんどん増えていっていいのか? そのことに強い懸念を感じているから。
不良も設備停止もどんどん減ってきて、品質向上とか設備故障を解決する力をつける場が無くなっていった。
だから自動化を常に進化させるために、ロボットに教えることのできる、それに負けない技能を持った人を育てなくてはいけない。ロボットよりうまい溶接の人を育てないと品質も向上できない、もっと良くならない。
そんな河合おやじの入社以来の職場が本社工場 鍛造部。本社工場はトヨタで最も長い量産工場という歴史を背負い、それぞれの現場で「本工魂」を受け継ぎ、挑戦の最前線を走り続ける。
トヨタ 本社工場
所在地:〒471-8571 愛知県豊田市トヨタ町1番地
生産開始:1938年11月3日
敷地面積:59.9万㎡
従業員数:1,940名(2024年3月時点)
主な生産品目:エンジンやトランスミッションなどの部品、MIRAIの燃料電池スタック、プリウスのハイブリッドユニット、ランドクルーザーのフレームなど