水素エンジンは市販化7合目へ。レーシングカーとして、公道を走る実証車として、さらに進化した姿をレポートする。
スーパー耐久シリーズ(S耐)2023最終戦の決勝が11月12日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われた。
ROOKIE Racingからは3台が出場。14号車中升 ROOKIE AMG GT3は総合3位でフィニッシュし、2023年シーズンのシリーズチャンピオンを獲得。
カーボンニュートラル燃料で走る28号車ORC ROOKIE GR86 CNF conceptと、液体水素を燃料とする32号車ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept(水素カローラ)も完走を果たし、シーズンの幕を閉じた。
今年もS耐の現場では、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」が進められ、一戦一戦、クルマと人が鍛えられた。
中でも、2021年から続けてきた水素エンジンの挑戦では大きな転換点があった。
走れば走るほど二酸化炭素(CO2)を吸収する新たな技術を取り入れたほか、水素エンジンを載せたハイエース(燃料は気体水素)が豪州の公道で走行実証を始めたという発表も行われた。
市販化へ“7合目”に差し掛かったという水素エンジンの数々の進化をアップデートする。
進化1:CO2回収技術
2021年に水素カローラがレースに参戦して以来、カーボンニュートラル技術として、水素エンジンの認知が広まってきている。
今回のレースでは、さらに「走れば走るほどCO2を回収する」新しい技術への挑戦を始めた。
その秘密はボンネットの中に収まる2つのフィルターと液体にある。
このフィルターは、量産車の排気管に使用される一般的なセラミックスの触媒に、川崎重工業製のCO2吸着剤が塗られたものだ。
1つ目のフィルターは外気を取り込むエアクリーナーの入口(写真の①)に設置。1秒間に吸い込まれる60Lもの空気の中からCO2をキャッチする。
もう一方のフィルターはエンジンルーム内の最前部(写真の②)に設置。エンジン内部を循環し、潤滑の役割を果たすエンジンオイルの通り道、つまり、温度の高いところに置く。
川崎重工が開発した吸着剤は、60℃以上の温度を与えるとCO2をリリースする特徴があるため、エンジンオイルの熱でCO2が離れていく。
そうして、放出されたCO2は回収液の中に通され、ブクブクと気泡になって、溶け込んでいくという仕組みだ。
水素エンジンプロジェクトを統括するGR車両開発部 伊東直昭主査はこの技術に取り組む意義をこう語る。
「大気中からCO2を回収する一般的な設備では、ファンで大気を吸引し、熱でCO2を脱離させるためにエネルギーを必要とします。水素カローラに搭載したシステムのポイントは、そこに元々エンジンが持っている吸気の力とエンジンの発熱を利用している点です」
CO2の回収に新たなエネルギーを必要とせず、エンジン車ならどんなクルマにでも横展開できる。これがこの技術の画期的なところだ。
もちろん、まだまだ改良の余地はある。CO2回収量は富士スピードウェイ20周(1周4,563m)で20gという限られた量にとどまっている。また、ピットインのたびに行われるフィルターの入れ替えは、人の手に頼っている。
今後は、回収量の向上とフィルター入れ替えの自動化に取り組み、より高い効果が得られ、人の手間がかからないシステムを目指していく。