燃料が気体から液体に変わっても、アジャイルな開発は変わらない。たった2カ月の間に遂げたクルマと水素ステーションの進化をレポートする。
脱炭素の前提となるCO2回収技術
移動式水素ステーションが置かれたピットでは、川崎重工業が開発するDAC(ダイレクトエアキャプチャー)というCO2回収技術の説明も行われた。
給水素の現場のすぐ近くに展示エリアを設けた理由を伊東主査は語った。
「カローラは水素、86はカーボンニュートラル燃料を使っています。どちらも、CO2回収技術があることを前提に、カーボンニュートラルな燃料だと言っています。なので、この技術開発はしっかり応援して、一緒にやらせていただく必要があると考えています」
今回、レースに使ったのは、川崎重工が豪州で生産し、運んできた褐炭由来の水素だ。これも、生産の過程で生じるCO2を地中に埋めることで、カーボンニュートラルとしている。
同社技術研究所 エネルギーシステム研究部の田中一雄部長はDACのカギとなる固体吸収剤について説明。
白い粒々がスポンジのような多孔質体となっており、1gあたりの表面積は小学校の体育館1面分くらいにもなるのだという。
そこに空気を流し込むことでCO2だけが吸収され、蒸気を当てると取り出すことができる。
川崎重工の強みは、60℃という低温の蒸気でCO2を回収できる点だ。海外の競合メーカーとの比較でも、低い温度に抑えられており、低コストで回収することにもつながる。
さらに、多くの人が生活するところでは、CO2濃度が一桁多くなるので、より少ないエネルギーで多くのCO2を回収することができるという。
田中部長は「2030年ぐらいまでに、大規模に空気からのCO2回収を実現したい」と展望を語った。
一つひとつの進化が商品化につながる
前戦からの2カ月で大きな進化を遂げた液体水素カローラ。ほかにも、富士からエンジンの出力も数%向上している。
これまで、水素カローラは一度給水素を挟むと、レース終了まで最下位を走行していた。
しかし、航続距離が伸び、給水素時間が短くなったことで、今回は次のピットインまでに順位を一つ上げるシーンもあるなど、徐々にレースができるようになり始めている。
一連の進化は市販化につながるものかと問われた高橋プレジデントは迷わずこう答えている。
「答えはイエスです。データを取って基礎的な技術を蓄えていくのが今のフェーズです。必ず将来の商品化に今やっていることが生きると思っています」