今シーズンもスーパー耐久を通して増え続けたカーボンニュートラル社会実現に向けた仲間たち。カーボンニュートラルを「真剣に」、「楽しんでいる」仲間たちの姿を取材した。
スーパー耐久シリーズ(S耐)2023最終戦の決勝が11月12日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われた。
シーズンの総括として行われたラウンドテーブルの冒頭でGRカンパニーの高橋智也プレジデントはS耐を主催するスーパー耐久機構事務局(STO)、エントラント、メカニック、エンジニア、ドライバー、ワイガヤクラブに参加するOEM(自動車メーカー)各社など全ての仲間たちへの謝辞を述べたあと、このように話を始めた。
高橋プレジデント
本当に大きな進化を遂げられた1年だと思っております。これはやっぱり意志ある情熱を持って行動するのだというモリゾウの想いに、チーム一丸となって進んできた結果だと思っております。
イベント広場をご覧いただくと分かる通り、本当に多くの仲間が増えています。
この言葉の通り、今回の会場にはカーボンニュートラル(CN)社会の実現を目指した仲間たちのさまざまな取り組みが展示された。
戦っていても、みんな仲間
S耐のクラスの一つに自動車メーカーの開発車両が走る「ST-Q」というクラスがある。このクラスはCN社会の実現と選択肢を広げるため、各社が「水素」「合成燃料」「バイオディーゼル燃料」で実証実験を進める。
このクラスに参加する5社がST-Qクラスの情報交換の場を「S耐ワイガヤクラブ」と名付け活動を続けている。
2023年は第2戦の富士24時間レースよりCNに共に挑戦するという仲間として、ST-Qクラスに参加する5社のクルマには「共挑」というステッカーが貼られるようになった。
そして、ST-Qをもっと知って欲しいと今回初めて開かれたのが5社で共同で開催する「共挑ピットツアー」だ。
イベント広場のステージに集合したツアー参加者は、5社それぞれのチーム紹介とCN社会実現へ向けた挑戦について耳を傾けた。
ワイガヤクラブのトークショーに参加したSTOの桑山晴美事務局長はST-Qクラスへの期待をこう話した。
STO桑山事務局長
まさにST-Qクラス、ワイガヤクラブでやっていることは、未来をつくっていくことです。
この挑戦がいずれ市販車に投入されることをみなさん期待されていると思います。
未来のクルマ、未来のモータースポーツってどうなるのだろうと思いながら応援いただけると私たちも非常に嬉しいです。
そして、スーパー耐久で、すごく大切にしていることは、どんなに挑戦をしても、戦っていても、みんな仲間だということです。
トークショー後には、事前の抽選により当選した参加者が各社のピット見学ツアーに向かった。
ROOKIE Racingのピットツアーに参加した人たちは普段入ることができないピットの中で、レーシングドライバーやピットクルーと直接会話し、28号車を間近で見て大興奮した様子だった。
仲間づくりのために参加するダカールラリー
カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハ、トヨタが参加する水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE: Hydrogen Small mobility & Engine technology)。
JAPAN MOBILITY SHOW2023のモータースポーツプログラムブースでも展示されていたHySE-X1をこのS耐最終戦のイベント広場に持ち込み、「ダカール2024」への参加を説明するラウンドテーブルを行った。
HySE小松賢二理事長
2021年11月のS耐岡山で、カワサキ、ヤマハ、ホンダ、スズキに賛同してもらい、(CNに向けた新たな協業の)発表をさせていただきました。
2022年9月のもてぎでも、水素エンジン研究用のオフロードバギーを公開しました。
そして、今年の5月には経産省からHySEの認可をもらい会見をさせていただきました。その後、ホームページも開設して、本日、ダカールの参加発表という経緯になっています。
ダカール総責任者を務める中西啓太リーダーは参加の目的についてこう説明した。
ダカール総責任者 中西リーダー
ダカール参加の目的は2つあります。1つ目はHySEの目的である水素を利用した基盤技術の課題を厳しい環境条件下で見つけ、開発を加速させることです。
もう1つは、グローバルにHySEの存在や活動をアピールすることで、共感する企業の参加促進を目指しています。
ダカールに出ると言っていますが、2024年1月に新しくできるカテゴリーに参加します。信頼性を開発するための走る実験室をイメージしています。
HySEが参加するのはダカール・フィーチャー・ミッション1000(ミル)という2024年1月よりスタートする新しいカテゴリーだ。
ミルとはフランス語で1000を意味し、このカテゴリーでは1日約100キロ、10日間で1000キロを走破することとなり、スタートこそ通常のレースとは異なるが、ゴールは同じとなる。
そして、このカテゴリーに出場できるのはバッテリーEV、水素を燃料とするクルマ、ハイブリッド車等の持続可能な代替エネルギー車に限られ、水素カテゴリーではHySEの他にも2台の出場が予定されているという。
ポイントなどレース的な要素はあるものの、ダカール・フィーチャー・ミッション1000はレースではなくチャレンジという位置付けとなる。
質疑応答でどのような企業の参加を期待しているかの質問に小松理事長はこう答えた。
小松理事長
正直なところ、どんな仲間が来るか、特に想定をしていません。
水素という将来のエネルギーをどう使うかに関しては、我々が想定していないような仲間も来るかも知れません。総じてドアをオープンにしていますので、どんどん来ていただいて、どう活動に参加してもらうかはその都度考えればいいかなというスタンスです。
ラリーに参加する仲間を探すということよりも、ダカールへの参加自体が研究のテーマを探す一つの活動になっているので、ダカールに出てグローバル発信をし、いろいろな企業に入ってきていただきたいというところがモチベーションです。
HySEにはすでに複数の企業から問い合わせが入っているという。
小松理事長
まだ詳しくお話はできないのですが、すでに欧米の企業とか、国内の企業さんとか、バラエティ豊かな企業からの問い合わせが、いくつか来ています。
それらの企業はエンジニア系で実際にモノづくりに携わる方々なので、我々の研究部開発という手段から考えると、そういった方々が適しているのかなと思います。
さらに十分な開発期間もなくレースに参加する理由についてラウンドテーブルで質問を受けた中西リーダーはこう回答した。
ダカール総責任者 中西リーダー
日程については、私も最初は来年ダカールに出るとは思っていませんでしたが、(このS耐で、アジャイル開発を)実際にやれてしまった経験がある人たちがいるので、やれるかやれないかよりも先に日程が決まりました(笑)