熱狂はアジア競技大会からアジアパラ競技大会へ。開幕に合わせてトヨタイムズスポーツは河合純一スポーツ庁長官にインタビューを行った。日本初開催となる意義や競技の魅力を語ってくれた。
パラアスリートの強さはしなやかさ
森田
まさに豊田章男会長も「パラスポーツは、人間と道具が融合して戦う、スーパーヒューマンの戦いだ」と言っています。
おっしゃるように、そこからヒントを得た部分も、もしかしたらあるかもしれませんし、そういった面がパラスポーツの魅力の一つかなと思います。
一方でパラアスリートが、自身が持っている障害を乗り越えて戦うという側面も必ずあると思うんです。この点でパラアスリートの強さみたいなものは、どのようにお考えですか?
河合長官
強さなのか、しなやかさなのか。
私が思う「強さ」というのは、自分の中にある障害という、ネガティブな言い方をすると「弱さ」でもあると思うんですが、そういったものを受け止めた先にある強さです。
硬いものはポキっと折れやすいじゃないですか。でも、しなやかな枝葉は揺れながらも風やいろいろなものを受け流しながら成長し続けられる。
そういう生命力を持っていると思うんですよ。そういうものをパラアスリートたちが示してくれているんじゃないかと。
レジリエンス(しなやかな強さ)ですね。そういったものが(パラアスリートには)、あるんじゃないかと思います。それは障害と向き合わざるを得ない自分と、そしてアスリートとしての自分の、究極のパフォーマンスに向けて突き詰め、向き合い続けた日々というものの掛け算が常に起きるからこそ、そういう魅力的な、個性的な彼らの言葉やパフォーマンスに行きつくんじゃないかなと思いますね。
森田
人生の中で先天的なのか後天的なのかはあるにせよ、障害を受け入れて、それを跳ね返すみたいなところがパラアスリートたちにあって、スポーツと向き合う中で絶対工夫をしています。
例えば腕に障害がある人が、陸上でスタートのときに体のバランスをどう取るといったこととか。本当にいろいろ競技場に行って、競技時間ではない時間帯に、どんな工夫があるかも観てほしいですね。
河合長官
そうですね。
そして彼ら彼女らが輝けるのは、スタジアムとかアリーナ、プール、そのフィールド、環境を整えたからこそなんです。
素晴らしいパフォーマンスで走る車いすの選手も、パワーリフティングでものすごい重量を上げられる選手も2、3段の階段を登れないんです。
車椅子の方だから当然です。やはり環境を整えることで発揮できるパフォーマンスがあるので、そういうことに気づくためにも、ぜひとも(会場で)観ていただくことが大切だと思うんです。
森田
そのお話でいくと、彼らが競技を離れて日常生活を送る上においては、環境が整っていない大変な部分があるのも事実です。
河合長官
アジア各国、地域によっては、もっと厳しい環境の国もあります。そうした中でもトライしながら、トレーニングをして今回(日本に)お越しになって、アジアパラ大会を迎えるわけです。
そういった選手たちにも想いを馳せながら応援いただけると嬉しく思います。
レガシーはハードではなくハートに残る
森田
会場まで観に行くと、いろいろなことを考えたりします。パラスポーツの大きな国際大会では、それが終わって日常生活に戻ったときに、社会が変化していく部分があると思うんです。例えばロンドンパラリンピックの後に、ロンドンの街が変わったと言われています。
今回愛知・名古屋でのアジアパラ大会に対する、そういった部分での期待はどうでしょうか?
河合長官
大いに変わっていくだろうと思います。東京も無観客でありながら、オリパラが開催されたことで大きく変わった部分もあります。
今回、愛知・名古屋という地方都市で行われるからこそ、ここが変わることができれば日本全体が変わる可能性につながると思っています。
東京都は首都で人口も多い。そうした中で「東京だからできた」で終わらせるのではなく、日本全体に広げる可能性を示している大会でもあると思っているんです。
森田
河合さんがいろいろな場所でおっしゃっているように、変わると言ってもすぐに変わるわけではありません。ただ時間がかかることですが、一つきっかけになる可能性は十分にある?
河合長官
あると思います。
それは一人ひとりの観に行った方、関わった方、ボランティアの方もそうでしょうし、組織委員会の方や観客として会場にいらっしゃる方、それらが難しい状況で、ネットやテレビなどで観戦した方々、こうした方々の心に残る物がレガシーなんです。
「さまざまな競技会場ができた」、「道路や鉄道インフラが整った」というハードのレガシーではなく、レガシーはハートに残さないといけません。
人が生き続ける限り、その国や地域のパラスポーツであり、共生社会と呼ばれる、誰もが自分らしさを発揮できる社会をつくる、レガシー継承者になり得るんです。
森田
そういう意味では、本当にアジアパラ大会は大事な機会になります。ただし主役はアスリート。彼らがここまで積み重ねてきた努力をどれだけ披露してくれるか、ここが一番大事ですね。
河合長官
そうですね。東京オリンピック・パラリンピックは無観客でしたが、愛知・名古屋(アジア大会、アジアパラ大会)の開催は当時から決まっていました。
自国開催で、やっぱり皆さんの前で自分のパフォーマンスを発揮したいと思って現役を続けてくれている選手もたくさんいます。若い選手たちの中には、この大会を目指して、東京大会後に成長して出場権を取った選手もいます。ぜひそういった、さまざまな選手たちと出会いに会場にお越しいただけると嬉しいです。
スポーツで集まる、つながる
森田
最後に、河合さんに会ったら聞いてみたかった質問があります。河合さんに「パラスポーツって何ですか」という質問ではなく、河合さんにとって、スポーツとは何ですか?
河合長官
私にとっては、本当になくてはならないものです。(最近は)プールに行くことは少ないんですが、ランニングしたりジムに通ったりしています。
視覚障害があると、スポーツは1人でやれることが少なくて。もちろんプールに行きさえすれば、私は泳げるので大丈夫ですが、じゃあランニングを1人でできるのかといえば、当然できません。ガイドランナーと待ち合わせて、一緒に走ってもらっています。
一緒にやることで、また広がりができて、喜びを倍増させる。掛け算になるんです。1人で地道にやるだけではない楽しさも再確認できますし、自分の心や体と向き合う時間にもなります。
楽しみながら、ずっと続けていきたいと思っています。
森田
河合さんの中では、スポーツは1人で突き詰めていくものに見えがちだけど、そうじゃない、人とつながるものなんですね。
河合長官
そうです。スポーツ庁でよくお話ししていますが、「する」「みる」「ささえる」というスポーツの価値に「あつまる」「つながる」を合わせて、「スポーツとの関わり方は5つありますよ」と伝えています。それぞれスポーツをする上での楽しさ、観る上での楽しさ、支える上での楽しさ、集まる、つながる上での楽しさがあって、それを自分なりに見つけていくことによって継続していく。
健康でウェルビーイングな人生を送っていきたいという気持ちは、多くの皆さんが共通して持っているのではないでしょうか。そこにスポーツ、運動は、間違いなく貢献できると私は思っています。
こうした点からも、皆さんの力をお借りしながら、我々としても全力で、スポーツを通じた自分らしく生きられる社会をつくっていきたいと思っています。
森田
最後は図らずもスポーツ庁長官としての言葉をいただきました。ありがとうございます。
最後にあったように、集まる、つながる場がこのアジア大会、アジアパラ大会だと思います。今回のアジアパラで少しでも多くの人にパラスポーツに直接触れてほしいなと思っております。
河合さん今日はどうもありがとうございました。
河合長官
ありがとうございました。
アジアパラ大会は10月24日まで、愛知県と静岡県の19会場で18競技が実施される。
トヨタイムズスポーツでは、もちろんこちらの結果もお伝えしていく。だが、河合長官が話していたように、会場でしか感じられない熱量や見ることができないシーンもある。
ぜひ会場で熱狂して、皆さんの心にレガシーを残してほしい。