トヨタイムズスポーツ
2024.08.27

「パラスポーツを知って3年、もっとスポーツが好きになった 」森田京之介

2024.08.27

パラアスリートにどう話しかけていいかすら分からなかった2021年の東京。その後、3年間、パラアスリートを取材し続けた森田京之介キャスターは、どんな想いでパリに向かうのか?...森田本人が想いを綴った。

“東京の夏”から3年。パリで行われたオリンピックが閉幕し、828日からパラリンピックが開幕する。

この3年間、世界中のトヨタアスリートが最高峰の舞台を目指し、努力を重ねてきた。私、森田京之介もトヨタイムズスポーツのキャスターとして、彼らの姿を追い、パラスポーツと向き合ってきた。これを機に少し振り返ってみようと思う。

迷っていた3年前

トヨタイムズスポーツは、東京2020オリンピック・パラリンピックが開催された2021723日にトヨタイムズ放送部としてスタートした。

コロナ禍で無観客の開催となり、世界中から東京に来るアスリートに応援の声が届かない。こうした状況を踏まえ、豊田章男社長(当時)は、世界中のトヨタアスリートのお父さんとして「勝ってこい」というメッセージで選手たちを激励、応援する場として生まれたのがトヨタイムズ放送部だ。国境や競技の枠を超えてオリンピックが開かれる17日間、応援の輪を広げるべく毎日放送を続けた。

だがオリンピック終了後、「よし、次はパラリンピックだ!」と簡単には言えなかった。パラリンピックのアスリートも同じように応援したいはずなのに、「パラスポーツってどうやって応援したらいいんだろう?パラアスリートになんて声を掛けたらいいんだろう?」

健常者である自分が障がい者に対してどんな言葉を使うべきなのか、表現や伝え方に迷う自分がいた。それだけパラスポーツに対して無知だった。恥ずかしながらほとんど触れたことがなかった。豊田社長に相談した。

「彼らはスーパーヒューマンなんだ。そこにはオンリーワンのストーリーがある。それを伝えてほしい」

こんな言葉とともに、フィリップ・クレイヴァン氏に話を聞いてみるよう言われた。

クレイヴァン氏は、前の国際パラリンピック委員会(IPC)の会長で、豊田社長から声をかけ、会長退任後にトヨタの社外取締役に就任した。

自身も車いすバスケットボールのイギリス代表選手で、パラリンピック出場経験もあるクレイヴァン氏に、パラリンピックをどう見ればいいのか聞いてみた。

「パラリンピックでは、最も純粋なスポーツの姿を見ることができる」

返ってきた答えはシンプルだった。

片足に義足を付けた選手が11秒を切るタイムで100メートルを駆け抜ける姿に衝撃を受けるだろうと予告した。

スポーツ観戦の醍醐味の一つは、想像を超えるような動きやプレーを見る瞬間だ。確かにすごそうだ。

では、何が「純粋」なのだろうか。インタビューの最後にこんなことを言っていた。

フィリップ・クレイヴァン

パラリンピアンは、優れたアスリートであると同時に、すばらしい人間でもある。彼らは多くの不可能に直面しながら挑戦し続けてきた人たちだ。

ぜひパラリンピックで彼らと接して、皆さんも人生に挑んでほしい。そして前に進み続けてほしい。

「挑戦し続ける」

アスリートに共通するこの姿勢こそ、クレイヴァン氏が「純粋」と表現したパラスポーツの魅力なのではないか。

不可能を可能にしていくスーパーヒューマンのオンリーワンのストーリーを楽しもうと思った。

4人が教えてくれた “パラスポーツの見方”

もう1つずつ、2人から教えてもらったことがある。

1つは、パラスポーツは、「公平に競う」というスポーツの根幹を追い求めて常に進化していること。平等ではなく、公平だ。障がいの重さが全く同じということはほぼない中で、どうやったら同じように競い合うことができるのか。

クレイヴァン氏が携わってきた車いすバスケは、障がいの程度による持ち点に基づいて、コート上にいる5人の選手を決める。障がいの重い人ほど持ち点が低く、軽い人ほど高い。

5人の合計が14点以内におさまるようにメンバーを選考するため、障がいの重い人と軽い人が同じチームで闘うことになる。互いの違いを認めながら、全員が活躍できる場が用意されているのだ。

イギリス代表時代のクレイヴァン氏(中央)

もう1つは、パラスポーツは「ヒトと道具が融合して闘う」こと。

ここにトヨタがパラスポーツを厚く支援する理由があると豊田社長は言った。

義足を使う選手、車いすに乗る選手、道具の性能が勝負を分けることだってある。だからこそ、モノづくりの企業が果たせる役割が大きい。クルマという道具を使って競い合うモータースポーツの世界とも共通点が多い。

アスリートだけでなく、道具に関わる人々の存在もパラスポーツのストーリーを厚くする。多くの仲間と支え合いながら、「勝つ」ために精一杯努力することは、スポーツの醍醐味そのものだ。フィールドで闘っているアスリートは独りじゃない。

もちろん、これで全てがわかったわけではない。

東京2020パラリンピックが始まってからは、頼もしい助っ人が番組を手伝ってくれた。

リオ2016パラリンピックの陸上4×100メートルリレーで銅メダルを獲得した佐藤圭太選手と芦田創選手。自身は出場を逃した悔しさを抱えながらも、アスリートキャスターとして多くの競技を紹介し、トヨタの仲間を一緒に応援した。

佐藤選手(左)と芦田選手

芦田選手は、自身の競技でもある走幅跳で両足義足の選手が片足義足の選手を上回る記録で金メダルを獲得したことについて、いかに技術的に難易度が高いことをやっているか、解説。

また、「障がいは個性ではない、個性的なものとして捉えていけるかが大事。障がいで『できない』ことを経験して、そこから『どうだったらできるのか』が大切」と話し、障がいとの向き合い方、それがスポーツになったときにどう立ち向かっているか、教えてくれた。

佐藤選手は、「義足のネジの締め方ひとつでタイムが大きく変わってくる」とパラアスリートにとっての道具の重要性を語った。

あるヨーロッパの選手のためにモータースポーツに関わるメンバーがハンドサイクル(手でこぐ自転車)の開発を行ったエピソードに触れたときには、アスリートと開発者の本音のコミュニケーションが大事だと強調。納得感をもって競技に臨めることが結果につながるというリアルな声を届けた。

2週間の東京2020パラリンピックで、パラスポーツのいろんな楽しみ方を教えてもらい、実際にこの目で見てみたくなった。この3年間で触れたパラスポーツのストーリーをいくつか紹介したい。

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