トヨタイムズスポーツ
2023.11.29

ソフトボール5年ぶりの日本一!ドラマチックな2日間の「超戦」

2023.11.29

女子ソフトボール「レッドテリアーズ」がJDリーグの年間チャンピオンを奪取! 準決勝・決勝と手に汗握る2日間の攻防をお届けする。

去年の自分を超え、宿敵を超える戦いを勝ち抜き、ついにレッドテリアーズの選手たちは日本一の栄冠をつかんだ。11月18・19日におこなわれた、女子ソフトボール「JDリーグ」の年間チャンピオンを決める頂上決戦ダイヤモンドシリーズ。セミファイナルの豊田自動織機戦、ファイナルのビックカメラ高崎戦はともに息詰まるような試合となった。

運命に導かれたように、ドラマチックでしびれる展開が続いた「超戦」の2日間を振り返る。

昨年完封負けの投手から下山・切石がホームラン

リベンジの時がやって来た。埼玉県朝霞市の朝霞中央公園野球場で、西地区1位のレッドテリアーズが迎えるセミファイナルは、昨年と全く同じカード。延長8回の激闘の末に2-0で敗れた豊田自動織機が相手だ。あの日の悔しさを糧に、選手たちは今シーズンを戦ってきた。

豊田自動織機のマウンドは、メキシコ代表のダラス・エスコベド投手。昨年のセミファイナルは1点も取れなかった天敵でもある。しかし、今年のレッドテリアーズ打線は違った。バッティング練習では投球の位置を変え、エスコベド対策を重ねていた。試合のムードを変えたのは主砲の一発だ。

2回に先頭の5番・下山絵理選手がインコースの球をとらえ、打球は左中間を越えるホームラン。「ダラス選手の得意なインコースを絶対に打ってやるという気持ちで練習してきた」という成果が実った先制点だ。ガッツポーズの下山選手をチームメイトの歓喜の輪が包む。

2死の後、8番の切石結女選手も思い切って振り抜き、レフトオーバーのソロ本塁打で2点目を挙げた。下山選手に続き、右打者はインコースを狙うという作戦が的中。いつもはクールな切石選手が笑顔でベースを一周した。

直後の3回、先発のメーガン・ファライモ投手は2死満塁のピンチ。ここは気迫の投球で三振に打ち取り、無失点のままエースの後藤希友投手へとつないだ。

最後の打者は因縁の相手、後藤希友が攻めたインコース

1点を追加して3点のリードで、最終回の7回を迎えた。投手陣は相手打線を0点に封じていたが、警戒すべき選手が1人いた。この日は3打数3安打と大当たりの大平あい選手。昨年のセミファイナルでは、後藤投手が決勝ホームランを浴びた因縁の相手だ。

ランナーを2人以上出さなければ、大平選手まで打席は回らない。だが、運命の女神は最後にドラマを用意していた。2人の打者をフォアボールで塁に出してしまい、2死2・3塁。バッターボックスは大平選手、一発で同点に追いつかれる正念場だ。

空いている1塁に歩かせることもできるが、後藤投手の心の隅には「抑えたい」と言う気持ちがあった。キャッチャーの切石選手がマウンドに駆け寄り、後藤投手と言葉を交わす。四球でもヒットでもいいから、開き直って攻めていこうと確認しあった。

この日の大平選手の3安打は全てアウトコースの球。実は、昨年ホームランを打たれたのは内角の甘いボールだった。1球の重さを思い知った若いバッテリーは、1年前の呪縛から解き放たれるかのように、この日使っていなかったインコースを思い切って攻めた。

1-1のカウントから後藤投手が内角に力のあるストレート。打球は力なくセカンドの前に転がり、鎌田優希選手がさばいてファーストに。3-0で試合が終了した。

昨年は越えられなかった壁を越えた、大きな勝利。1球の重さを1年前に痛感した後藤投手は「とにかくホッとした気持ち。自分の中で納得のいったボールが投げられていたので、結果として出て良かった」と話す。

宿敵からベテラン原田のどかが先制の一発

一夜明けて、いよいよファイナル。相手は、順当に勝ち上がってきた東地区1位のビックカメラ高崎。JDリーグの初代女王で、前身の日本リーグ時代から含めると4連覇中。常にレッドテリアーズの前に立ちふさがってきた宿敵だが、昨シーズンは開幕戦で勝利したものの、最後は戦うことができなかった。

円陣を組み、「ここに立てることに感謝して、楽しんでいきましょう!」と気勢を上げたレッドテリアーズの選手たち。その想いは初回、先制点という形で実る。3番の原田のどか選手が変化球を捉え、レフトを越えるソロ本塁打を放った。

今年移籍してきた14年目の原田選手は、最年長でありながらムードメーカーの役割も買って出て「一家に1台」と称される存在だ。「若い子たちに刺激を受けながら、新たな自分を見つけようという気持ちで取り組んできた」と奮闘する金メダリストの一発に、ベンチも沸き返った。

レッドテリアーズの先発は前日に続きメーガン・ファライモ投手。今シーズンに途中加入した右腕は、ガッツポーズや雄たけびで気持ちを前面に出すスタイルで、チームにリズムを作ってきた。この日も初回からエンジン全開で気持ちの入ったボールを投げ込んでいく。

2回には1死1・2塁から三振を奪い、4回にはノーアウト1・2塁のピンチをダブルプレーで切り抜けた。無失点で4回を抑えたファライモ投手から、この日も後藤投手へと盤石のリレーとなる。

レジェンド上野由岐子から下山絵理が貴重な追加点

後藤投手は5回を打者3人で切り抜けるが、ビックカメラ高崎は勝負を諦めない。6回に41歳のレジェンド、上野由岐子投手をマウンドに送り出す。この回を3者凡退で抑えられ、7回も主軸が2者連続三振を喫してしまう。

最終回の守りを前にして打線が沈黙。レジェンドの気迫の投球に押されて、不穏なムードが漂う。この空気を変えたのもホームランだった。5番下山選手が1-1から外角の変化球を逆らわずに打ち返すと、打球は右中間のフェンスを越えた。

下山選手の帽子のつばには、原田選手からのメッセージが書かれている。「山(下山)ならできる。山にしかできない。大丈夫、後ろにみんながいる。貫け!3・4パワー」。大好きな先輩からアドバイスを受け、本塁打と打点の2冠のタイトルを獲るまでに成長。シーズン最後の試合を、背番号3(下山選手)と4(原田選手)のホームランで飾ることができた。

貴重な追加点を挙げて2点リードし、最終回のマウンドに上がった後藤投手。2アウトまでこぎつけ、最後のバッターが打ち上げた打球はレフトへ。バッバ・ニクルス選手ががっちりとキャッチしてゲームセット!

2-0でファイナルを制し、5年ぶりの日本一。ベンチから飛び出した選手たちは、マウンドの前に倒れて次々と重なり合い、喜びを表現した。スタンドからはテープが投げ込まれ、泣きながら抱き合う選手たち。どんな時もチームを見守ってきた河合おやじ(河合満顧問)も「常に課題を持って挑戦して結果が今日出ました。本当に強くなったし、みんなが本当に成長した」と選手たちに温かい言葉を掛けた。

そして、馬場幸子監督の胴上げへ。選手たちは歓喜の余韻に浸った。
「優勝しました! トヨタがチャンピオンです! Yes, We are No.1!」

連覇を目指して「超戦」は続く

試合後、馬場監督は「支えてくれる人たちがたくさんいることを、感じることができた1年間。本当に一つ一つの“超戦”だったので、ここまで来れて皆さんに喜んでもらえて本当に良かったと思います」と振り返った。

馬場監督が特に挙げたのが、バッテリーの成長。「切石が去年はすごく悔しい思いをして、それを持ってピッチャー陣をリードしてきた。しっかりとコミュニケーションを取って、後藤の気持ちを上げながら厳しく叱ったりして、そういうことを繰り返してきた切石のおかげです」と話す。

次のシーズンに向けて、鎌田選手は「連覇するのはすごい難しいと思うんですけど、王者というよりは2連覇を目指すチャレンジャーとして戦いたいという思いがあります。今年優勝を経験できて最高の瞬間を味わえたので、またあの一瞬のためにしっかり1年間かけて成長していきたいなと思います」と語る。

2028年のロサンゼルス大会では追加競技として復活することが決まり、ソフトボールが再び盛り上がりを見せようとしている。レッドテリアーズの選手たちがこれから王者としてどのように戦い、どのような成長を見せていくのか。その「超戦」を見守っていきたい。

なお、11月24日のトヨタイムズスポーツでは、鎌田選手と切石選手をゲストに迎え、ダイヤモンドシリーズをダイジェストで振り返った。ビールかけならぬ○○○かけの様子なども見ることができる。

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