「個性を活かした全員活躍」へ議論を深める労使。若手からベテランまで、キャリア形成についての悩みや課題が共有された。
積み重ねた技能、最大限発揮を
組合からは、業務職の「挑戦の機会がない」「長年同じ部署で同じ仕事を担ってきたため、興味を口にしにくい」「どう挑戦したらいいのかわからない」という悩みを吐露。
東本部長は、2019年に制度変更して活躍のフィールドを広げてきたことを伝えつつ、「業務職というだけで役割付与や仕事内容を線引きすることを結果的に強調しすぎたところもあった。職種の線引きを今後どうしていくか。チャレンジしたい人にチャレンジできる仕組み、人事制度、職場での運用をしっかり考えていきたい」と述べた。
ここまでの議論を、組合の鬼頭圭介副委員長が締めくくった。
鬼頭副委員長
これまで多くの組合員は配属された職場で、経験や技能を積み重ねてチームに貢献するために自分に何ができるか模索しながら、懸命に目の前の業務に取り組んできました。
モノづくりの進化が進めば進むほど、従来業務の延長線上での活躍の幅は狭くなってくると思います。
こうした変化で、積み上げてきた技能、能力を最大限発揮できないのは本当にもったいないと思います。
技能・経験を積み重ねて職人になればなるほど、年齢を重ねれば重ねるほど、新しい環境へのチャレンジは本当に勇気が必要で、誰もが臆病になってしまいます。
トヨタで磨いてきた力を活かし、活躍する場所も、力の発揮の仕方も、今ではさまざまになってきていると感じています。
会社を越えた多様なキャリアを歩むために、現状の制度や運用に制約があるのであれば、今後、取り払うための議論を進めさせていただきたいと思います。
誰もが生き生きと働きながら、自分らしく成長することができ、産業全体に貢献をしていける会社を目指して、これからも労使で家族の会話をさせていただきたいと思っています。
「クルマづくりは楽しい」
若手もベテランも、それぞれが個性を活かしてこそ、生き生きと働ける職場につながっていく。今回も労使が本音で意見を交わした話し合い。
最後に佐藤恒治(さとう・こうじ)次期社長、河合満おやじがそれぞれ総括した。
佐藤次期社長
本日の議論、短期的に解決できないものがたくさんあったと思います。
しかし、一気に解決できなくても、「まず何かをやってみる」。そして、再び「話し合う」ことが大切だと思います。
私は「トヨタの最大の財産は人」だと強く思っています。幸せ、働きがいを高めていく鍵が、今日の話の中にたくさんあったと思います。
我々トヨタで働く一人ひとりの幸せや、(自動車産業)550万人の幸せがまずあってこその「幸せの量産」だと思います。
もう一つ。私が今日、改めて深く思ったのは「クルマづくりは楽しい」という価値観を多くの仲間と共有したいということでした。
仲間と一緒に新しいものを生み出す挑戦は大変苦しいです。しかし、この上なく楽しいものです。クルマづくりにはいろいろな関わり方があって、モビリティカンパニーを目指して行く中で、それはますます幅を広げていくと思います。
単純にクルマを設計し、開発することをクルマづくりと捉えるのではなく、周辺の価値の創造、クルマの魅力を高めていくことも含めたすべてがクルマづくりだと思います。
自分が幸せ、楽しいと感じられるクルマづくりへの関わり方を、もっともっと多くの選択肢を準備して、一人ひとりが探していける環境をつくっていくべきだと思いました。
先週末、豊田市の顕彰祭で豊田章男社長から章一郎名誉会長の言葉の紹介がありました。非常に感銘を受けましたので、その言葉を少し紹介したいと思います。
「新しいものをつくるために知恵を絞り、汗をかき、時間を忘れて熱中する。その瞬間が極めて楽しい。苦心した末にものができあがったとき、それを誰かが使って喜んだり、助かったりしたとき、この上ない喜びと感動に包まれ、だからもっと勉強し、働いて、もっといいものをつくろうと思う」
章一郎名誉会長の言葉です。この姿勢こそ、モノづくり企業トヨタの原点であると思います。モビリティカンパニーを目指しながら、一人ひとりがもっとクルマづくりを楽しいと思える会社にしていきたい、そう思っています。
しかしながら、最近トヨタを退職した仲間の方のお話を伺うと、「やりがいを感じない」あるいは、「やりたいことをやれない」という声を聞くことがあります。大変、残念に思っています。また一方で、本日の議論の中では、「何をしたい」、あるいは「どうしたい」ということを考えるのが苦手、そこに悩んでいるという声もいただきました。
これまでトヨタ自動車は、さまざまな施策に取り組んできましたが、もっともっと幅広く、自分探しができる環境をつくっていくことが大切だと感じました。
私が担当で設計をしていた時代、一人前になるには10年かかると言われていました。
キャリアプランが明確で、そこに乗っかって研さんしていけば、先輩のようなエンジニアになれる。そういう時代でした。
今はその頃のスピードと全く違うスピードで物事が動いて、クルマも私たちを取り巻く環境も変化している。
その時代にできあがった制度設計の中で、一人ひとりがやりがいを感じて、クルマづくりを楽しいと思える環境をつくっていくことは、難しいと思います。
東 総務・人事本部長からも、意志のある勇気を持った宣言もありました。人事制度を変えていこう。特に、我々が着目すべきなのは、今の時代に合わせて「課題創造型」の制度をどうつくっていくかだと思います。
一人ひとりの強みが活かせる、一人ひとりの意志のレベルに合わせた選択肢をつくっていくこと。これをどう人事制度の中に織り込んでいくか。
こういった議論を踏まえて、次回はより具体的な人への投資、労使で取り組むことについて、話したいと思います。
河合おやじ
議長の私からも一言申し上げます。
28年前の阪神・淡路大震災のときです。私の部署から現地に緊急支援で「3名出してほしい」という依頼がきました。
すぐにベテラン2名を決めましたが、あと一人、どうしても浮かばない。そこで、不安でしたが黙々と言われたことをしっかりやってくれる、確実にこなす若手を、2人のリーダーと共にやってくれればいいと思って選びました。
一週間ほどたったときに、ベテランの一人から私のところに電話がありました。不安だった彼が、自分で判断して積極的にいろんなことをこなす。そして、大活躍をしてくれているというのです。
私は「常にメンバー一人ひとりに寄り添い、しっかり見ることが大事」と言いつつも、その部下が持っている本当の能力や可能性を理解していませんでした。
どれだけ見ていても、上司が部下のことを全てわかるわけではありません。その一方で、部下が気づかないことを、上司が伝えられることもあります。
だからこそ、上司と部下がしっかり話し合いを続けることが大切だと思います。
そして話し合うだけではなく、ちょっと違う仕事させてみるなど、試してみることも大切だと思います。実際に動くことで、次の可能性が見えてくることもあります。
次に、協議の後半は産業全体への貢献の話がありました。
本日来ていただいたトヨタ車体の寺沢さん。私は、2018年に(おやじの会を)立ち上げたときは、お酒を飲んで自己紹介をする程度のスタートでした。
それぞれの現場でモノづくりをしている者同士が盛り上がり、その後は後輩たちも加わり、今も交流を図ったり、助け合いを行っています。
また、50研修*に行った人たちも、もうすぐ3年になりますが、交流を深めたりしています。
*50研修・・・仕入先や販売店への出向による人材育成研修制度
産業全体への貢献と言っても、いきなり壮大なことを考えなくてもいい。人と人との本音の交流から、会社と機能の間につくられた壁、つくられそうな壁に風穴を開けることができると思います。
自動車産業にはたくさんの仲間がいます。仲間との絆を大切にして、トヨタが頑張れば成長して、産業全体にもまたがって力を発揮できる。そんな会社であり続けたいと思います。
皆さんがトヨタで磨いた力は、必ず産業全体の力になります。
2人のコメントを受け、組合の西野勝義委員長は「話し合いの内容も、経営課題についての内容になってきている」と述べ、労使が踏み込んで話し合いができていることへの感謝し、次のように続けた。
西野委員長
本年の労使協では多様な一人ひとりがこれまで以上に生き生きと活躍し、能力を最大限発揮していくこと、また、それを通じ、もっと誰かのために役立てるように、何を変えていくのかということについて、議論させていただきました。
組合としては、一人ひとり、それぞれの場面で、一番誰かのために役に立てる場所、成長できる場所、自分を表現できる場所、そうした居場所をつくっていきたいと考えています。
大きな組織であるトヨタの中にはさまざまな役割がありますし、居場所があります。
引き続き、こうした働く場としてのトヨタの強みを、一人ひとりの幸せにつなげていけるようにしていきたいと思っております。
次回は、人への投資、労使で取り組んでいくことについて、会社の考えをお聞かせいただきたいと思います。
次回は最終日となる3月15日。これまでの議論を踏まえた回答が予定されている。