「個性を活かした全員活躍」へ議論を深める労使。若手からベテランまで、キャリア形成についての悩みや課題が共有された。
キャリア形成の悩みは永遠のテーマ
ここで、一般企業では課長に相当するグループ長(GM)の仕事について、長田准CCO(Chief Communication Officer)が口を開いた。
長田CCO
私が上司だったときの大反省ですが、GMの皆さんが「やめかえ」をやったら、新しい仕事をどんどん突っ込んでいました。私も同じようにされてきました。
そうすると、いたちごっこになって、GM、部長は常にオペレーティングとソリューションが中心になり、人材育成などの仕事ができないんです。
それをどう確保して、人材育成をやっていくのか、GM、部長の皆さんの仕事をきちんと再定義し、織り込んでいく。
マネジメント業務が評価されるよう、どう織り込んでいくか本質的に変えていかないと、特に事技系では解決に進んでいかないと思います。
人事にお願いするとともに、自分の(担当する渉外・広報)本部も、変えていきたいと思っています。
4月からの新体制で、CPO(Chief Production Officer)を務める新郷和晃プレジデント(Toyota Compact Car Company)が続ける。
新郷プレジデント
カンパニーの若手に「上司・部下の対話満足度」をアンケートしました。結果として、対話自体にはみんな満足している。
しかし、「上司から成長につながるフィードバックがあまりなかった」「褒めてもらう点はいっぱいあったものの、中長期的な将来の話をもっとしたい」「キャリアの相談をしても上司が困っているように見えた」。すごくリアルだなと思いました。
上司側も同じように「多様な働き方をするメンバーにどんなアドバイスをしていいか、自分にも経験がないので窮している」と双方が悩んでいるのが実態でした。
私たちも、若い頃、本当にキャリアに悩みました。永遠のテーマなんです。ただ、昔と今がちょっと違うことに我々(会社)がまだ気づけていないんじゃないかと思います。
一方、それに気づいているGMはすごく苦しんでいます。「アドバイスをしてあげたいが、どうしたらいいんだろう…」と。
GMと部下が悩みながらやっていることに早く気づいて、しっかりとアドバイスや風土・仕組みづくりを一緒にやれなかったことを反省してます。
ライン長(課長など)だけでなく、主査・主幹・部長も入りながら、一緒にやっていくメンバーのキャリアを考えていけるような仕組みづくりをしていきたいと思っています。
LEXUS International Co.の渡辺剛プレジデントも、「マネージャーになりたい」という若手社員がほとんどいない実情を語り、「みんながクルマ屋として、成長できる」ような体制の必要性に言及した。
技能系職場からも、「目の前のクルマづくりに懸命に取り組んでいて中長期的なキャリアまで意識する余裕がない」という声が届けられた。
若手を中心としたキャリア形成の課題、支援するマネジメント層の苦悩。東本部長は「一律の運用をやってきた側面もあるので、それを打破して、いろんな個性が活きる人事制度のあり方を改めて考えていきたい」と結んだ。
100人いれば100人の働き方、活躍の仕方
ここから話題は、ベテラン層のやりがいにつながる適材適所の配置へと移っていく。
高い技能を持っていたり、タイムリーに的確なアドバイスができるベテランを、いかにモノづくりの強みに変えていけるか。
上郷・下山工場の斉藤富久工場長は、電動化が進み、つくるものが変わってきたとしても「今まで築き上げてきた技能や知見は、確実に活かされてきている」と強調。電動化に向けても「技能系を含め多くの方が連携会社で試行錯誤しながら、知見や技能を学んでいる」と説明した。
また、組合から現場の声が届けられると、生産本部の伊村隆博本部長も、技能系人材の活躍について考えを述べた。
伊村本部長
ベテランのEX級(現場を支えるリーダー)に対して、65歳まで生き生き働いていただくため、役割の再認識をしてもらう研修も、今、実施しているところです。
ライン長(課長など)ばかりが活躍の場ではありません。ひとつの技能を磨き続ける人材であったり、どの領域でも活躍できるマルチ人材など、いろんな道があり、どの道を選んでも、一生懸命頑張ることで、どこに行っても活躍できる技能を磨き、身につけることもできると思っています。
そして、その技能で、誰かのために自ら行動して達成感を味わうことで、モチベーションアップにもつながっていくと思います。
ベテランも若手も100人いれば100人の働き方、活躍の仕方があります。誰にでも、得意なこと、不得意なことがあります。
「ある仕事ができないからダメ」ではなく、技能のレベルを、みんなで見極めてチャレンジさせることが非常に大事なことだと思います。
トヨタ車体の寺沢秀則副工場長は、グループ会社をまたいで、工場の現場を束ねるリーダーが集まる「おやじの会」の一員でもある。
トヨタとともに乗り越えたトラブルやプロジェクトの立ち上げによって成長できた経験を伝えた。
トヨタ車体・寺沢副工場長
トヨタ車体は2020年にいなべ工場(三重県いなべ市)の組立ラインで大きなトラブルが発生しました。
非常に苦しんでいる中、「おやじの会」を通じて電話一本で、トヨタの応援を翌日からいただき、なんとか乗り越えました。
その翌年、吉原工場(愛知県豊田市)ではランドクルーザー300の立ち上げが控えていました。
14年ぶりの(フルモデルチェンジとなる)プロジェクトで、新技術・新工法など苦戦が予想される中、生準(生産準備)段階からトヨタに支援いただきました。
まさにワントヨタで立ち上げたと思っております。
応援者には、各ショップで技能を発揮いただき、その他、安全・品質・稼働・メンバーへの関わり方など、職場の基本でも多く助けていただきました。
人間力・コミュニケーション能力が高く、決して上から目線ではなく、相談に乗っていただき、対話いただきました。
今回の吉原工場での支援に来られた方には「トヨタ車体をもっと良くしよう」と一緒になって考えていただきました。
まさに「I」ではなく「YOU」の視点が浸透しているなと感じました。我々としても早く追いつかなければいけないと思っています。
今回、技能系同士が組織の壁を越えてコミュニケーションすることで、新たな刺激や気づきが生まれ、成長できています。
その人たちが職制となり、各職場で後輩に指導していくことで、トヨタグループの競争力が高まっていくと信じています。
今後はグループの交流をもっと深め、相互研さんを行い、ワントヨタでモビリティカンパニーのモノづくりを支えていきたいと思います。
トヨタとトヨタ車体といった横のつながりが、若手にとっても目指すべき姿を見つけるきっかけにもなる。寺沢副工場長の話を受けて、宮崎洋一次期副社長は、周囲とのコミュニケーションの重要性を語った。
宮崎次期副社長
どこにどんな人がいるか、会社・職場がどれだけ認知できているかが「適材適所」についての会話をする上で一番大事だと感じています。
「おやじの会」を通じて助けてもらえるのも、どこに誰がいるかわかっているからだと思います。
一方で事技職を見ると、(例えば)昇格議論では「この人がいい」と言われても、「見たことがない…」ということもあります。
自分が現場から離れていることを反省もしていますが、コロナ禍で「生の本人を見たことがない」「実際に会話したことがない」というケースもあります。
そのため、どんなキャリアを積みたいのか、どんなキャリアを積んできたのかという発想に至れていないのではないかと思います。
働き方変革でいろんな選択肢がありますが、普段から周りを見る、周りと接する機会もつくる必要があると感じました。
制度とともに、意識的に自分を見てもらう。自分の周りにどんな人がいるのか関心を持って見る。誰か参考になる人がいないだろうかという姿勢を持つことが、事技職、技能職に関係なく、大事だと思いました。