豊田章男社長の不在の中、初の新体制で始まった労使協議会。異例の初日回答で佐藤恒治次期社長が伝えた想いとは。
2月22日午前9時、トヨタ自動車の労使協議会(労使協)が本社で始まった。
リモートを含む約1600名が参加。話し合いに先立ち、先日逝去した豊田章一郎名誉会長を偲んで労使が黙とうをささげた。
トヨタの労使協は、1年間の総決算であると同時に、次の1年に向けた話し合いのスタートを切る場でもある。
「4月から経営を担う新体制で、『これからのトヨタ』について、労使の話し合いを深めてほしい」という豊田社長の想いを受けた佐藤次期社長。会社出席者のトップとして初めて臨んだ労使協で異例の発言があった。
「本年の賃金と賞与は、組合要求通りの回答といたします。あわせて、パートタイマーやシニア期間従業員の賃金も引き上げます」
「トヨタと一緒に頑張ってくださる自動車産業の仲間への想いを込めて、そして、各社で『労使の率直な話し合い』が進むことを願って、このタイミングでの回答とさせていただきます。」
例年であれば4回目の協議(今回は3月15日に予定)に言い渡されるはずの賃金・賞与に関する回答。それが、初日にあったのだ。
実はこの協議会の直前に、新体制の経営陣を中心とする会社の出席者が集まり、初日で満額回答をする意思決定が行われた。
佐藤次期社長は、今回の決断は「自動車産業全体への分配を促す先頭に立ち、自分たち一人ひとりが当事者として汗をかくということ」だと説明。
その決断の重みと、覚悟を確認し合い、回答に至った。
今回トヨタイムズでは、異例の決断を下した佐藤次期社長の発言。それを受けた組合・西野勝義委員長の返答を速報の形で掲載する。
第1回の話し合いでは、豊田社長が13年間で築いてきた、「商品・地域軸の経営」、「自動車産業550万人に向けた『トヨタの労使関係』」の継承についても多くの議論が交わされた。その内容については、詳報としてお伝えしたい。
トヨタの最大の財産は「人」
佐藤次期社長
最後に、私からも一言申し上げたいと思います。
本日は、この13年を労使双方で振り返ってまいりました。
私自身が感じている13年の最大の変化は、トヨタが大切にすべき「価値観」が浸透しているということだと思います。
「もっといいクルマをつくろう」
「町いちばんのクルマ屋になろう」
「自分以外の誰かのために行動しよう」
そういった価値観です。
そして冒頭に西野委員長からも「大切な基盤は相互信頼である」というお言葉をいただきました。
車両技術支部長からは、「クルマを軸に物事を考えてみたら、これまでの常識を変えてみよう、そんな行動につながった」という話もいただきました。
そういった価値観こそが、トヨタがこの13年間積み上げてきた、大切にすべき、共有すべき価値観なのだと思います。
その軸をブラさずに、行動につなげていけるか。それが、これから私たちが問われていくことだと思います。
その基盤となるのが、正直に、本音で会話ができる労使関係だと思います。
対話を重ねることで、豊田社長が積み上げてきたような労使の信頼関係を改めて築いていきたいと思っています。
トヨタほど「話し合い」を大切にしている会社はないと思います。
この1年も、年間を通じて話し合いを行ってきました。経営課題や職場の課題への理解を労使で深めてきたと思います。
私自身も、カンパニープレジデントとして、現場の皆さんの頑張りも、そして苦悩も、間近で見てきましたし、本音の対話が増えてきたことを実感しています。
この1年、クラウンやプリウスをはじめとする「もっといいクルマ」をたくさん世に送り出すことができました。
コロナ禍や供給問題によって、稼働の状況がめまぐるしく変わる中で、必死に生産準備や生産対応を進めてくれた皆さんがいたからです。
本当に大変だったと思います。
元町工場では、みんなで知恵を出し合って、1年で5車種もの立ち上げを実現していただきました。
販売に携わる皆さんは、長納期問題の解決に向けて、販売職場の困りごとにきめ細かく対応しながらJ-SLIMの導入など、「仕事の仕組み」の見直し、未来に向けた動きもとっていただいています。
そんな皆さんの姿を見てきたからこそ、その頑張りにしっかりと報いたい。
これが、河合おやじと新チーム私たち全員の想いです。
豊田社長も全く同じ考えでした。
従って、本年の賃金と賞与は、組合の要求通りの回答といたします。あわせて、パートタイマーやシニア期間従業員の賃金も引き上げます。
トヨタの賃金が既に高い水準にある中で、今回の要求は、本来、簡単にお応えできるものではありません。
私自身本当に悩みました。ある意味恐怖に感じるほどの、重い重い決断であると思います。
実際今朝まで、本当に今朝まで考え抜いて、先ほど新チーム全員の覚悟を確認して決断をいたしました。
決断とは、前に進むために行動を起こすことに覚悟をするということだと思います。
今回の決断は、トヨタのみならず、産業全体への想いをもって、トヨタと一緒に頑張ってくださる自動車産業の仲間への想いを込めて、そして各社で「労使の率直な話し合い」が進むことを願って、このタイミングでの回答とさせていただきます。
引き続き、産業全体に適正な取引や価格対応が行き渡るよう、ティア1の仕入先様の皆様とご一緒に、私たちは全力で取り組まなければなりません。
その覚悟を決めた、ということを回答に込めております。
こうした点も含めて、私たちには、話し合うべきことがたくさんあると思います。
次回は、組合の要求項目にある通り、「多様な個性を生かした全員活躍」をテーマに話し合いをしたいと思います。
最後になりますけれども、私自身、トヨタの最大の財産は「人」であると思っています。
クルマをつくるのは「人」です。
「人工(にんく)」とか「工数」という無機質なものではなく、技術と技能を持って、自ら考えて、挑戦する一人ひとりがクルマづくりを支えています。
だからこそ、処遇だけではなく、「人への投資」を強化して、一人ひとりに寄り添って、全員の「やりがい」、「働きがい」を高めていきたいと思います。
生き生きと働いて、誰かのために行動できる人財を育てて、その力を、オールトヨタ、そして産業全体の競争力向上につなげていくこと。これが、トヨタ労使の使命だと思います。
具体的な施策につながる話し合いをぜひとも深めてまいりたいと思います。
本日はありがとうございました。
西野委員長
ただいま佐藤次期社長より賃金・賞与について、組合要求通りとの旨のご発言がありました。
昨年に引き続き異例のことではありますが。組合員のこの1年の頑張りをしっかりと受け止めていただいたものと、我々も受け止めます。
また何よりも自動車産業で働く仲間、組合のない会社で働く仲間に対しても、賃金・一時金の回答のみならず、今回の労使協議会での議論をしっかりと波及をさせていきたいという強い想いを感じました。
このことは組合としても全く同じ考えであります。産業全体に適正な取引を浸透させ、産業全体の競争力向上に向けて、引き続き労使で力を合わせて全力で取り組んでいきたいと思います。こうした労使共通の想いを大切にしながら、次回以降も議論を進めていきたいと思います。
(中略)
佐藤次期社長から先ほど提案がありましたように、産業全体の競争力向上とトヨタで働く一人ひとりの最大限の能力発揮に向けて、仕事のやり方や働き方を変革させるために、引き続き議論をしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
本日はどうもありがとうございました。
労働組合は、2月15日の申し入れにおいて、賃金の引き上げや、ボーナスに当たる年間一時金6.7カ月分(夏:3.7カ月、冬:3.0カ月)などを要求していた。
オールトヨタ、そして産業全体の競争力向上へ、話し合いは今後も継続される。次回は3月1日を予定している。