「多様性は力」科学者が説く日本らしい脱炭素

2023.02.10

5月の広島開催が近づくG7サミット。トヨタ チーフ・サイエンティストのギル・プラット博士は世界に発信する日本らしい脱炭素の取り組みとして、多様な選択肢の重要性を伝えた。

多様性は力

講演後の質疑では、代替燃料やインフラ整備にかかるコストなど、さまざまな業種が抱える課題があがった。プラット博士は、「同じソリューションを押し付けることはない。同じ答えを全ての地域で持つ必要はない」と応じた。

2022年、政府とモビリティ委員会との会合で「アマラの法則」について語った十倉雅和委員長(経団連会長・住友化学会長)も多様性の持つ力に反応した。

十倉委員長

プラット博士がアマラの法則に言及されました。「革新的な技術は短期的には過大評価し、長期には過小評価する」。

注意しなければならないのは、その後、馬車はゼロになったということです。でも、そこにはいくつかの道があると思います。そのことを念頭においてやるべきというのは、プラット博士のおっしゃる通りです。

「多様性は力」とありましたが、多様性にはレジリエンス(しなやかさ)があると思います。

これから、地政学も、革新的な技術の中身も変わってくる。さらに、生物多様性が叫ばれているように、いろんな制約条件も出てくる。ひょっとしたらGX(グリーン・トランスフォーメーション)とは相克するものになるかもしれない。

そう考えると、いろんな道を追求するのは正攻法だと思います。自工会(日本自動車工業会)が言う「山の登り方はいくつもある」。その通りだと思います。

もう一つ注意が必要なのは、欧米は自分たちのパスウェイを経済外交戦略に落とし込んでいるということです。産業競争は始まっています。

我々はしっかり対抗しなければならないし、視点はアジアを中心としたグローバルサウスにどう取り組むか、より広い視野で進めていくべきだと思います。

G7はそういったことを打ち込む絶好の機会だと思います。ぜひ活用していきたいと思います。

最後に豊田章男委員長(自工会会長・トヨタ自動車社長)が自動車業界をペースメーカーにCO2削減の協力を呼びかけた。

豊田委員長

今すぐCO2排出を下げる活動をすれば、地球の寿命は長くなる。そのためにも、エネルギーを「つくる・はこぶ・つかう」の、特に「つかう」側で規制が先行して、今の産業を壊すのではなく、自動車というBtoCのビジネスをペースメーカーにしていただけないかと思っています。

2035年にガソリン車(の新車販売)が禁止になる話があります。現在、日本で売れている新車は(年間)約500万台弱です。それ(だけのBEV)が毎年出ていくためには、新たに原発1基の発電能力が必要です。

では、2035年までにどういう再生可能エネルギーがつくれるか。一例として、日本には2700個のダムがあります。その面積を計算すると、東京都と同じくらい。その上に太陽光パネルを置くと、原発30基分(の年間発電量)になります。

ガソリン車が2035年から売れなくなるなら、それまでに再生可能エネルギーで電気がまかなえる能力を付けるなど、産業を越えた協力のペースをつくっていくのが現実的だと思います。

今すぐCO2を下げられる活動にすべての産業が取り組めば、今の計算よりも地球の寿命は延びる。

ほかの産業の協力を仰ぎながら、自動車をペースメーカーに考えていただくと、日本全体の競争力強化につながると思って聞いていました。

民間企業が同じ方向に向けた活動をやっていかないと、この国は滅びてしまうかもしれません。任期がある間、しっかりやらせていただきます。是非とも協力いただきたいと思います。

科学的知見に基づいて語られた、日本らしいカーボンニュートラル。世界の注目が集まるG7で各国のリーダーの理解を得るため、産業の垣根を越えた連携の重要性が一段と高まっている。

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