5月の広島開催が近づくG7サミット。トヨタ チーフ・サイエンティストのギル・プラット博士は世界に発信する日本らしい脱炭素の取り組みとして、多様な選択肢の重要性を伝えた。
「私の使命は、多くの人に『多様性こそが力』と伝えていくこと」。
2月8日に開催された、第2回モビリティ委員会での講演後、トヨタのチーフ・サイエンティスト兼エグゼクティブフェローであるギル・プラット博士は参加者500人超(リモート含む)に向けてメッセージを送った。
モビリティ産業の国際競争力強化を通じて日本経済全体の成長を目指す「モビリティ委員会」。参加者はG7広島サミット(主要国首脳会議)に向けて「日本らしいカーボンニュートラル」を世界に発信していくことで認識を共有した。
今回の会合に特別ゲストとして登壇したのが、プラット博士。TPS(トヨタ生産方式)をはじめとする日本の生産方式や多様な選択肢を持つことがCO2削減にもつながると説いた。
トヨタイムズでは、客観的なデータや事例に基づいて語られた講演を紹介する。
限られた資源の中で高品質を生み出してきた日本
プラット博士
本日は、気候変動に最も効果的に対処する方法について、日本がG7各国や世界に何を伝えることができるのかをお話しします。あわせて、日本を外から見る外国人としての視点、そして、日本の企業で働く科学者としての視点から、私の考えをお伝えします。
島国である日本は、限られた資源の中で成長をするという、非常に貴重、かつ独自の経験をしてきたと思います。
TPSをはじめとするリーン生産方式が日本で生まれたのは、決して偶然ではないでしょう。ムダを省きつつ、品質を高めるという日本の技術革新は、世界への素晴らしい贈り物になると考えられます。
日本はG7・世界に対して、この教訓を伝えるべきではないでしょうか。具体的には、限られた資源の中、できるだけ早く、できるだけ多くの二酸化炭素を削減する重要性を伝えられると思います。
この教訓は、救命ボートで生き延びるために必要な行動と同じです。サー・アーネスト・シャクルトンの南極大陸への大冒険で使われた救命ボートに乗っていたとしましょう。そのとき、用意していた全ての水を一人に与え、その人が手を洗えるようにするでしょうか。それとも乗員の喉の渇きを防ぐために、水をみんなで分配するでしょうか?答えは明らかだと思います。
また、船員それぞれのニーズに関係なく同じ量の水を全員に与えるか、それとも船を漕いでいる人に多くの水を与えるでしょうか?この質問に対する答えもまた、明らかでしょう。
電池用鉱物と充電インフラの不足
プラット博士
今日の気候変動との戦いの中で、リチウムをはじめとする多くの電池用鉱物は、救命ボートにおける水のような存在です。
BEV(電気自動車)をつくるには、従来のガソリン車に比べ、最大6倍もの重要鉱物が必要となります。また、電池工場の建設期間は2〜3年ですが、新しい鉱山の稼働には10〜15年かかります。
その結果、地球上にはたくさんの電池用鉱物が眠っているにも関わらず、IEA(国際エネルギー機関)を含む多くの専門家は、今後10〜20年(自動車の寿命とほぼ同じ期間)は、電池用鉱物が30〜50%不足すると予測しているのです。
そして、不足するのはリチウムだけではありません。さまざまな重要鉱物の供給不足、そして充電インフラの整備状況も、地域によって大きく異なるでしょう。そのため、たとえ電池用鉱物の不足が解消されたとしても、クリーンな電力を供給する充電インフラは、今後数十年間、世界の多くの地域で不足することになります。