モビリティ産業の発展と脱炭素で官民連携 政府との対話をキックオフ

2022.11.09

「日本の競争力強化、日本の未来に動き出すためのキックオフができた」

11月2日、政府と経団連のモビリティに関する懇談会を終え、豊田章男社長(経団連モビリティ委員会委員長)は記者団に語った。

今年6月に立ち上がったモビリティ委員会にとって、初めての政府との会合。政府からは岸田文雄首相や閣僚ら9人、同委員会からは3委員長 をはじめとする7人が参加した。

*豊田委員長のほかは、十倉雅和委員長(経団連会長・住友化学会長)、有馬浩二委員長(デンソー社長)

会合では、自動車産業のこれまでの経済や雇用への貢献とモビリティ産業の成長ビジョンについて認識を共有した。

トヨタイムズでは、出席した3委員長の発言と懇談会を総括した岸田首相のコメントを全文掲載する。

十倉委員長「GX推進には準備期間が重要」

十倉委員長(経団連会長・住友化学会長)

本日は、岸田総理のリーダーシップにより、我が国の成長を牽引いたしますモビリティの未来につきまして、懇談の機会をちょうだいし、誠にありがとうございます。

また、モビリティは、省庁横断的な重要なテーマであり、こうして関係閣僚の皆様一同に対して、産業界の声を聞いていただけることに、心からお礼申し上げます。

昨今の激変する世界経済のなかで、持続可能で、力強い日本経済を取り戻すためには、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)などの加速とともに、今後の成長を牽引する産業の育成が急務であります。

そこで経団連では、この6月に「バイオエコノミー」「クリエイティブエコノミー」そして「モビリティ」に関する3つの委員会を新たに立ち上げました。

とりわけ、モビリティ産業は裾野の広い日本の基幹産業であり、「成長と分配」の好循環を実現し、分厚い中間層を復活する上でも大きな役割を担っております。

経団連のモビリティ委員会には、200社を超える幅広い業種・業界からご参加を得ており、会員企業の関心の高さを改めて実感しております。

私自身、モビリティのことを考えると、思い浮かびますのは、未来科学者のアマラの言葉であります。「私たちは技術の効用を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向にある」というアマラの法則であります。

短期的に見れば、GXの推進には、トランジション(準備期間)の過程が重要であり、EV(電気自動車)化も自動運転化も一気に進むものではないということは言うまでもございません。

また一方で、技術は日進月歩で、近い将来、今ある技術の相対的優位性は失われてしまいます。従って、EVも自動運転も長期を見据えれば、今からしっかり取り組んでいかなければなりません。

こうした短期、長期の視点、トランジション、ゴールの視点を踏まえながら、これからの日本の競争力のカギを握るモビリティ産業には良きペースメーカーになってもらうべく、産業界全体として、取り組みを進めてまいりたいと存じます。

また、モビリティ委員会への参加企業からは、政府に対して、新たなモビリティサービスや技術に関する実証実験や実用化に向けた積極的な規制緩和や、研究開発やインフラ整備への支援を望む声が寄せられております。

また、政府における省庁横断的な取組みや、国際的なルールづくりに対する期待も聞こえてまいります。

私は2025年の大阪・関西万博の2025年日本国際博覧会協会の会長を務めています。大阪関西万博が未来社会のショーケースとして、EV、自動運転など、我が国のモビリティ産業の未来を示す絶好の機会となることを心から期待しております。

なお、本日は初回ということで、経済界からはモビリティ産業のけん引役が期待される自動車産業を中心に参加いただいています。

是非モビリティ産業の発展に向けて、政府の皆様と密に、連携させていただき、税制など含めまして、ご意見たまわれれば幸いでございます。

豊田委員長「日本人みんなが『一生懸命働き続ける』」

豊田委員長

これまで日本が世界の中でも競争力を維持してこられたのは、「分厚い中間層」があったからであり、今まさにその再構築が求められていると思います。

その実現に向けて一番大切なことは、日本人みんなが「一生懸命働き続けること」ではないでしょうか。

私なりに、この「働き続ける」ということについて、自動車産業の過去、現在、未来で整理をしましたので、簡単に紹介をさせてください。

70年代のオイル・ショック、80年代の貿易摩擦や円高、90年代のバブル崩壊や新興国の台頭など、私たちは様々な危機に直面してきました。

ただ、その度に、自動車産業は常に時代の波に先んじて、みんなが勤勉に働き続け、危機を乗り越え、持続的に成長してまいりました。

カーボンニュートラルに向けても、各国が必死になってCO2の削減に向けた取り組みを進めようとしていますが、日本の自動車産業は、軽自動車から二輪・大型まで、フルラインナップがそろっている強みを生かし、低燃費技術の開発や世界に先んじた電動車ラインナップの普及・拡大に努め、過去20年でCO2を約23%も削減し、世界をリードしてきました。

この結果、80年と足元で比較をしますと、自動車産業の売り上げは20兆円から60兆円、納税は8兆円から15兆円、外貨獲得も8兆円から15兆円へと、大幅に上昇しています。

そして、リーマン・ショックなどの危機をへても、550万人の雇用を守り続けてきました

このコロナ禍においても、日本全体で88万人の雇用が減るなか、自動車産業は12万人の雇用を増やしております。これもよくご理解いただきたいと思います。

日本の本来の姿は、資源を輸入し、加工し、輸出して外貨を稼ぐことだと思います。自動車産業は積極的な投資を続け、ものづくりの基盤、雇用、そして世界と戦える競争力を守り抜いてきた実績があります。

そして、日本全体では所得が伸び悩み、格差が広がる中、自動車産業は、従業員、株主、仕入先など、幅広いステークホルダーへの分配を継続的に実施し、「成長と分配の好循環」に貢献することで、強い中間層を維持してきたと考えております。

今年の6月、大変お忙しい中、総理に弊社の元町工場をご覧いただきました。当日は、新型BEVのほか、小型モビリティから新型クラウンまでを混流生産している工程をご覧いただき、選択肢を広げることは現場ではとても大変なことだと総理にも感じていただけたと思います。

まさに未来に向けた準備ができるのは、現場の知恵や工夫、泥臭い努力があってこそです。

私たちの競争力の源泉である現場をご覧になられた結果、その後のG7で、米欧のZEV(ゼロエミッションビークル)数値目標化に対して、孤軍奮闘をいただけた総理のご活躍にもつながったのではないかと、想像しております。

日本経済が強さを取り戻すためには、資源のない日本において唯一の資源である人材が、知恵と工夫を出し合い、技術革新や高い生産性を産み出せるよう、「必死で働くこと」であり、幸い、日本にはそのような強い現場がまだあると思います。

自動車産業は、こうした日本の良き競争モデルを一生懸命守り抜いてきており、それが自動車業界をペースメーカーに成長と分配を考えていただきたいと、私がこれまで申し上げてきたゆえんです。

日本の自動車産業が世界をリードし続けられたのは、日本の強い現場のおかげであり、政策資源をこのような日本の強みに注ぐべきではないでしょうか。

この先も製造現場をより一層強くし、そこにDXなども絡め、新しい仲間と一緒に知恵を絞りながら、働き続ける。

これにより、モビリティ産業として付加価値を高めていきながら、地方も含めた社会課題の解決や新しい価値の創造によって、人々の暮らしを豊かにしていける大きな可能性があると思います。

この未来への成果には、相当大きなものが期待できます。詳しくはこの後ご紹介しますが、経済への貢献を今の60兆円から100兆円に、雇用を550万人から700万人に、そして税収を15兆円から25兆円に引き上げるポテンシャルがあります

カーボンニュートラルについても、エネルギーのグリーン化が厳しい事情があるからこそ、BEVの一本足打法ではなく、日本の強みであるハイブリッド、軽自動車、二輪や水素もフルに生かした、日本独自の山の登り方で、CO2を削減していくことが必要ではないでしょうか。

政府におかれては、是非モビリティを政策の中心に据えつつ、日本の強みを生かしたやり方を骨太に議論いただきたいと考えております。

そして、規制から入るのではなく、私たちがしっかり働き続けることと、モビリティの発展やカーボンニュートラルの実現が両輪で回るよう、日本の基幹産業をしっかり支える税制への抜本改革も含め、ご支援をお願いしたいと思います。

有馬委員長「中小企業が競争力の基盤」

有馬委員長(デンソー社長)

自動車部品産業は、構成する企業の9割を中小企業が占めており、自動車産業が新たなモビリティ産業へ進化しても、中小企業が競争力の基盤であるという構図は変わらないと考えます。

また、自動車部品産業は、カーメーカーや中小サプライヤーだけではなく、インフラやエネルギー、素材、物流業界など、多様な仲間との接点がございます

先ほど、西村大臣からも「業種の垣根を越えた新たな連携」とおっしゃっていただいたように、自動車産業が、新しいモビリティ社会においても役に立つ産業であり続けるためには、従来の枠組みにとらわれない連携が極めて重要であると考えております。

だからこそ、私たちが接着剤となり、業種の垣根を越えた連携を強化し、サプライチェーン全体の課題解決に貢献してまいりたいと思います。

先ほど、豊田委員長が「日本の強みを生かした日本独自の山の登り方」とコメントされましたように、中小も含めた自動車産業がこれまで培ってきた強みを、更に磨き上げ、生かすことで、CO2 削減に貢献できるのではないかと思います。

また、カーボンニュートラルを実現するためには、業種や規模を問わずサプライチェーン全体をデジタルにつなぐことが不可欠であり、まさに、政府と産業界が一体となった取り組みが求められております。

日本の各地域に根差した中小企業をはじめとするサプライチェーンの強靭化によって、国内自動車市場を活性化させるとともに、地域の産業や暮らしを元気にできるよう、GX DXの取り組みを広げてまいりますので、政府のお力添えのほど、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

岸田首相「自動車産業は経済・雇用の大黒柱」

岸田首相

本日は、産業界の皆様から、モビリティ産業の成長ビジョンについてお伺いいたしました。

ものづくりを国内で維持し、関連産業の裾野も広い自動車産業は、我が国経済・雇用の大黒柱です。脱炭素化、デジタル化などの大変革、企業間競争のみならず、立地を含めた国際競争の激化など、歴史的転換点に立つ中で、我が国の経済や雇用を守り抜くために、官民が連携して、更なる成長にチャレンジしていく必要があります

自動車を核として、まちづくり、サービス、エネルギー、ITなど、様々な産業が広がりをもってつながることで、交通やグリーンなどの様々な社会課題を解決し、経済成長につなげ、持続可能な社会を作っていく。

モビリティは、新しい資本主義の中軸とならねばならない分野です。

脱炭素化など社会課題解決と成長を両立させるためにも、強靱で先進的な自動車産業が、グローバルな事業展開の中核として我が国に存在していくことが重要です。

次回のモビリティ懇談会は、サプライチェーンをめぐる地政学的制約や脱炭素の潮流により、グローバルな立地のあり方が急速に変化している中で、我が国のモビリティ産業を強化するために官民で何を優先的に取り組むか、率直に議論したいと思っております。

最後になりますが、これまでの賃上げや取引適正化についての積極的な取組についても、政府として高く評価しております。引き続きご協力をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

政府×経団連の対話の意味

「経団連の会長と総理が向き合ってモビリティ委員会でやっているから意味がある」。豊田委員長は今回の会合の意義をこう語る。

カーボンニュートラルは、国民共通の課題であり、産業を越えた“オールジャパン”の連携が欠かせない。そのために、自動車の業界団体としてではなく、経団連として行動を起こしていくことが重要だ。

日本の競争力の強化と未来を見据え、今後も官民で対話を続けていく。

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