「多様性は力」科学者が説く日本らしい脱炭素

2023.02.10

5月の広島開催が近づくG7サミット。トヨタ チーフ・サイエンティストのギル・プラット博士は世界に発信する日本らしい脱炭素の取り組みとして、多様な選択肢の重要性を伝えた。

CO2削減は喫緊の課題

プラット博士

CO2は大気中に非常に長い時間蓄積されます。CO2を大気から直接除去するには、膨大なエネルギーが必要です。

つまり、私たちが今日排出したCO2は、私たちのひ孫やその先の世代の時代まで大気中に残ります。したがって、私たちは、資源の制約がある今後数十年の間も、できるだけ早く、できるだけ多くのCO2排出を削減しなければならないのです。

私たちは限られた資源しかない状態で救命ボートに乗っているだけではなく、時間も味方をしてくれていません。一生懸命ボートを漕ぎ、一刻も早く、できるだけ多くの結果を出すことが急務であります。

これを自動車の電動化という文脈で見てみましょう。生涯平均で253g/kmCO2を排出するガソリン車が100台あったとします。そして、救命ボートにおける水のように、100kWhのバッテリーが使えるとしましょう。その100kWhのバッテリーをすべて、長距離走行が可能なBEV1台に搭載することもできます。

一人にすべての水を与え、その人が手を洗えるようにするのと同じです。このBEVに乗るお客様は、自分のクルマの生涯平均のCO2排出量が62g/kmで済むため、CO2削減に貢献できます。

しかし、100台のクルマの総CO2排出量は、既存のガソリン車1台が置き換わるだけなので、少ししか減りません。

同じバッテリーを、6台のPHEV(プラグインハイブリッド車)に分配することもできます。1台あたりの生涯平均排出量は80g/kmBEVには劣りますが、1台ではなく6台のガソリン車を置き換えられるため、全体のCO2排出量はより少なくなります。また、PHEVBEVより安いため、お客様が実際に購入する可能性も高くなります。

さらに、同じバッテリーを、より手頃な価格の90台のHEV(ハイブリッド車)に分配することもできます。1台のCO2排出削減量はさらに少なくなりますが、全体のCO2削減量はさらに大きくなります。

この結果は、各車種の正確な排出量には影響されません。なぜなら、総削減量は、置き換えられたガソリン車の台数に影響されるからです。

もちろん、「HEVだけをつくれば良い」ということではありません。世界には、HEV一本化では使い切れない電池用鉱物があります。一方で、BEV一本化に必要な十分な資源はありません。

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