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2023.09.27

F1 撤退を決めた豊田章男が 14 年経った今"F1 を目指すドライバーの夢"を後押しした訳

2023.09.27

「トヨタ系のドライバーは F1 には乗れない...」ファンでさえそう思っていた。しかしそれを打ち破るような発表があった。そこにある豊田章男の想いとは?

質問する側が「びっくりしました、それが(いま思っている)全てです」と第一声をあげた豊田章男へのメディアインタビューが、2023923()F1日本グランプリの会場である鈴鹿サーキットで行われた。

びっくりしたと言った質問者はこう続けた。「モリゾウさんがF1、鈴鹿サーキットにいることがまず驚き」「今回の発表は豊田章男ではなくモリゾウとして発表していたから、やっぱりドライバー目線で見てくれているんだなということを感じました」

前日にあったマクラーレンからのリリース

F1に参戦しているマクラーレンフォーミュラ1チームからプレスリリースが、その前日に出ていた。昨年の世界耐久選手権(WEC)チャンピオンでありル・マン24時間レース勝者でもある日本人ドライバー平川亮(29)が、このチームのリザーブドライバー になるという発表である。
*補欠選手。2名いるレギュラードライバーが欠場となったらレースに出場する。そのためにそのクルマを乗りこなせるようにトレーニングをしていく。

平川亮は200713歳のときにカートをはじめ、2年後15歳のときにトヨタのレーシングスクールを受講した。その3年後には全日本F3でチャンピオンを獲得、さらに翌年には国内最高峰のレースであるスーパーフォーミュラに参戦している。

以降、現在の世界耐久選手権参戦に至るまで、ずっとトヨタ系のチームでドライバーのキャリアを歩んできた。いわゆる「トヨタの育成ドライバー」である。

トヨタ系ドライバー、ホンダ系ドライバー

F1はサーキットレースにおける最速のカテゴリーであり、現在は、唯一の日本人ドライバーとして角田裕毅選手が参戦している。

角田選手はホンダのレーシングスクール出身であり、いわゆる「ホンダの育成ドライバー」である。エンジン供給という形でF1に参戦しているホンダは、ドライバー育成ルートの先にF1のシートも見えているということである。

トヨタもかつてF1に参戦していたことがある。トヨタの育成ドライバーだった中嶋一貴や小林可夢偉も世界最速カテゴリーのF1を目指していた。中嶋一貴は2008年、2009年にトヨタエンジンの F1チームで参戦。小林可夢偉も2009年に2戦だけトヨタチームで参戦した。

2009年日本グランプリ(鈴鹿サーキット)

しかし、その2009年シーズン、最終戦が終わった3日後に会見が開かれ、トヨタは「F1からの撤退」を発表した。そのことを決断し、会見で撤退を発表したのが豊田章男社長(当時)である。社長就任が20096月だったので、社長になって半年というタイミングであった。

まだ 20 代だった中嶋一貴や小林可夢偉にしてみれば「これから!」というときに、豊田社長の決断によって道が閉ざされた形でもあった。

豊田章男にとってのモータースポーツ

2009年のF1撤退会見で豊田章男はこう発言している。

豊田社長(当時)

撤退の判断は取締役会で意見を聞きながら最終的には私自身で下しました。

レースはクルマを鍛えると同時にヒトを育ててくれる素晴らしい現場であり、そういう意味でのクルマ文化を育てるためにも、F1は残念ながら撤退するが、商品というアウトプットで応えていきたい。

水素エンジンへの挑戦が始まって以来「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」という言葉を豊田章男の口からよく聞くが、モータースポーツに対する想いは、14年前から一貫していることがわかる。

実際に、経営環境の悪化によってF1からは撤退したが、モータースポーツを一切やめた訳ではなかった。商品というアウトプットで応えていくため、豊田章男は市販車の商品力向上につながる活動としてモータースポーツを位置付け、この後もトヨタのモータースポーツを続けていく。

「スポーツカーをつくる技能を取り戻すためのニュル24時間耐久レース」や「ハイブリッド技術の向上のための世界耐久選手権(WEC)」への参戦は継続。悪路も含めたあらゆる公道で競う世界ラリー選手権(WRC)には2017年に参戦を再開している。そして、最近ではカーボンニュートラルへの技術をいち早く市販化につなげるため「開発途上の水素エンジンでのレース参戦」も推し進めている。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」に取り組む豊田章男にとってF1は「市販車開発から距離が遠い競技」であった。そのため、今までファンや記者からF1再参戦について聞かれることがあっても「私が社長をやっている限りはないと思います」と明言し続けていた。最近では、そのような質問さえもされなくなっているほどである。

「トヨタ系のドライバーはF1には乗れない」という認識は、そんな背景のもとで広まっていた。その中で「トヨタ系ドライバー平川亮のF1への参画が決まった」というニュースが流れたため、冒頭に書いた第一声のように多くの人が「びっくりした」という訳である。

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