企業経営者や役員200名にトヨタ生産方式の講演を行った豊田章男会長。Q&Aセッションでは、リーダーの心得や経営判断について、寄せられた質問に答えた。
決断と責任を取ること
――トップリーダーの心得を教えてほしい
豊田会長
私はご教示できるような立場ではないと思いますが、経営者としてやってきたことは2つだけです。決断と責任を取ること。この2つこそが、経営者の仕事だと思ってやってきました。
(社員が)自分のところに相談にきたときには、最後の砦としてきたんだろうなと思っています。
ですから、私の部屋を出たときには「こうすればいいんだ」とわかるような回答をしてあげようと考えています。
ただ、私も未来予言者ではないので、その回答が正解とは限りません。ただ、少なくとも私の部屋を一歩出て、何かやりだしたことで、より多くのことが見えるようになればと思っています。
間違いをしたら、責任を取ってあげる。口で言うのは簡単ですが本当にやってくれるかどうかなんです。
何か厄介な話が来たときに、自らが動く姿をお示しされれば、いろんなことが変わると思います。
私のときは、「早く赤字の責任取って辞めなさい。それがあなたの役割だ」という感じだったと思います。
ですが、ここまで続いたのは、危機が続いたからです。危機が続き、誰も解答がわからない。覚悟を持って、「どんな結果になってもいいからやってくれよ」と言い、うまくいかないときに表に立ったからだと思います。
そういう態度を、一つずつお示しいただくことが重要なんじゃないかと思います。
昨今、日本のメディアに対してですが、あまりに分断や誹謗中傷を煽るな…と感じております。
未来は子どもたちとか、これから先が長い人たちのもの。どんな大人の姿を見せるかも大事になってくると思います。
今の大人が、まず率先して動き、ありがとうと言い合える。助け合える。そして、笑顔が多くなる。そんな世界をつくらないと、子どもたちは、どんどんこの国から逃げていくんじゃないかと思います。
何か困ったことがあったときには、自分が表に立ってあげる行動を示すと、きっと多くの応援団が得られるんじゃないかと思います。
企業経営の過去・現在・未来
――日本の製造業に対して、あるいは、後世に対してどのようなことを伝えたいか?
豊田会長
企業経営には、過去・現在・未来があると思います。過去があるから今がある。今、やっているから、未来の世界は変わるということがあると思います。
仕事でも、過去の処理をしているグループもあれば、現在の稼ぎをあげている部署もある。未来の先端・先行の研究開発をやっているところもあると思います。
ですが、企業経営で大事なのは、それぞれが「ありがとう」と言い合える関係をつくることなんじゃないかなと思います。
先端、先行をやっている人たちは、「過去こういうことをやってきて、現在こういうことやってくれているから、俺たちは未来のことができるよ」。
過去、現在をやっている人たちは、「自分たちの未来のために頑張れよ。しっかり稼ぐから、リソーセスを持っていってもいいよ」。
お互いがお互いに助け合う感覚になったとき、企業は非常に強いものになっていくんじゃないかなと思います。
「未来をやっている人、新プロジェクトをやっている人がいい」としないことこそが、経営者の仕事だと思います。
私はすべての仕事に意味があると思っています。これはいい仕事、これは悪い仕事というのはないわけです。
やる以上は、多くの方を幸せにしていきたいという気持ちで、私はやっています。
モノづくりのリーダーたちからの質問に回答していった豊田会長。それは、いずれも自ら行動を起こし、現地、現物、現実を見て、導いてきた答えだった。
「現場を知っているものが一番強い」「たゆまぬ改善」「自分以外の誰かのために」「異常で止める」「人の持つ考える力を尊重する」「モノづくりは人づくり」――。
豊田会長の回答一つひとつから伺える価値観には、やはりTPSの教え、ものの見方があった。
*参考:NPS/NPS研究会とは?
NPSとは「The New Production System」の略で、環境の変化に柔軟、迅速に対応して、効率よくモノづくりを推進するマネジメント手法を指す。
同研究会は、新しい生産方式(NPS)の確立を目指して、ウシオ電機の木下幹彌(きのした・みきや)氏、オイレス工業の川﨑景民(かわさき・かげたみ)氏、紀文食品の保芦將人(ほあし・まさひと)氏らが中心となって始めた自主研究会を起点として1981年に発足。
TPSを自動車以外のいかなる業種にも応用できる経営哲学ととらえ、現在、45社以上の会員企業(1業種1社)が参画する。
トヨタでは1982年、TPSを体系化した大野耐一 元トヨタ自動車工業副社長が同研究会・初代最高顧問に就任。昨年からは第4代最高顧問として、友山茂樹エグゼクティブフェローが在任している。