企業経営者や役員200名にトヨタ生産方式の講演を行った豊田章男会長。Q&Aセッションでは、リーダーの心得や経営判断について、寄せられた質問に答えた。
一つの選択肢じゃダメじゃない?
――トヨタは全方位でBEV(電気自動車)も、水素も、全部やると言う。これからのトヨタのクルマづくりの将来像に興味がある。将来をどう捉え、どう進めていくか聞かせてほしい。
豊田会長
そのご質問は回答に4時間ぐらいかかります(笑)。4分で回答しようとすると「一つの選択肢じゃダメじゃない?」と思っています。
カーボンニュートラルの山の登り方は、各国のエネルギー事情に関わってまいります。それと、今すぐできることをやろうという考えで、トヨタはやっております。
ご存知のように、トヨタはグローバルな会社で、フルラインナップメーカーです。「BEVだ」と言っておられる方は、どちらかというと、BEV 1本で戦っておられるところです。
BEVやFCEV(燃料電池車)はインフラとセットです。
ただ全世界では10億人の方が電気の通っていないところに住まれています。トヨタの場合、そうした地域にもクルマを供給しておりますので、BEV 1本の選択肢では、すべての方に移動を提供できません。
だから、いろんな選択肢を持とうとしております。
そして、トヨタにあって他の会社にないのがHEV(ハイブリッド車)です。HEVを日本で20~30年前に導入したおかげで、日本が唯一、先進国の中でCO2を23%も下げている国となりました。
ただ、メディア中心にどなたも説明をしてくれません。「トヨタはBEVで遅れている」としか言われません。
大事なことは、BEVにする、FCEVにするということではありません。敵はCO2です。なので、CO2を今すぐでも減らすことをみんなで考えようということです。
そして、どの地域や国、所得層の方からも、移動の自由を奪ってはいけないとトヨタは考えております。
今、オートサロンの途中ですが、昨日もその会場で「エンジンやるぞ!」とぶち上げました。
いくらBEVが進んだとしても、市場のシェアの3割だと思います。そうすると、あとの7割はHEVなり、FCEVなり、水素エンジンなり。そして、エンジン車は必ず残ると思います。
それは規制値、政治の力ではなく、お客様や市場が決めることだと思います。
だから、全世界で勝負をしているトヨタ自動車は、フルラインナップで、マルチパスウェイをやらせていただいております。
昨年のG7でやっと日本がマルチパスウェイと言い出しましたが、それまで3年間、そう言っていたのは、自動車業界でこの私1人であります。相当叩かれました。1人で戦っていくのは本当につらいことです。
自動車産業550万人の中で、エンジンに人生をかけて仕事をしてきた人が、急に「BEVだ」となると、「今までの人生、何だったんだろう」と感じられると思います。
そういう方々も「カーボンニュートラルに参加できるんだ」と元気をつけてもらうために、トヨタ自動車に対して、新しいエンジンのプロジェクトをお願いしておりますし、そのうち佐藤(恒治トヨタ自動車)社長から発表があると思います。
エンジン関係のサプライヤーさんに銀行がお金を貸さないということもございます。
未来はみんなでつくるものですし、一部の選択肢だけで、やらない方がいいと私は思っております。
日本には日本のやり方がある。何でも欧米に倣えとするのが本当の正解ではないと思います。市場とお客さんに選ばれていけば、きっと未来は変わってくると思います。
トヨタの考えに共感いただいた方は、応援いただきたいと思います。