トヨタのコラム
2022.01.19

「シリアと日本のアンバサダーとして」 トヨタの門をたたいた難民留学生

2022.01.19

昨年6月、トヨタの中東事業を管轄する中東部が、約1カ月間、シリア人留学生2人をインターンシップで受け入れた。

2人はシリア内戦の激化により亡命した後、日本政府が立ち上げた「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム*Japanese Initiative for the future of Syrian RefugeesJISR)」に応募して20182019年に来日。日本の大学でMBA取得を目指していた。
*日本政府が2016年、中東政策の一環として発表したプログラム。JICA(国際協力機構)が、修学機会を失われたシリア人に教育の機会を提供するために発足。隣国のヨルダン、レバノンに難民として逃れているシリア人を対象に、2021年まで5回に分けて、約100人の留学生を受け入れる。JISRはアラビア語で「架け橋」の意味。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2020年末時点で、紛争や迫害で故郷を追われた人の数は世界で8240万人。そのうち、最も多いのがシリア人であり、実に670万人にも及ぶという。

日本では意識する機会が少ない難民について知ろうと、中東部がUNHCRにコンタクトしたことがきっかけで、インターンシップを受け入れることになった。

中東からはるばる日本にやってきた2人はトヨタで何を学んだのか。そして、難民というバックグラウンドを持つ彼らにトヨタはどう映ったのか――。インターンを終えた2人にインタビューを実施した。

学びたくても学べない境遇

インターンに参加したのは、アハマドさんとイブラヒムさんの2人。ともにシリア有数の国立大学で工学専攻だった。

そんな2人の運命を変えたのが2011年の「シリア危機」だった。民主化運動の波「アラブの春」はシリアにも及び、各地で政権打倒を叫ぶ大規模デモが発生。そこに過激派武装勢力なども加わり、政府当局との間で暴力的衝突に発展した。

大学で石油工学を学んだアハマドさんは、卒業後、シリアで石油会社に就職。石油採掘プロジェクトに参画し、現場監督にも抜擢された。

修士号取得のため、大学に通いながら仕事を続けていたが、内戦の激化で採掘現場が稼働を続けられなくなり、学業も仕事も断念。自宅の目の前に爆弾が飛んでくる惨状を目の当たりにし、祖母の暮らすレバノンへの移住を決断した。

アハマドさん

イブラヒムさんは、内戦により在学中にキャンパスや学生寮が爆撃され、大学は閉鎖。父の暮らすアルジェリアへ移住したのち、ヨルダンへと移り住み、そこでもう一度大学に進学。

ヨルダンの大学時代は、さまざまな活動に打ち込み、米・マサチューセッツ工科大学内に設置された研究所、MITメディアラボの難民自立支援プログラムのコンテストを勝ち抜いた経歴もある。

イブラヒムさん

2人に共通するのは、シリア危機で「学びたくても学べないつらさ」を経験し、日本という国で学ぶ道を選んだということ。日本を選んだのはなぜなのか、質問をしてみた。

――さまざまな選択肢がある中、日本でMBAをとろうと思ったのはなぜですか?

アハマド

Facebookを見て、JICAの奨学金プログラムのことを知りました。案内にはとても美しい富士山が写っていました。それが印象的で、どのようなコースがあるのかいろいろと調べました。

中東の多くの人は、米国や欧州に留学します。欧州は飛行機で数時間あれば着きますし、歴史的な経緯から、文化的にもなじみがあるためです。しかし、私は富士山の美しい写真に心を奪われました。

アハマドさんが来日するきっかけとなった日本の風景を映した一枚

日本も中東の人には良く知られています。みんな子どものころから日本のアニメを見て育ちますし、今でも、メイド・イン・ジャパンは高品質の証です。高品質でムラ・ムダのない、リーンなモノづくりに優れる国として、中東でも尊敬されています。

私は工学専攻だったので、日本で学ぶべきことはたくさんあると感じました。

イブラヒム

私が移り住んだヨルダンでは、シリア人が国外渡航のためにビザを取得するのが、非常に難しい状況にありました。私は元々、いろいろな国へ行って学びを深めようとしていたのですが、何をしようにも、ビザに阻まれてきました。

そんな中、私の通っていた大学でJICAのプログラムの説明会が開かれると知人がFacebookで投稿していました。

私は生産工学を専攻していたので、テクノロジーに興味がありました。さらに、トヨタについても勉強していたので、現地で実際に見て、学びたいと思いました。

欧州の大学に留学する選択肢もありましたが、最終的に日本を選んだのは、他の人にはできないユニークな経験ができると思ったからです。

居心地の良い世界から一歩踏み出して、やりがいのある経験ができると考えました。

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