
ウーブン・シティでの掛け算は、どんな未来を描き出すのか? 5社のインベンター(発明家)へのインタビュー、後編です。
増進会ホールディングス:子どもを中心に「最高の教育」をつくる
通信教育や学習塾といった教育事業を展開する増進会ホールディングス(Z会グループ)。ウーブン・シティと同じ静岡県に本社を構える同社は、「新しい学びの場の実現」と「データ活用による先進的な教育スタイル」の実現を目指す。
1点目の「新しい学びの場の実現」では、ウーブン・シティ内に、ナーサリースクール(認可外保育施設)を今秋以降に開園予定。アフタースクール(学童保育)も2026年度以降の開校を目指し準備・検討を進めている。

「Z会インベンティブスクール」と言われるこれらのスクールが、ベースとしているのが「モンテッソーリ教育」だ。
これはイタリアの医学博士・教育者のマリア・モンテッソーリが提唱した教育方法。子どもには自身を教育する力があるという考えのもと、教師(大人)が一方的・画一的に知識を与えるのではなく、子どもが自ら興味のある活動を選択し、取り組む中で、達成感や自信を深め、自立心や自律心を育むというもの。
教師に求められる役割は、子どもたちに内在する、自らを成長させたいと思う力を引き出す環境を整え、その環境へと橋渡しをすること。子どもたちを観察し、適切な援助をすること。
このモンテッソーリ教育をベースに、Z会グループの強みとトヨタ、ウーブン・シティの強みを掛け合わせ、新しい学びの場を実現していく。
目指すテーマの2点目、「データ活用による先進的な教育スタイル」の一例として、ウーブン・シティでは、子どもたちの活動の様子の記録や解析に、WbyTが持つ映像データのAI分析ツールなどを活用することも想定している。
こうしたテクノロジーを用いることで、教師や保育士の主観はもちろんのこと、客観的なデータによっても子どもたちの発達段階を捉えていく。また数値化しにくい、集中力や忍耐力といった「非認知能力」と呼ばれる領域においても、視覚的に成長度合いを比較・検証できるので、保護者の納得感も得やすいという。
保育の現場で子どもたちと向き合っている明⽯さん。「主観や経験知だけで援助するのではなく、(データという)客観的な根拠から想定される理由をもって携わるべきという強い想いがありました。『それを実現できるかもしれない』と、気持ちが高ぶったことを覚えています」と、ウーブン・シティでの実証の話を聞いた当時を振り返る。

ウーブン・シティは、モンテッソーリ教育で重要な、「子どもたちが自らの力で、自らを教育・開発する環境を整えること」についても理想的なようだ。自身も保育士資格を持ち、スクール運営を管理する吉⽥さんは、この街の魅力を次のように話してくれた。
吉田さん
インベンターの方々、ウィーバーズの方々、WbyTの皆様も含めて、多様な大人たちから子どもたちが刺激を得られるというところが、教育環境として魅力的だと思っています。
トヨタ・WbyTに「自分以外の誰かのために」という言葉がありますが、その言葉を体現している大人と出会うことによって、子どもたちも「『自分以外の誰かのために』、『未来のために』発明をしたい」、「発明するために学びたい」という心を育めると良いなと考えています。
明石さんも、ウーブン・シティを訪れた際に、この街で子どもたちが“発明家”たちと触れ合う未来に想いを馳せていた。
明石さん
子どもたちが街をお散歩しているところを想像して、安全な環境で大人の実証活動を目にしたり、子どもなりの発見や気付きを得たりする機会が多くあるのだろうなと感じました。
本当にいろいろな可能性を目にできる場所だと思います。可能性が生まれる場所に触れることで、自信につなげ、目標に向かって頑張る子どもに育ってくれたら良いなと思っています。
一方で、子どもたちの教育を“実証”することについて、上手くいかなかったときに、子どもたちの成長の機会を奪うことになるのではないか。そんな懸念に対して、スクールでの教育内容の準備・開発にも取り組む吉田さんは、このように応えてくれた。
吉田さん
私たちZ会グループには、「最高の教育で、未来をひらく。」という理念のもと、創業以来93年にわたって培ってきた本質的な指導ノウハウがあります。
ウーブン・シティでは、そのノウハウの上に、トヨタのさまざまな「モビリティ」をキーワードにした、先進的で卓越した技術を掛け合わせます。そうすることで、新たな価値をもった素晴らしい教育の場を実現していくことに自信を持っていますので、安心していただければと思います。
築いてきた「最高の教育」を土台に、トヨタのテクノロジー、さらにはウーブン・シティに集う住民の知見が集まったとき、どのような新しい学びの場が生まれるのか。
開園・開校に向けて「ワクワクしています」。2人は笑顔で口をそろえた。
一緒に取り組めば可能性は無限大
空気、自動販売機、食、コーヒー、教育…。
今回ウーブン・シティでの実証実験に取り組む5社を紹介した。
それぞれ領域は異なるが、「自販機オタク」、「コーヒークレイジー」とあったように、各担当者の言葉からは、扱う商品・サービスに対する強い想いが感じられた。
クルマ好きが集まるトヨタが、「もっといいクルマづくり」にこだわるように、各社もまた日々改善に取り組んでいる。
前編の冒頭、豊田章男会長の「CES2025」でのスピーチを引用したが、あのスピーチは次のように続く。
「私たちはこれを『掛け算による発明』だと考えています。一緒に取り組めば、スカイ・イズ・ザ・リミット(可能性は無限大)、不可能なことはありません!」
トヨタ×○○。
次に“ウーブン・シティに参加する招待状”を受け取り、「○○」に入るのは、どんな発明だろう。ウーブン・シティから生まれる未来に注目が集まっている。
