
「CES 2025」で明らかになった、ウーブン・シティで実証実験に取り組む5社のインベンター。各社がモビリティのテストコースで描く未来とは?

「トヨタの強みと、自動車産業ではない業界の強みを組み合わせることで、一社や一人ではつくり出せない新しい価値や新しいプロダクト、新しいサービスをつくり出せると信じています」――。
1月7日(日本時間)、アメリカ・ラスベガスで開催された「CES 2025」のスピーチの中で、豊田章男会長はこのように語った。

同日、トヨタとウーブン・シティの開発などを手掛ける「ウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)」のホームページに、この街で実証実験に取り組む5社が公表された。

今秋のウーブン・シティのオフィシャルローンチ以降、実証実験に取り組むのは、トヨタグループや他の企業、スタートアップ、大学の研究機関など。この街では“インベンター”(発明家)と呼ばれる。
インベンターは、この街で生活する“ウィーバーズ”(住民やビジター)らに実証に参加してもらい、実生活の中でのリアルなフィードバックをもらう。ほかにもトヨタのモノづくりの知見やWbyTが持つツールやサービスも活用して、社会課題の解決や未来に向けた新たな価値創造に向けた実証を進めていく。
今回発表された5社は、そんなインベンターの第1弾。
空気、自動販売機、食、コーヒー、教育…。いずれも“クルマ屋”のトヨタとは異なる領域ばかり。
この“発明家”たちがモビリティのテストコースで、どんな実証実験をするのだろう? そしてトヨタと各社の“掛け算”が、どんなケミストリーを生むのだろう?
トヨタイムズでは、各社の担当者へインタビューを実施し、実証の内容やウーブン・シティへの想いを聞いた。
ダイキン:花粉レス空間で幸せの量産へ
空調機器メーカーとして知られるダイキンが今秋以降の実証実験に取り組むのは、大きく2つの空間づくり。
1つは空気環境と視覚や聴覚などさまざまな感覚から得られる情報をコントロールし、集中やリラックス、睡眠の質の向上など生活シーンに応じた「パーソナライズされた機能的空間」。
この空間での体験を通じて、仕事の生産性が高まるのか、体験価値を創出できるのかを実証する。
もう一つが「花粉レス空間」。花粉が入りにくい部屋をつくり、花粉に伴う住民の不快感の改善や室内作業の生産性向上、さらに、住民の総合的な幸福感などについて調べる。
「花粉レス空間」の実証では、ウーブン・シティの特定の住戸に、実証実験のために考案した換気システムを設置する。室内の気圧を調整することで換気に伴う花粉の侵入を抑制するとともに、専用のセンサーと連動した空気清浄機で室内花粉の検知や速やかな除去に取り組む。住民にも協力してもらい、行動の変化などを見る。
どちらの空間も、長期間にわたって住民の実生活に紐づいたデータが必要になる。ウーブン・シティだからできる検証だ。
堀 翔太さんと王 羽峰(おう・うほう)さんは、「花粉レス空間」の実証を現場で進めているメンバー。堀さんは実証全体の推進を、王さんは設備設計やデータ分析を主に担当する。

さまざまな基礎研究に取り組みながら、実証実験のための換気システムの考案を進めてきた2人は、ウーブン・シティに集う人たちの積極的な協力を期待しているという。
堀さん
花粉の侵入原因は、主に換気と持ち込みと言われています。こうしたことから、今回ウーブン・シティで取り組む実証では、換気設備のフィルタや気圧の管理にこだわり、可能な限り花粉の侵入を抑制しようとしています。
また、帰宅時など、屋外からの花粉の持ち込みにも対応するため、住戸内外に花粉センサーの設置や空気清浄機の連動も行います。
しかし、現時点では花粉を完全にシャットアウトできるような完璧なシステムではありません。そこで、住民の方々の声を拾いつつ、今の室内外の花粉の状況も住民にお知らせすることで、無理のない範囲での行動変化も期待しています。
これは住民全員が発明家マインドを持つウーブン・シティだからできることと考えています。もっと花粉レスにできる空間を増やせるような、いろいろなアイデアを、皆さんと一緒に考えていきたいです。
「未来の当たり前をつくる」ということが(ウーブン・シティの)ミッションだと思います。
暖かさや涼しさと比べて換気を重要視する人はあまり多くないかもしれませんが、僕は換気ってすごく重要だと思っています。今まで以上に人々の暮らしに寄り添った換気を当たり前にしたいです。
王さんは2019年にダイキン入社後すぐ、同社内の「ダイキン情報技術大学
*
」に“入学”。2年間の研修期間を経て、今回の実証を始めるための準備に加わっている。
*AI・データ分析技術を身に付けるために同社が設置した人材育成プログラム。
建築分野については「知識がたくさんあるわけではなかった」と王さん。建築関係者や社内他部門からアドバイスを受けながら、 設備設計や通信システムのノウハウを学びつつ、実証実験のために構想中の換気システムが現地に適しているかなどの協議・検討を進めている。
社内外たくさんの人たちの助けがあったからこそ、この実証実験を多くの人の幸せにつなげたいという想いがある。
王さん
このプロジェクトを通じて多くの人に助けてもらって、やっと形になってきたかなと思っています。
僕自身も花粉症なので、花粉シーズンになると毎年薬を飲んで我慢しています。だから春は苦手な季節です。
今回の取り組みを通じて、花粉との接触を大きく減らすことで、より幸せな生活が送れることを実証したいと考えています。
ここで得られた結果を広く社会に実装して、将来、せっかくの春を憂鬱に感じる人を減らしたいという想いがあります。
僕は(ダイキン情報技術大学を卒業して)正式配属後すぐにこの大きいプロジェクトに参加して、貴重な経験をさせてもらっています。まだ、実証実験開始のスタート地点にも立っていませんが、最後までやり切りたいと思っています。
また、この先別の何か新しいプロジェクトに携わることになっても、この経験を生かし、社内外の人たちと助け合って、世の中をより幸せにしていくことに貢献できたらと考えています。
今秋から始まる実証に向けて、WbyTのメンバーらと接し、ウーブン・シティへの熱意を肌で感じ、刺激を受けてきた堀さんと王さん。「こちらも本気になって向き合うことで、思っているよりも多分もっと上のゴールを目指せる」と力を込めた。
