マイナス30度の士別試験場。今回は「もっといいクルマづくり」を縁の下から支える深夜の作業に密着した。
クルマに関係のない整備?
続いては「粗面形成」という作業。クルマの走行には関係のない整備だという。
佐藤副所長
歩行者が歩く路面を滑りにくくする作業です。
試験を行うコースの整備も大事ですが、雪に慣れていない本州からの出張者が足を滑らせ転ばないことも、同じように重要です。
この作業に使うのは、硬い土を掘って畑を耕す農業用機械。本体を改造して、粉々にした雪面をならす機械を取り付けている。スキー場でも使われている機械で、これを粗面形成装置と呼んでいる。
最後に案内していただいたのが、雪庇(せっぴ)落としという作業。豪雪地帯の士別では、一晩で建物の屋根に大量の雪が付着して、庇(ひさし)のようになってしまうことがある。
高所に積もった雪を、高所作業車を使って取り除く必要があるのだ。この作業の目的は「安全」のため。しかし、他にも重要な意味があるという。
佐藤副所長
雪の塊が落ちてきたら下を歩いている人が危ないので、第一の目的は安全確保です。
もう一つ、大きな雪の塊がぶつかると建物の劣化や損壊につながるので、雪がたくさん降る時期には毎日のようにこの作業を行います。
人手不足と闘うロータリー車
佐藤副所長は生まれも育ちも士別。川村係長は士別より雪は少ないけれどもっと寒い網走の出身だという。北海道の冬の厳しさをよく知る2人に、除雪やコース製作で大事にしていることを尋ねた。
川村係長
第一に安全です。それは作業する我々もですが、試験をされる皆さんの安全が一番大事だと考えています。
次に大切にしているのは、毎日同じコンディションをつくること。たとえばマイナス6度以上の気温になったときには、特別な整備方法に切り替えます。
佐藤副所長
最近は少し気温が高くなってきて、せっかくつくった圧雪路がシャーベット状になってしまうことがあります。
こういうときは、除雪をして、圧雪をして、水が出ないように凍らせるしかない。手間はかかりますが、30年もやっているので士別の気候も雪の降り方も熟知しています。
士別のコース製作のノウハウには自信がありますが、ただ最近は若い人がいなくて、人手不足(技能伝承)が課題です。
人手不足については、ICT(情報通信技術)が鍵を握ると川村係長が続けた。
川村係長
ロータリー除雪車という雪を飛ばす機械にGPSを付けてコースの線形を入力すると、機械が線形通りに除雪し、日々同じ線形を維持できます。
作業では走行や投雪方向など、操作が多いため熟練オペレータが担当しますが、近年は人手不足や高齢化に伴い、GPSがコース製作作業継続の一翼を担っています。
これで視界が悪くても路肩に落ちないし、コース管理のリクエスト通りのコース線形を確保できる。少人数で安全かつ正確に作業を進めるために、新しいテクノロジーを取り入れています。
深夜の士別を訪れると、日中、寒冷地試験が円滑に行えるよう作業している人たちに出会えた。評価ドライバーと一体となり、人とクルマを鍛えるための道をつくる社外のプロフェッショナルたちもまた「もっといいクルマづくり」の仲間なのだ。