本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、変身する太陽電池?
街を歩くだけで、服やカバンが勝手に発電!そんな夢のようなことが現実になるかもしれない。
たとえば写真左のアウトドアグッズ。これは、スマホなどを充電できるポータブル充電機として使える。写真右側の迷彩柄のシートを巻き付けているのだが、このシートに秘密がある。実はこれ、本当に発電する太陽光パネルなのだ。
太陽光パネルといえば通常、黒色の無機質なものだ。しかしトヨタの研究によって、迷彩柄に限らず、下記のような木目調など、あらゆるデザインが可能になっているという。
一体どういう技術なのか、開発したトヨタの“博士”にインタビューを行うことにした。
設置場所がない、なんてことはない
まずは太陽光発電に関する状況を整理する。
政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言。そのためCO₂を排出しない再生可能エネルギーの普及が叫ばれている。東京都では、新築住宅への太陽光パネル設置を義務化する条例も成立した。
しかし大きな問題がある。
政府のソーラーシステム導入2030年目標を叶えるには、現状の倍の太陽光パネル設置が必要。
だが日本では設置できる平地が少ない。さらに大規模なメガソーラーの建設を巡っては、景観権侵害など周辺住民から問題視されることも。
そこで考えられたのが、自由に色や柄をデザインできる太陽光パネルだ。街の景観に馴染ませることで、都会のビル壁面など、設置が検討すらされなかった場所にも取り付けられるのでは、という発想。
通常、太陽光パネルに色をつけると、太陽光が届かず発電できなくなる。そこで「デザインできる薄い加飾フィルム」をパネルに貼り合わせることに。自動車会社ならではの技術が生かされたそうだが、どういうことか。
クルマ屋だから実現できた太陽光発電?
CN開発部 グループ長 増田泰造博士(工学)
クルマは意匠性が重要で、トヨタには長い年月をかけて培ってきた塗装技術があります。好きなデザインのクルマを選ぶように、太陽光パネルも好みで選べて選択肢が多い方がいいですよね。
クルマの塗装技術を応用する研究は、今から6年前、カーボンニュートラルが叫ばれる前に始まりました。地球の資源は限られていますが、太陽光は無限に得られるエネルギー。美観と発電を両立しようと、開発を進めました。
なぜ、フィルムで覆っているのに、太陽光が透過して発電できるのか。その秘密は、自動車塗装で使われる顔料(インク)にあるという。
“半透明”をイメージしてもらうと分かりやすい。特定の色のみを反射させ「それ以外の光は透過」させるので発電できるのだ。
クルマづくりの仲間でもある日本ペイント・オートモーティブコーティングスと均一に発色する技術を共同開発し、太陽電池の製造販売を行うF-WAVEと共同研究の上、開発は進んだ。
従来の黒い太陽光パネルと同様に発電し、多彩にデザインできる技術は世界初だという。
一見、本業と関係ないような太陽光パネルの開発には、クルマ屋として長年培ってきた塗装技術が生かされたのだ。
そしてこの技術によって「停電をなくせる」という。災害が多い時代に気になる発言だ。また、クルマの車体に貼り付けて「発電するクルマ」が可能なのかも聞いてみた。