マイナス30度の士別試験場。今回は「もっといいクルマづくり」を縁の下から支える深夜の作業に密着した。
北海道の士別試験場。日没後、何十台もの重機が次々と現れる…。こんな時間から、一体何が始まるのか。トヨタイムズで初公開!真夜中の士別試験場の様子をお届けする。
雪の厚さは12センチ?
一晩で数十センチの雪が積もることもある冬の士別。朝のテスト開始までに夜を徹して除雪して、氷雪路をならすコース整備が始まるという。
まず、コース管理の責任者 士別試験課の沢田哲雄組長に、コース整備のこだわりについて聞いた。
沢田組長
コース管理で大事なのは、第一に毎日同じコンディションに仕上げることです。
分かりやすい例が、タイヤ評価路です。ここでは主に北米市場向けのオールシーズンタイヤの評価をしていますが、昨日と今日で路面状態が異なると評価になりません。
加えて、登坂路もいつでも路面のミュー(摩擦係数)が同じになるように整備しています。たとえばウェーブ(凸凹)路面を整備するときには、評価ドライバーや開発陣が求めるような衝撃や車体の揺れが起こるように考えながら作業を行います。
私も「上級」というトヨタ社内の運転資格を持っていますが、コース管理の担当者たちもほとんどが評価ドライバーの資格を持っています。
それは評価ドライバーや開発陣の気持ちを汲み取りながらコースを整備することが重要だからです。
細部にまでこだわる沢田組長の話を聞いていると、ただ気温が低くて雪が降るだけでは、充実した寒冷地試験は行えないことが分かってきた。
沢田組長
長年の経験の蓄積で、圧雪路の雪の厚さは12センチに設定しています。
この厚みだと、急に気温が高くなったり雨が降っても、表面を4~5センチ削って整えることができます。
逆に12センチ以上の厚みがあると、地表付近の雪が保温されることで柔らかくなり、崩れてしまいます。
わずか数センチの雪の厚さの違いが、評価に大きな影響を与えるのだ。
要望のコースをつくる、深夜の主役たち
このようにコースは繊細かつ丁寧に整備される。だが、自然を相手にするだけに一筋縄ではいかない。
雪が厚くなると地表付近が柔らかくなったり、気温マイナス20度より寒い状態で水を撒くと、雪面と水の間に薄い層ができて、パリパリとはがれる現象が起きたりする。
実は、士別試験場ではこうした寒冷地特有の現象を知り尽くし、舗装や除雪の技術に長けた外部のプロにもコース整備や除雪に協力していただいている。
そのうちの一社である株式会社NIPPO士別出張所の佐藤優市副所長と川村智治工事担当係長に話を聞いた。
NIPPOは、全長10kmの第1周回路はじめ士別試験場のコースをつくったゼネコンで、道路工事やアスファルト舗装の技術や知見を生かし、氷雪路の整備や除雪も手掛けてきた。
佐藤副所長
私は1987年に全長10kmの周回路が完成した頃から士別試験場を担当しています。
当初はコースづくりを担っていましたが、1992年から冬期のコース設営と除雪、メンテナンスも行っています。
雪の量が多い士別でのコース整備は、時間との闘いだという。
川村係長
夜の11時に作業を開始して、途中1時間の休憩をはさんで朝7時のコース引渡しまでに終えます。
大雪の際は7時に間に合わないこともあるので、そのときはコース管理担当者と相談して、どのコースの整備を早く終えるのか優先順位を決めます。
夜間の作業を行うのは18名、重機は16台。夜間の作業とは別に、昼間も12名がコース整備に携わります。
雪上市街地路というエリアの一角に位置する轍路(わだちろ)では、グレーダーという重機を用いて轍を掘る。
佐藤副所長
グレーダーは、道路工事で路面を平坦に敷きならすときに使う重機で、これに轍を掘るための特殊なアタッチメントを装着します。こんなアタッチメントは誰も使わないので、自分たちでつくりました。
作業を行うのは4人ひと組。コース管理担当者のリクエストに合わせて、轍の幅や深さを調整します。
こだわりのコースを作るために、何十年もの経験を活かしたアタッチメントや、熟練のオペレーターの操作によって、毎日、リクエスト通りの轍路が整備される。
続いて案内してくれたのが、なんと、クルマの走行には関係のない整備だという。一体どういうことか。