マイナス30度、凍るような寒さの士別試験場。「もっといいクルマづくり」へ、評価ドライバーが現場でしていることを次々と公開する。
クルマの隙間に雪が入り込んで、ドアが開かない・・そんなことがあってはならない。
トヨタには、最悪の着氷状態を再現する場所。さらに、怖さを感じるほどの厳しい路面での車両挙動を見逃さない人間がいる。
北海道の士別試験場で、評価ドライバーたちは何をしているのか。トヨタイムズでも初潜入なのだが、驚きの光景を次々と目の当たりにすることとなった。
突っこんだ先は60センチの雪壁。果たしてどうなる!?
冬季の士別試験場には、「凄腕技能養成部」を徹底解剖!の記事でも紹介した矢吹久主査、大阪晃弘GXをはじめとする評価ドライバーの最高峰“トップガン”たちの姿が。
「ザザザザザザザザザザ!」
見渡す限り真っ白な大地に、重量約2.5トンもあるランドクルーザー300がフロントグリルで雪を押し出しながら走ってきた。
ラッセル車のように走るこの試験は、その名も「深雪ラッセル」。
ランドクルーザーの車種担当として、この試験を行う車両技術開発部 士別試験課の鈴木孝明はこう語る。
鈴木
積雪50~60センチ以上の雪壁に突っ込む。そしてスタックを繰り返し、雪道を走ったときに、巻き上げた雪がラジエーターに入ってトラブルが起きないか、バンパーなどが壊れないかをチェックしています。
“壊れない”というのが、いちばん達成感があります。雪道を走っていて楽しくなる、走り切れるクルマをつくりたいと思っています。
深雪にはまった時、アクセルを踏み込んでしまいがちですが、逆に緩める操作をしたり、ユーザーの皆様のあらゆる使用シーンを想定しています。
士別近辺だと、国道から脇に入る自宅への道路に、数十センチの積雪があることは珍しくない。だからこそ、雪が詰まっても壊れない。そんなクルマづくりを目指した試験が必要だという。
士別試験場をさらに進んでいくと「20%路」という看板が見えた。
写真では分かりづらいが、運転席からは壁のように見える急勾配。さらに路面は滑りやすい雪。もしこれだけの傾斜の雪道に出くわしたら、アクセルを踏むのを躊躇する人も多いだろう。
この登坂路をRAV4で登り下りしているのが、士別に生まれ育ち、北海道の道、そしてクルマの使われ方を熟知しているRAV4の車種担当、塩崎光義だ。
塩崎
登れるか、下れるかをチェックしています。その上でお客様が安心して走れるかどうかを確認するのが目的です。
そして塩崎が教えてくれた路面がある。登坂路の一部だけ雪が融け、地面が露出している。一体これは・・?
塩崎
交差点のある滑りやすい下りの路面などでは、ロードヒーティングが入っていて、雪が融けている部分と、残っている部分が混在しています。
このような場所では、左右のタイヤで路面のミュー(摩擦力)が異なります。
お客様がこの場所に停止したときにスムーズに発進できるのかをチェックしています。
あらゆる「最悪」が次々と
寒冷地試験の第一の目的は、寒い地域に暮らすお客様の気持ちになり、想定される不具合をなくす。そして安心してクルマにお乗りになっていただくこと。
寒冷地を走ると、巻き上げた水やシャーベットが車両に付着。車両性能に影響を与えることがあるという。
車両技術開発部 士別試験課で着氷試験を担当する大友拓実が、この試験の目的を説明してくれた。
大友
寒冷地では単純に雪道や凍結路面だけでなく、ウェット路面や、水と雪が混ざったシャーベット路面が多く存在します。
それをタイヤで跳ね上げる事で下回りやボデーに付着し、走行を続けると次第に大きく成長していきます。その着氷で部品が壊れないかを細かくチェックしています。
今回見せていただいたのはで、マイナス環境下のときに、約4時間かけて所定のコースを周回し、“最悪の着氷状態”を再現。
試験は、厳格なルールにのっとって行われ、水による試験の場合は雪が降ったら試験を中断するという。大友とともにこの試験を担当する白鳥洋志SXがその理由をこう語る。
白鳥SX
降雪で雪が混じると氷がもろくなり、評価が甘くなるのがその理由です。
テストは日射の影響で氷が融けない様に日没を待ってスタートし、降雪で中断すると深夜まで走行する事もあります。
12月から試験を開始して80日間で水による試験ができるのが20日間あるかないかぐらいです。その限られたチャンスを必ず最悪条件となるように試験をコントロールしています。