マイナス30度、凍るような寒さの士別試験場。「もっといいクルマづくり」へ、評価ドライバーが現場でしていることを次々と公開する。
地元の人しかわからない?“恐怖の穴”
レクサスNXの車種担当、片岡知英が、同車で雪上市街地路エリアを案内してくれた。とはいっても本当に市街地に出るのではない。試験場内に路面を再現しているのだ。
雪上市街地路とは、お客様が実際に遭遇するシチュエーションをできるだけ正確に再現した路面。深く掘られた轍でブレーキを踏んでもクルマが振られないか、安定した姿勢で加速できるかを確認するという。
直線路を進むと、深い穴を見つけた。読者の皆さまは、この穴、なんだかお分かりだろうか。
知らずに走ると、かなりの衝撃を受けることもある“恐怖の穴”とは?
片岡
これは北海道でよく出くわす、マンホールによる穴です。
気温は氷点下でも下水道は温かいので、マンホールの周囲は雪が融けて穴になります。特に札幌、旭川、帯広などの都市部に多い路面です。ここを通過したときに、衝撃でフロントのスポイラーなどが壊れないかをチェックします。
雪国で走るクルマはだいたい下回りに雪や氷が付着しているので、この塊がぶつかってバンパーやモールが浮き上がらないかを確認します。
1周目は自分の感覚で走ってみて、2周目はあえて強くアクセルを踏んでみて、そして3周目は長靴で運転することを想定してブレーキを踏みます。こうして、誰が運転しても安心できる挙動を追求しています。
テストではかなりのスピードで穴を通過しており、外から見てもかなりの衝撃が伝わっていることがわかる。片岡にそう伝えると、こんな答えが返ってきた。
片岡
休日に市街地で観察していると、皆さん結構速いスピードで突っ込まれるんですよ。だから、ここではお客様より負荷(路面入力)をかけることを意識しています。
片岡が最後に案内してくれたのが、信号のある交差点。路面は、クルマの往来によって凍結部がツルツルに磨かれた“ミラーバーン”だ。
ブレーキが壊れたのではなく・・
片岡
ミラーバーンではドライバーの意図した通りに停止できるかはもちろん、ABSや横滑り防止装置が作動するフィーリングも確認します。
以前はABSが作動すると、音と振動が発生しましたが、お客様によってはブレーキが壊れたと勘違いされることもあります。
そのため、最近は作動音をなくして、自然にブレーキが効いていると感じていただくことを心がけています。
ABSや横滑り防止装置のほか、ハイブリッド車や電気自動車が搭載するモーターの緻密な駆動力制御による、高度な車両コントロールなどクルマは日々進化している。
士別出身で、最初3年を豊田市の本社で過ごしたほかは、ずっと士別試験場に勤務する片岡に、この士別の魅力を尋ねてみた。
片岡
200人弱の小さな所帯で、横のつながりが強いと思います。
いい人と出会うことが多くて、困りごとがあって声をかけたら、すぐに誰かが駆けつけてくれる。環境が厳しいこともあって、みんなで助け合うのが士別のよさでしょうか。
寒冷地に暮らすお客様の気持ちになり、想定される不具合をなくし、いかなる路面に遭遇しても、安全で快適に走行していただきたい。
「もっといいクルマづくり」の思想は、こうして厳寒の試験場でテストに従事する評価ドライバーたちにも息づいているのだった。