クルマ好きを惹き付けてやまないエンジンの音。エンジンの形が変わると奏でる音も違ってくるのか。第3回はロータリーエンジンが高音ですっきりした音のワケを聞いた。
マツダに認められたトヨタイムズ
トヨタイムズは2019年にトヨタの内側を見せる“メディア”としてスタートした。しかし突如現れたトヨタイムズはなかなかメディアとして認めてもらえなかった。トヨタイムズだって自動車のことを報じているメディアなのに…。
そんなとき、マツダの丸本明社長からモリゾウこと豊田章男社長(肩書はいずれも当時)に歴史あるマツダの「メディア対抗ロードスター耐久レース」に“メディア”として声をかけていただいた。
そのときのことについては、ぜひこちらを見ていただきたい。
参戦にあたっては、モリゾウがロードスターに「ロータリーエンジンが積んであるといいな」と期待する一幕も。
モリゾウに限らず、ファンを惹きつけてやまないロータリーエンジン。そのエンジン性能だけではなく、心に響くサウンドも魅力のひとつと言えるだろう。
前回に続き、エンジンの形が変わると異なる音の仕組みについて、今回はロータリーエンジンを深掘っていきたい。
ロータリーエンジンとは
濁りなく伸びやかなロータリーサウンド。聴く人を高揚させるその音を生み出すロータリーエンジンとはどんなものなのだろうか。
まずその仕組みをおさらいしておくと、トロコイド曲線といわれるまゆ型のハウジングの中で三角形の“おにぎり”型ローターが回転することで動力を生むのがロータリーエンジンだ。
ハウジングの内壁に三角形の頂点が接触して3つの区画を作り、ローターが自転しながら公転することで吸気・圧縮・燃焼/膨張・排出の4行程を行う。
この回転運動でローターの中心に位置するエキセントリックシャフト(出力軸)を回し、その力をタイヤに伝えることでクルマは走る。
おにぎりの音ってどんな音?
そんなロータリーエンジンとサウンドの関係について教えていただくために、マツダを訪ねた。
解説してくれたのは、パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第1エンジン性能開発グループ主幹の岩田陽明氏。入社以来、ディーゼルエンジンからガソリンエンジン、そしてロータリーエンジンと、横断的にエンジンのNV(Noise Vibration:音・振動)開発に携わってきたという経歴の持ち主だ。
岩田氏
ロータリーエンジンには通常のエンジンにあるピストンもないし、開けたり閉じたりして吸排気する動弁系の機構もありません。そのため部品数がすごく少なく、シンプルな構造をもっています。部品数が少ないから、不快な音の原因となる振動などが小さいというのがひとつの特徴です。
次に、一般的なガソリンエンジンなどのレシプロエンジンとは燃焼間隔が違うということも挙げられます。(レシプロエンジンについては第1回参照)
レシプロエンジンはクランクシャフト
*
が2回転で1回の燃焼(爆発)です。
*シャフトの回転をタイヤに伝えクルマが走る
しかし、ロータリーエンジンはエキセントリックシャフトが1回転で1回の燃焼です。
そのため、1回転ごとに発生する音しか生まれない。つまり同じ燃焼数で生まれる音の数とその間隔が違うのです。
そして、レシプロエンジンには1回の燃焼で生まれる音のなかにハーフ次数音と呼ばれる音があって、ロータリーの音にはそれがないのが最大の違いとなります。
ちょっとマニアックな話ですみませんが、これが音の聞こえ方のキモになってくるのでちょっとガマンしてください(笑)。
ちょっとマニアックな次数音の話
初めて聞く「次数音」という言葉。音の聞こえ方のキモになるなら、それがどういうものなのか知りたくなり、さらに解説をお願いした。
岩田氏
この表は横軸がエンジン回転数、縦軸を周波数とし、エンジン回転数ごとに含まれる振動などの音を分布し可視化したものです。エンジン回転数と比例して右肩上がりの赤色の直線1本1本が次数音と呼ばれるものです。
左がレシプロの直列4気筒エンジンのもので右がRX-8の2ローターのものです。
比べてみると、ロータリーエンジンのほうが直線の数が少なくて、見た目もすっきりしている感じがしますよね。
レシプロエンジンには2次、3次、4次…という次数の間にも線が入っているのが分かると思うのですが、これがハーフ次数音といわれるものです。ハーフ次数音は平たく言うと音の雑味にあたります。
表のなかの次数は、「吸気・圧縮・燃焼/膨張・排出」による一連の鼓動で出る音を表している。ではなぜハーフ次数の有無が、エンジンサウンドの聞こえ方に影響するのだろうか。
ここでいったん音のメカニズムについて説明しよう。
人は異なる周波数の音(下図A,B)を同時に聞いたとき、それに加えてもう一つの音、差音(C) * も合わせて一つの音として聞き取っている。
*差音:2つの音の周波数の差の音
音の周波数とは1秒間に振動する回数で、音の高低を表し、単位はHz(ヘルツ)。数字が大きいほど高い音を表す。
例えば250Hzと254Hzを合成してつくった音には、254-250=4Hzの差が出る。それを表すと「ファンファンファンファン」と1秒間に4つの周期で音が大きくなったり小さくなったりうなった差音が聞こえる。
2つの音の差が大きくなると周期として差音を聞き取ることができず「ファーーー・・・・」という連続かつ高音に聞こえるようになる。
つまり、人は主にこの差音を音として感じ取っていることになる。
レシプロエンジンは、音の元となる次数音と周波数が近いハーフ次数音の音を同時に聞いているため、「ファンファンファンファン」のような差音の周期がわかる音に聞こえる。
(最近のレシプロエンジンはこのハーフ次数音を消すなどの調整がされている。詳しくは次回解説しますので、お楽しみに)
逆にロータリーエンジンは、ハーフ次数音がないため、その分周波数の差が大きく「ファーー」という高音の差音となり、雑味のないすっきりした音に聞こえる。