クルマ好きを惹き付けてやまないエンジンの音。エンジンの形が変わると奏でる音も違ってくるのか。第2回は水平対向エンジンについて、ボクサーサウンドを愛するがゆえのエンジニアのこだわりを聞いた。
トヨタイムズでSUBARU?
ボクサーサウンド?それってSUBARUじゃない?
そう、今回はSUBARUの水平対向エンジンについて取り上げたい。
今年5月、SUBARU、マツダ、トヨタの3社は電動化時代に向けた新たなエンジン開発について合同でワークショップを実施した。
SUBARUとは2005年の業務提携以来、関係を深め2019年に新たな業務資本提携を締結したのちには、中村知美社長、豊田章男社長(肩書はいずれも当時)がお互いの「もっといいクルマづくり」の現場を訪れるなど協業を前に進めてきた。
SUBARU公式サイトの映像で豊田会長が言及しているように、多くの人がSUBARUと言えば水平対向エンジンというイメージを持っているだろう。
3社合同のワークショップでもSUBARUの大崎篤社長が「(カーボンニュートラルの時代にも)さらに磨きをかけていく」と力強く語った水平対向エンジン。
「ドロドロ」とも「ドコドコ」とも表現される、ボクサーサウンドはどのように生まれるのか。スバリストに限らず魅了されるその音の秘密を解明するべくSUBARUに協力を仰いだ。
形が変わると奏でる音も違ってくるのか
話を聞かせてくれたのは、SUBARU車の吸気系を担当する技術本部 パワートレイン設計部 エンジンシステム設計第一課の高嶋伸吉氏と、入社以来約20年エンジン設計に携わり、現在は将来の排ガス戦略の取りまとめを行う技術本部 車両環境開発部 主査の平野順氏。ともに初代BRZのエンジン設計に携わった同期だという。
まず水平対向エンジンの特徴とそれによって生まれるボクサーサウンドとはどういうものなのだろう。
平野氏
水平対向エンジンは、一般的な直列エンジンのように縦にピストンが動くのではなく左右に動いていて、かつピストンがお互いの振動を打ち消し合うような動き方をしているので振動が少なく、エンジンが回ることによる振動起因の音は比較的静かだという特徴があります。
特に90年代のクルマは「ドッドッドッ」という音がしていたんですが、それがSUBARUのボクサーサウンドと認知されていることが多いようです。
では、そのボクサーサウンドは、どんな仕組みで奏でられるのだろうか。
まずは多くのクルマに採用されている直列4気筒エンジンで解説する。直列4気筒エンジンは4つのシリンダーから出た排ガスの通る各配管の長さが等しいため等間隔に排ガスが出てくる。それによって皆さんが聞いたことあるエンジン音となる。
(エンジン音の仕組みについては第1回で解説しているのでぜひ読み返していただきたい。)
一方、水平対向エンジンは各シリンダーからの配管(下記:エキゾーストパイプフロント)の長さに差があることで、出てくる排ガスが集合するポイントに到達するタイミングに時差がおき、そこで干渉し合うという状況が起こる。
そのため各シリンダー1回ずつ、計4回の爆発で4回出るはずの排ガスが時差により集合して、1回にまとまってマフラーから出てくるのをイメージしていただきたい。(厳密に言うと4回に1回の音のみではないが、イメージとして捉えていただきたい。)その結果としてまとまった「ドッドッドッ」というような音になり、なおかつ音量も大きくなる。
これがいわゆる不等長エキマニ(長さの違う配管)による排気干渉だが、かつて90年代のボクサーサウンド愛好家たちは、2003年4代目レガシィ、2代目インプレッサの中期型で配管の長さを同一化された際には、ボクサーサウンドが失われてしまったと嘆いた。
平野氏曰く「初代レオーネからレガシィ、インプレッサ、フォレスターとずっと不等長レイアウトを採用してきたのですが、4代目レガシィや2代目インプレッサでは、より高出力のレスポンスがいいエンジンをつくろうということで等長化したんです。それによってあの特徴的な音が消えてしまった」そうだ。
ただし、それは当時の規制下であれば、という条件下でのベストの選択だった。年々より厳しくなっていくことが想定される燃費や排ガス、および、騒音規制に対応するため、再度不等長でのレイアウトが採用されたのである。
それが今回紹介する、CB18エンジンだ。
平野氏
CB18を開発するにあたって、ターボチャージャーを早く回してレスポンスをよくすることと、排ガス性能の向上の両立をどうしてもしたかった。
そうしたときに、水平対向エンジンは排ガスを出す位置が右と左に分かれていて、この間の距離が約500mmあります。
左右集合したところにターボチャージャーを配置しますが、真ん中の250mmに置くよりも、片方は100mmちょっと、もう片方は350とか400mmと左右違った長さで集合させた方が、結果的に早くターボを回せる。
加えて触媒という排ガスを浄化する部品もエンジンの近い所に載せられるので、それが最適なレイアウトだということで採用しました。
CB18の爆発順は右バンクの1番気筒(#1)→3番気筒(#3)→左バンクの2番気筒(#2)→4番気筒(#4)となるが、先に爆発する#1、#3の真下にターボチャージャーを置き、その入り口で集合させ、右側が短く、左側が長い配管とした。
このエンジンが2020年2代目レヴォーグに最初に搭載された際には、ボクサーサウンドが復活したと、愛好家たちが大いに沸いたものだ。
平野氏は一般のお客様がほぼ気がつかないレベルまでマフラーをはじめ、騒音対策を重ね、それでいて「私個人としてはボクサーサウンドをやっぱり残していきたいと思い、残せるような形で最終的に量産に落とし込めました」という。
その秘策が...。