「トヨタの社長は孤独だぞ」。佐藤恒治社長が内示とともに受け取った豊田章男会長からのアドバイス。新体制が受け継いだものとは?
株主から11の質問が寄せられたトヨタの株主総会。今回は、「継承」をテーマに、豊田章男会長、佐藤恒治社長と株主との4つのやりとりをピックアップする。
日本を思う気持ちが薄れていないか?
豊田社長時代の前半は、1ドル80円台が定着した「超円高」をはじめとする「6重苦」の時代。日本でのモノづくりは「理屈の上では成り立たない」状況にまで追い込まれた。
他の産業が海外にシフトする中で、「石にかじりついて」日本の雇用と、モノづくりの基盤を守り抜こうと闘い続けてきた豊田会長。
2021年3月の日本自動車工業会(自工会)の会見では、当時を振り返り、「そこにあったのは、基幹産業としての『責任』と『JAPAN LOVE』だった」と語っている。
しかし、2023年の自工会の新年あいさつでは、自動車産業が日本の経済に貢献してきた実績を語ったうえで、「ここ日本では、そんな私たちに対して、『ありがとう』という言葉が聞こえてくることは、ほとんどない」と発言した。
株主から「最近、日本に対する愛情が薄れてきているのではないか」と指摘され、豊田会長が自ら胸の内を語った。
豊田会長
私の社長時代を一言で申し上げますと「孤独な14年間だった」と思います。
リーマン・ショックによる赤字転換(のなか)、私は社長に就任いたしました。
「お手並み拝見」「そら見たことか」「早く辞めればいいのに」。そんな声が社内からも社外からも私の耳に入り、誰からも望まれない社長としてのスタートだったと思います。
ただ、それを支えてくれたのが、トヨタの現場の仲間たち、そして、何よりも私の中の「クルマ愛」「トヨタ愛」「JAPAN LOVE」。
この気持ちがあったからこそ、大変革時代という嵐のなか、日本で生まれ育ったグローバル企業トヨタを安全に航行する舵取りができたのではないかと思っております。
そして、新聞報道とか、いろいろなところでの数々のバッシング。マスコミや政治の舞台でつくられる論調が世論だと思うと、非常に寂しく、嫌になることが多々ございます。
私は本当の世論は違うところにあると思っています。議決権行使書に応援のメッセージを書いてくださる株主の皆様、トヨタのクルマが大好きで選んでくださっているお客様。
サイレントな存在であっても、それが本当の世論ではないのかなと思います。
こういう方々の期待を背負っている私が、日本を嫌いになってはいけないと思っております。
世論の「世」という字は、本来はお神輿の「輿」という字を当てるそうでございます。
「輿」という漢字には「車」という字が含まれております。だから私たちクルマ屋はありがたくも世論を知ることができるのだと思います。
これからも販売店の皆様、仕入先の皆様と一緒に、私たちのクルマを選んでくださるお客様の世論にしっかり向き合ってまいりたいと思います。
会場から拍手が沸く中、質問した株主から登壇者に声援が贈られた。
「これからも株主と日本のために、トヨタ自動車の皆さまには頑張ってもらいたいと思います」