継承される「トヨタらしさ」 いつも現場で、価値観で

2023.06.27

「トヨタの社長は孤独だぞ」。佐藤恒治社長が内示とともに受け取った豊田章男会長からのアドバイス。新体制が受け継いだものとは?

クルマ屋のつくる未来とは?

社長交代を発表したトヨタイムズの生放送(1月)のエンディングで、佐藤社長はこう語っている。

「クルマ屋にしかつくれないモビリティの未来に一歩でも近づけるよう、ガムシャラに取り組んでまいります」

その後も、新体制が社内外にメッセージを発信するたびに、「クルマ屋がつくる未来」について、決意を語っている。

この日、株主から寄せられた最後の質問は、「クルマ屋のつくる未来とは」だった。

佐藤社長は、深々と一礼し、答えた。

佐藤社長

新体制がスタートを切れるのは、豊田会長の14年間の本当に厳しい経営があって、トヨタの土台をしっかりとつくることができたからだと思います。

新体制の経営のテーマは、「継承と進化」です。我々が継承していくものは、豊田会長がつくり上げてきた「トヨタらしさ」

これはやり方や手段ではなくて、想いや価値観で伝承していくことが大切だと思っています。

私が社長の内示を受けたとき、豊田会長は私に一言アドバイスをくれました。「トヨタの社長は孤独だぞ」「本当に大変だぞ」と。

「だけど、佐藤には、自分が味わってきたような経営継承は絶対にしたくないんだ」「お前には多くの仲間がいる。自分ひとりで背負わず、キャプテンになったつもりで、チームで経営すればいいんだ」という言葉をもらえました。

私のみならず多くの経営メンバーが豊田章男の下でクルマづくりを通じて、その価値観を共有してきましただからこそできる経営があると思っています。

チーム経営と言うと、「経営の執行スピードが落ちるんじゃないか」「意見の調整に時間がかかるんじゃないか」と思われるかもしれません。

でも、今のトヨタにおいては、根底の価値観が共有されているからこそ、10人で1つのボールを追いかけるのではなく、10人で10個のボールを追いかける。そのようなスピード感のある経営ができると思います。

私自身、会長の豊田とは、実はあまり社長室で会話をしたことがありませんいつも現場いつもクルマの中

そんな会話の中から、トヨタらしさを掴んできました。経営の想いは商品に表れるんだということで、クルマをつくることに軸足を置いた経営を現場で学んできました

クルマづくりは本当に挑戦の連続です。うまくいくことはあまりありません。

トヨタが大切にしている言葉の一つに豊田佐吉翁が残した言葉「百折不撓」という言葉があります

何度失敗してもそれに負けることなく挑戦をし続けていく姿勢私が豊田章男から現場で学んだ経営の軸とすべき価値観です。

100の失敗の先に1つの成功があるそれを信じて、トヨタは挑戦を続けていく会社でありたいと思っています。

私自身、本当にクルマが大好きです。クルマをつくることが大好きです。トヨタにはいろいろなクルマ好きがいます。

BEV(電気自動車)が大好きなクルマ好き。エンジンのサウンドが大好きなクルマ好き。そのダイバーシティがあるからこそ、トヨタらしい多様性に応えるクルマの未来がつくれると思っています。

ご質問にありました、「クルマ屋の目指す未来」とは、クルマをいつまでも楽しいものにして、社会とつながって、もっともっと世の中のお役に立てる安全で安心なものに育てていくことだと思います。そんな未来を創っていきたいと思います。

そのためにも、現場で汗をかいて、ひた向きにクルマに向き合って、多くの仲間と挑戦をして、トヨタらしさを継承し、新しいトヨタの姿を生み出していきたいと思います。

全身全霊でトヨタを継承し、進化させていきたいと思っております。

会場から贈られた拍手が鳴りやむと豊田会長が一言だけコメントを添えた。

「私も含めまして、全員で佐藤社長を支えてまいりたいと思っております」

豊田会長が理想としたバトンタッチ

豊田会長は2019年の株主総会で、理想の後継者像を聞かれ、こう回答していた。

「豊田という姓があろうがなかろうが、誰が社長になったとしても、大切なことは、創業の原点を見失わず、未来の笑顔につながることを、年齢を刻むかのごとく積み重ねていくということだと思っています」

「私は、創業の原点を次の世代に伝えていくということにおいては、ここにいる全員、全社員が、継承者であると思っております」

自分の代で何かを完結させようとするのではない。時代の変化に対応しながらも、トヨタの「思想」と「技」と「所作」を受け継いでいく。それが自身も含めた継承者の務めだと話す。

そのためにこだわったのが「バランスのとれた経営基盤を引き継ぐ」ということだった。

14年前、赤字で引き継いだトヨタは、畑に例えると、すべて収穫も終わり、土地も栄養を失った「荒れ果てた畑」だった。

その土地を耕し、埋まっていた種をグローバルトヨタ37万人で育てあげ、収穫期を迎える畑、少し芽が出てきた畑、種まきだけは終えた畑と、持続的成長に向けたバランスの良い畑を引き継ぐ。そんな想いで「トヨタ」という畑を耕し続けた14年間だったのかもしれない。

そのうえで佐藤社長には「経営のバトンはチームに引き継ぐ」と伝えた。社長という存在は、「孤独」であることに変わりないかもしれない。それでも、佐藤社長には「仲間」がいる。もっと孤独な経験をしてきた自分もいる。

「絶対に孤軍奮闘させない」。そんな想いが、「全員で佐藤社長を支えてまいりたい」という言葉に表れたのではないだろうか。

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