2019.07.24

第4回 「いま決起するとき」~継承と変革~ 第三話

第三話 「人をつくる ~価値観の継承~」

インタビュー第二話では、守川さんご自身のエピソードも通じ、経営者として、ご自身が大切にしている想いを、お聞きすることができた。第三話では、守川さんが、その想いを如何に継承されようとしているのか聞いてみた。

継承と変革

社長と会長

“父はいつも不安と心配の連続だっただろう”
Q.  2008年に守川さんは社長から会長に退き、トヨタ自動車から迎えた関島さんに社長を譲りました。そして、今年、関島さんから守川さんのご長男へバトンが継がれました。守川さんは親子での会長社長の関係を両側から経験されています。守川さんが考える“社長と会長との距離感”とはどういうものでしょうか?

創業者の父が会長で、長男の私が社長の時代がありました。父は私に全面的に任せてくれて、必要に応じて相談に乗るという関係を保ってくれました。自分の思いどおりに仕事をすることができたという意味で、私にとっては大変やりやすい環境だったと思っています。もちろん39歳で社長に就任した私に対して、父はいつも不安と心配の連続だっただろうと思うんです。言いたいこともたくさんあったはずです。

ただ任せるとは言われても、例えば不動産の取得や、役員人事といった重要な案件は、事前に相談に行っていましたし、月に1回の定例報告は欠かしませんでした。父と意思の疎通を欠くことはなかったと思っています。

私は原則として、会長、社長は共に経営の細部を指揮してはならない、しかし細部を理解しておくことは大切だと思っています。これが大きな判断や決断を迫られた時に、誤らないため非常に重要なことだと思っています。

同じ距離感で、創業家以外の社長との関係も保ってきましたので、今回、長男が社長に就任しても、同じようにしていきたいと基本的には思っております。

“最強の経営チームができた”
Q.  会社が理念を継承していく上で、経営チームのあり方、番頭のあり方はどうでしょうか?

私が社長だった当時、私よりも経験豊富で、経営能力も高く、社内外の信頼も厚い、そんな年上の番頭さんたちとは、本当に夜を徹して議論を交わしていました。時には本当に耳が痛いような直言もしてくれました。共通の価値観を持って、まさに未熟な私を、誠実にサポートしてもらえる関係を築けたことで、今の自分があります。当時の番頭さんたちに、本当に今でも心から感謝しています。

それぞれ個性豊かで一家言を持っていました。そしてそれぞれが得意とする専門領域で彼らは懸命に勝負をしていました。そういう番頭さんたちを中心として、私は当時としては最強の経営チームが編成できたと自負しています。

息子が、どういう風に考え、チームを編成していくのか。私の時代の話は多少の参考にはなるかもしれないけれども、自分のチームですから、これは社長自身が考えるべきことだと思います。

ただ昨今の時代の流れかもしれませんが、比較的ごつごつしたところの少ない、角が丸い人たちが増えてきた気がします。自分の責任も含めてですが、スマートさはあるけれども、変化をつくり出していく大胆な発想力や突破力、爆発力、こういったものが多少欠けているような感じはしないではありません。

理想の後継者像

“厳(げん)にして愛され、寛(かん)にして畏(おそ)れられるような人”
Q.  守川さんが後継者に求めることはなんですか?

苦楽を共にするという言葉があります。喜怒哀楽という言葉もあります。後継者は「部下と共に喜び、時には共に怒り、共に悲しみ、共に楽しむことができる感性豊かで人間的な魅力を備えた人」であってほしいと私は思っています。感性の鈍い人、冷たい人に、部下は決して付いてきません。

また権力の毒ともいうべき「地位や権力への執着」「金銭欲」「名誉欲」、こういったものを自制できない人も人の上に立つ資格はないと私は思っています。

出典は定かじゃないけども「厳(げん)にして愛され、寛(かん)にして畏(おそ)れられるような人」という言葉があります。つまり厳しいけれども慕われる温かい人。ゆるゆるで脇が甘そうに見えるけれども、畏敬の念を持って部下が付いてくるような人が私の理想の後継者像です。

Q.  一方で、従業員の方に求められていることはなんでしょうか?

小学生に言うような話で恐縮なんだけれども、従業員には、「真面目に」「素直に」「たくましく」生きてほしいと思っています。その上で「笑顔」、「感謝の気持ち」、「思いやりの心」という、この3つの心掛けを常に忘れないで日々の仕事に取り組んでほしいと思っているんですね。

真面目にとか、素直にとか、本当に、小学生に言うような話…、75歳の爺さんがこんなこと言うかと、ちょっと恥ずかしいんだけど、これはね、年齢を超え、いかなる立場にあろうとも失ってはいけない、求めたいものだと思いますね。

あと、経営に評論家は要りません。世の中で大切なことは「知っていること」や「批判すること」じゃないんです。「無理だ」「難しい」「仕方がない」「できない」この4つの言葉は私の会社では禁句です。

ともかくやってみること。行動を起こすことが何よりも重要だと社員にはいつも言っています。

“槍は切るものじゃなくて貫き通すもの。何事にも諦めずにヤリ通す”

でも、その時“やらされる”のではなくて、“自らの意思でやろう”という意欲を持ってやってほしい。そして「できるという信念」「やり遂げる熱意」を持って、「すぐやる」、「必ずやる」、「できるまでやる」。このことに徹してほしいと社員には話しています。

よく「やりきれない」って言いますよね。当たり前ですよ。ヤリ(槍)はね、もともと切るものじゃなくて貫き通すものなんです。何事にも諦めずにヤリ通す。「ネバーギブアップの精神」これが大切だと思います。

「人生はニコニコ顔で命懸け」私の一番好きな言葉です。平澤 興(こう)さんという京都大学の元総長の言われた言葉なんですけど、従業員ひとりひとりが、車という人々の大切なライフラインを守り抜くという社会的責務の遂行に、笑顔を忘れず、自信と誇りを持って邁進し、命いっぱい自分らしい花を咲かせてほしいと私はいつも願っています。

人材育成の極意

“やる気は人から与えられるものじゃないですよね”
Q.  人材育成について、守川さんなりの、こだわりやお考えがあれば教えてください。

部下には仕事をやらせるのではなく、やろうという気にさせるのが人材育成の要諦であると考えています。やる気は人から与えられるものじゃないですよね。やらされ感でやる仕事は面白くないし、面白くない仕事は長続きしません。

人は何事においても自ら考え、行動を起こすからこそ、そこに自主性や力強さが加わります。そして達成感や成長を実感することでやる気も起きてきます。仕事が好きになって、やる気が出てきたら、もうしめたものですよ。好きこそ物の上手なれって言うでしょう。好きになるとさらに努力を重ねます。どんどん腕も上がります。技術も向上します。仕事がさらに楽しくなるという、最強の循環に入るんです。

“「スモール守川」ではそれ以上の成長は期待できません“

やる気にさせるポイントを3つ挙げますと、1つ目のポイントは“美点凝視”。

美点、すなわち人の長所を、目を凝らしてじっと見ること。「部下は3日に、上司3年」という言葉があるそうです。部下が上司をどういう人かを判断するのには3日もあれば十分だそうですが、上司が部下を把握するには3年は掛かるという意味です。確かに人の短所はすぐ目に付きやすいものですよね。

しかし長所っていうのは集中して、目を凝らし、真剣に探さなきゃなかなか見つかりません。上司は部下の長所を認め、褒めて育てる。これを心掛ける必要があると思っています。

吉田松陰は、8つ褒めて、2つ叱れと教えていたそうですが、私は8つ叱って、2つ褒める程度でやっていた。これでは人は育たないと反省しました。

2つ目のポイントは「出る杭は打っちゃいけません。打つんじゃなくて伸ばす」ということ。自分ができることだけを部下に求めると、そこにできるのは「スモール守川」ですよ。それ以上の成長は期待できません。

上司は出る杭を伸ばすことで、自分をしのぐような優れた部下を育てることに使命感、喜び、達成感を感じるようじゃなきゃいけないと思うんですね。

「人生、意気に感ず」って言うでしょう。部下の成長を心から願って、真剣に向き合えば、部下はその心意気に感動し、行動して、必ず期待に応えてくれるものです。

3つ目のポイントは、「人間性の尊重」ということです。張さん(トヨタ自動車 元社長)から教えていただいたトヨタ流の「人間性尊重の経営」という言葉がありましたが、まさしく「人間の考える力」を尊重しなければいけないと思います。

「黙って言われたとおりにやれ」とか「一から十まで手取り足取り教える」というのは人間性の尊厳を奪っていますよね。これでは人は成長しません。

“早過ぎても遅過ぎても、ひなはかえりません”

また、「啐啄同機(そったくどうき)」という禅語があります。ひな鳥が卵の内側から、もうそろそろ出してくれと突っつく、親鳥はそれをよく見ていて、外側から絶妙のタイミングで殻を破ってあげる。この「啐啄」の絶好のタイミングを決して逸さないということが、師と弟子の息が合って相通じるということを意味しています。早過ぎても遅過ぎても、ひなはかえりませんということなんですね。

部下が一生懸命に悩んでる。ここで、突っついてやんなきゃいけないと、的確なアドバイスをしたり、後押しや激励をしたり、褒めてやったり。啐啄同機ができれば部下は必ず成長します。

こういうことは、部下に関心を持って、本当に真剣に向き合ってないとなかなか見えてこない。大切なことなんだけど、言うほど簡単ではありません。人材育成の極意というほどじゃないですが、私がこれまで心掛けてきたことではあります。

(あとがき)
ト販協には、理事長の他に4人の副理事長がいる。その5人の正副理事長が全国販売店をまとめ、メーカーの経営トップ陣のカウンターパートを務めていく。守川さんは理事長を務める前にも、12年間、副理事長を務めていた。

インタビュー記事の最終回となる第四話では、正副理事長として20年近くメーカートップと向き合ってきた守川さんに「販売店とメーカー トヨタ自動車」そして「販売店と創業ファミリー 豊田家」の関係について伺った。

<関連リンク>

第一話 「二人の出会い ~若かりし日の情熱~」
第二話 「守るべきもの ~経営の原点は利他の心~」