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2024.08.05

人への投資 浸透へ 仕入先の課題共有し深まる議論

2024.08.05

仕入先との労務費分も含めた価格設定は進んでいるのか。自動車産業の未来をより良いものにしていくため、課題が話し合われた。

解消されないモヤモヤ

全ト 藤田 副事務局長

全トの中で、ティア2へのヒアリングを実施してきました。最初は皆さん一様におっしゃるのは、「数年前に比べてサプライヤーの声を聞いてくれる姿勢というのはすごく変わりました」、「我々も声を上げやすくなって、10年前だったら考えられませんよ」ということです。

ティア2以降の皆さんも、自分たちも産業全体を良くしたいという想いはお持ちですし、(話を)聞いてもらえるという安心感が少しずつできてきていると思います。

ただやはり先ほどの補給部品の話ですとか、金型のお話もそうですけれども、具体的に良くしようと思うと、どうしても自分たちだけではできないことがある。それを伝えるけれども、なかなか具体的に解消していかないというところがモヤモヤされているのかなと感じています。

量産が終了した金型は通常、修理や交換に使われる部品(補給部品)を製造するため、一定期間保管される。だが補給部品は生産数も少なくなるため、部品メーカーとしては利益を上げづらい。

トヨタは7月、補給部品に関して仕入先各社に向けた新たな対応を通達。量産終了後、15年を経過した補給部品については、リストを展開し、改めて価格の変更などを協議する方針を伝えた。

全トの西尾副会長は「数が減ったり、補給品扱いになったときに、価格が変わらないという状況があるなか、電動化へ対応するための原資を捻出せねばならないなど、仕入先はいかに原価を抑えたつくり方に変えられるか、いろいろ検討しています」とティア2の取り組みを伝えた。

しかし設備や工程の変更による原価抑制は、部品の品質を維持できるかどうかの懸念や、トヨタの承認を得ることも含めティア1が進めることを躊躇する実態があるという。

細江調達本部CPOも「ティア1で完結するのであればやれると思いますが、トヨタの評価や承認が要るというときに、少量、旧型補給のために(設備の切り替えや工程変更をすることへ)二の足を踏んでしまうケースはあるかと思います」と語る。

「すごく大きな課題」と危機感を示したのは、簗瀬 調達グループ執行幹部。

デンソー 簗瀬 調達グループ執行幹部

今もすでにハイブリッドが増えて、ここ10年内燃機(エンジン)が減ってきています。「トヨタ向けのスターター * 」も生産がどんどん減っているんです。それについては当然量産用の設備ではできないので、汎用設備でつくることになります。

*エンジンスターター

ですが品質等価性を求められるので、我々が中に入ってこの(汎用)設備で良いかどうかというのを確認しながら、トヨタや他OEMに承認をもらうという形をとっています。これは、我々ティア1が入っていかないと絶対に無理なので、そういうことをやっています。

これからどんどん事業ポートフォリオが変わってくると、こういったことが全面的に出てくるので、すごく大きな課題なんです。内燃機は汎用設備を使っていかないと、仕入先にとって、今まで量産用の設備で100個つくっていたところで2個つくるなんてありえないので。

実はそういうことにも、我々は(現場に)入っていこうと思っているので、トヨタにもご協力を得ながらやっていきたいと思います。

トヨタの東崇徳 総務・人事本部長は、「労務費の転嫁の議論なんですけど、最終的にはそれぞれの職場の従業員の処遇が改善されるか、採用環境が改善するか」とゴールを再確認。競争力の弱い仕入先にしわ寄せが及ぶことは、「一緒に成長していくことに対する一番のリスク要因」と語り、労働環境の改善を共に進めていけるよう呼びかけた。

みんなで前に進む

好転の兆しが現れ始めている課題も、解消されないまま長年横たわっている問題も話し合われた今回の拡大労使懇。

次回以降に向けた共有にとどまったが、ほかにも完成車物流、輸送物流の2024年問題への対応の難しさや、人材確保が難しいため、派遣従業員などで生産活動を回すことに精一杯で、将来モノづくりを支える人材育成がままならない現状なども提示された。

生産計画を考える側の営業畑出身の宮崎副社長は最後に、現場から届くさまざまな声をぶつけてくれたことに感謝を示した。

トヨタ 宮崎副社長

今日こうやって会話をさせていただいて、改めて拡大労使懇という場を持てたこと、本当に良かったし、ありがたいと思っています。

これまで月々の生産計画を出すと、それが粛々と回っていくのが普通のように思っていました。けれどその中では、一生懸命取り組んでくださっている方々がいっぱいいて、いろいろなところで歪が出てきていた。

「そうじゃないんだ。自分たちがこれから成長していくためには、みんなで一緒に前に進まなきゃいけないんだ」と改めて分かってきたのが、昨今の一番大きな僕たちのチームの気づきであり、成果だと思います。

今日もこうやって声を上げていただいて、分かったことを次に改善していって、みんなで前に進んでいく。声に出してもらわないと気づかないことが、いっぱいあると思います。

さっき言っていただいたような、人事だけじゃなくて調達とか、ひょっとしたらそこに営業も入るし、生産も入って、人の話もしなきゃいけないかも知れない。そういう部分で声を聞いていただいて、この場でぶつけていただく。

我々も逆に労使一緒になって進めなきゃいけないようなことは、皆さまにお願いさせていただく。3回目以降も会話させていただければと思っています。

今日改めて言っていただきましたが、補給部品で大きな課題が出てくるということも、この場で確認できましたので、話を広げていきたいと思います。人材確保については、ハードルが高いかもしれませんけれども、会話は避けて通れないと思います。

また生の声を聞かせていただきながら、皆さんと一緒に改善策を検討させていただきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いします。

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