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2024.02.29

能率・生産性の追求1年凍結 職場健全化へつなげる

2024.02.29

現場で自ら考え、動いた経験は、たとえ失敗しても成長につながる。一律をやめ、一人ひとりがやりがいを持って働けるように、議論は熱を帯びていく。

孤立する若手

組合からはほかにも、プロジェクトが増加する中で、経験の浅い若手の人材育成に割く時間が取れない現状を報告。

製造技術の職場で孤立する若手の声が紹介される。

「ひたすら目の前の仕事を1人でこなすだけで、やり方が正しいのかもよくわからない」
「何が身に付いているか実感がなく、将来が不安」
「現場で不具合が発生した際も、身近に相談できる人がおらず、結果として自分は何も役に立てていない」
「現場に負担をかけてしまっていることが申し訳ないし、自分が情けなく、無力感を抱いている」

この要因として、「経験者も未経験者も、一律に一人工として業務付与をしなくてはいけないほどプロジェクトが高負荷になっていること」、「各職場の実力値を、経験値や能力などの実態に即して更新できていないこと」と挙げた。

人事担当として、東本部長は「どこの職場でも起こり得る」と危機感を示す。

東本部長

特に若手の人材育成がうまくできていない。基幹職に(難しい)仕事を任せて、若手はやれる仕事だけをするという「悪のサイクル」がずっと続いている。

製造技術だけでなく、どこの職場でも起こり得ることだと思います。

若手のめんどう見については、一旦、各職場のニーズをいただいて、(退職された方に若手の指導をお願いするなど)積極的に人事としてアクションしていきたいと思います。

60歳以降は再雇用になるため、処遇が大きく変わる方々もいて、モチベーションをダウンさせてしまっている実態もあると思います。ここは早急に見直しをしていきます。

できないことの証明ほど、消耗して、虚しくなることはない

今回の議論のもう一つのテーマである現場とマネジメントの双方向コミュニケーションに入る前、組合から「もう一点良いですか」と声がかかった。

伝えられたのは、短期開発によるリードタイムの課題だ。

車両技術支部

開発日程が短いプロジェクトが増えてくるにつれ、職場では「過去のプロジェクトで優秀な人を集め、マンパワーで乗り切った(チャレンジングなプロジェクトでの)実績が基準になっているのではないか」「前提条件の異なる基準が他のプロジェクトで展開され、日程を短縮すること自体が目的になっていないか」といった声が出てきています。

日程に対する開発規模、人の配置、試作車の台数などのリソーセスといった前提条件の妥当性に腹落ちできないまま開発が進んでいくのも要因の一つではないかと思っています。

また、現場ではムリな日程だと思って部長まで声を上げることができても、なぜムリなのかという問いに「100%ムリ」を証明することは難しく、すぐに止まらないといった声も職場から上がってきています。

組合員も「やらねばならない」という想いで、「できない」と言う前に、必死でできることを探して、何とか前に進めようとします。

マイルストーンにおいても、安全・品質のリスクだけだと条件付きで進められ、どうすれば上位の方に止めてもらえるんだろうというのが組合員の率直な想いです。

これらを改善していくために何が必要なのか、ぜひ議論させていただきたいです。

ムリであることを証明することの難しさ。十分に前提条件を考慮できていない開発に疲弊する現場。

「できない証明を部下にさせてはいけない」。佐藤恒治社長が根深い問題として受け止めた。

佐藤社長

「悪魔の証明」というか、できないことの証明ほど、消耗して、虚しくなることはないし、その間に違う仕事をした方が絶対いいと思います。

でもそれが今の実態で、本当に根が深いなと受け止めました。

昨年の労使協議会から1年間、皆さんと懇談しながら、毎回言ってきたことがあります。

「目標を立てると目的に変わるので、目標ではなく、基準を示して、ペースを決めて、基準をチェックしながら、柔軟にアジャストしていく」ということです。なかなか伝わらないんです。

「なんでだろう」と1年ずっと考えていますが、トヨタは非常にオペレーションの強い会社で、仕組み化がすごく強固にされていて、特にプロジェクトを進めていく上でのマイルストーン管理*は、過去からの積み上げになっていると思います。そのあり方を変えていかないといけない。
*プロジェクトなどの進捗を都度確認し、スケジュールどおりに進んでいるかの管理

従来の延長線上の技術は少なく、多くの仕事がチャレンジに満ちているので失敗が必ず起きます。失敗を想定したマイルストーン管理をしておかないといけない。

今までの仕組みは失敗がないことを前提に、「失敗していないよね」という管理をしてきましたが、それではもう通用しない時代になっていると思います。

品質もそうです。未然防止をやりながら、流出防止もする。その両面で、プロジェクトの進行管理をしていく必要があると思います。

言い換えるならば、マイルストーン管理は「健康診断」だと思います。

皆さんがどのように健康診断に向き合っているかはわかりませんが、健康診断の前の日だけお酒を飲むのをやめても、数値は変わらない。健康診断で、瞬間的に良い数字を出すことにはあまり意味がなく、健康に生活をし続けるためのチェックです。

健康診断で得られた指標を、どうやってその後の行動につなげて、健康な状態をつくっていくかが大事。だけど、目先にとらわれた健康診断になっているのではないでしょうか。

本当の意味での健康診断にできるよう、仕事の節目の管理のあり方を、ぜひとも見直していきたい。

リーダーの仕事は、基準を決めていくこと。そこに向かってどうやってアプローチしていくのかを伝えるところまでがセット。

それができないなら、できない証明を部下にさせてはいけないと思います。一緒にどう向かっていくかを考える。

マイルストーン管理のあり方を変えるということと、そこに向かってリーダーシップを変えていくということを、会社側のリーダーたちに僕は言いたいと思い、共有させていただきました。

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