失敗恐れず挑み続けるために 制度改革の具体策を明示

2023.03.15

新体制での初の労使協議会が閉幕。"2度目の回答"では、モビリティ・カンパニーへの変革に向けた具体的な制度改革に言及があった。

約1カ月に及んだトヨタの労使協議会(労使協)が315日、最終回を迎えた。

これまで3回の協議を通じて、新領域への挑戦や家庭と仕事の両立を阻む壁、若手のキャリア形成、ベテランの適正配置など、さまざまな課題が浮上。

この課題に対し、労使は豊田章男社長が磨き続けてきた労使関係を継承し、本音の話し合いを重ねてきた。

賃金・賞与に関しては、222日の第1回に回答が渡されているが、今回は第3回までの議論を受けた“2度目の回答”。組合からの要求書の一番はじめにも書かれ、重点を置いた“話し合い”に対する回答だ。

佐藤恒治(さとう・こうじ)次期社長は、正面に座る西野勝義委員長ら組合の参加者に向き合い、モビリティ・カンパニーへの変革に向けた制度改革の方針を語った。

目指すは「誰もが、いつでも、何度でも、失敗を恐れず挑戦できる」会社

佐藤次期社長

今年の労使協議は、「未来を担うメンバーで、これからの話し合いをしてほしい」という豊田社長の想いのもと、新体制で話し合いをしてまいりました。

まずこれまでの13年を振り返り、改めて確認することができたのは、「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う」、このトヨタ労使の最も大切な価値観でした。

この労使共通の基盤、相互信頼関係があるからこそ、本音の議論ができたのだと思います。本音で向き合ってくれた組合員の皆さんに、心より感謝申し上げます。

私たちの未来を考えるにあたり、最も大きなテーマはモビリティ・カンパニーへの変革です。

環境変化が速く、先の見えない時代だからこそ、変革を実現するためには、多くの挑戦が必要です。

そのためには、失敗を恐れず、挑戦し続けるための余力づくりや風土づくり、そして、世代ごと、ライフステージごとに、一人ひとりがやりがいを持てる環境づくりが必要であることが、話し合いを通じて明らかになったと思います。

こうした課題に向き合い、トヨタを「誰もが、いつでも、何度でも、失敗を恐れずに挑戦できる」会社にしていくことが、これから労使で取り組むべきことだと考えています。

変化の激しい時代においても、失敗を恐れず挑戦し続けることの重要性を強調した佐藤次期社長。ここから、挑戦を可能にするための具体的な人事制度の見直しの内容と、そこに込めた想いを続けた。

変革の実現に向けた3本柱

佐藤次期社長

その実現に向けて、「多様性」「成長」「貢献」の3つを柱に、人事制度や仕組みの見直しを進めたいと思います。

トヨタで働く一人ひとりが、「多様」な個性を力に変えて、挑戦と失敗を繰り返す中で「成長」を実感できる。

そして、自動車産業全体を視野に活躍し、未来に「貢献」していく。それが、この3本柱に込めた想いです。

その具体的なテーマを申し上げます。

まず「多様性」です。

トヨタで働く皆さんが、自分らしい人生を歩むための多様な選択肢をつくってまいります。

そのひとつとして、年内に、製造現場も含めたあらゆる現場で、誰もが気兼ねなく、パートナー育休を取得できる環境を整えます。

また、今年の10月からは、社内公募制を本格導入し、20244月からは、社内FA制度を新設いたします。

次に「成長」です。

多様な挑戦を後押しするために、年次や学歴ではなく、現在の能力やチャレンジに重きを置いた評価制度を来年から導入いたします。

また、管理職前のメンバーへの現地現物・社外の実践研修の拡充や、業務職の職種変更など職種を越えた挑戦も後押ししてまいります。

業務職の職種変更については、「上を目指さない人は頑張っていない」ということではありません。

大切なことは、それぞれの能力を発揮して、成長を実感しながら、自分らしく貢献していくことです。

全員がそう感じて働けるような施策も考えてまいりたいと思います。

最後に「貢献」です。

産業全体をフィールドにした活躍や貢献を後押しするために、仕入先様のニーズに応えられるような人材交流、マッチングを活性化させていきます。

また、トヨタのネットワークを活かして、オフィス、託児所などグループ各社の資産の共同利用を拡大してまいります。

そして、こうした取り組みの土台として、「リソーセス」と「マネジメントのサポート」を強化いたします。

この数年間、私たちは「やめかえ」を通じて、業務の効率化を実現してきました。

一方で、職場では余力を失い、未来のためのチャレンジがしにくい状況にあることも分かってまいりました。

そこで、この数年の「やめかえ」で効率化してきたリソーセスに相当する700名規模の人材を追加採用して、「未来価値の創造」を促す職場環境づくりにつなげてまいります。

それと同時に、役員・幹部職がリード役となって、前提条件を大胆に見直した、さらなる「やめかえ」も進めてまいりたいと思います。

「マネジメントへのサポート」については、多様なメンバーに向き合えるよう、管理業務改廃による負荷低減やマネジメント教育の拡充を進めていきます。

グループ長をはじめ、職場づくりのキーパーソンであるミドルマネジメントの皆さんが「余力」と「自信」を持って、現場での挑戦をリードいただけるように、悩みごとや困りごとにしっかり寄り添ってまいります。

ひとりではできないことも、仲間と一緒に挑戦すればきっとできる

佐藤次期社長は制度改革の内容や時期について説明した後、第1回と同じように「トヨタの最大の財産は人」と改めて強調。さらには自動車産業550万人の仲間へ貢献していくことについても言及した。

佐藤次期社長

今後、スピード感をもって、これらの施策の具体化と実行を労使で進めてまいりたいと思います。

これまでも申し上げた通り、私は「トヨタの最大の財産は人」だと考えています。

クルマをつくるのは「人」です。モビリティ・カンパニーへの変革も、その真ん中にあるのはクルマだと思います。

全員が自分らしく働き、その力がひとつになったときに、初めてトヨタらしいクルマ、トヨタらしいモビリティをつくれるのだと思います。

ひとりではできないことも、仲間と一緒に、夢に向かって挑戦すればきっとできる。トヨタで働く私たちには、その力があると信じています。

だからこそ、「未来に向けて、人の力を高めたい」。

これが、今回の「話し合い」への回答に込めた想いです。

労使でこの想いを共有し、具体的な行動につなげてまいりたいと思います。

そして、もうひとつ。私たちがブラしてはいけない軸は、自動車産業で働く550万人への貢献です。

労使宣言の最初の項目には、「自動車産業の興隆を通じて、国民経済の発展に寄与する」というトヨタの使命が掲げられています。

改めて、この原点を胸に刻みたいと思います。

550万人の仲間の皆さんから「トヨタと一緒に仕事がしたい」と言っていただける会社になれるよう、一人ひとりが産業全体への貢献を意識して、日々、努力してまいりたいと思います。

本日から、年間を通じた労使の話し合いがスタートします。

挑戦には失敗が伴うように、話し合うからこそ、さまざまな課題が見えてくると思います。

それでも、相互信頼関係、本音の会話を大切にする私たちであれば、一緒に乗り越えていけると思っています。

未来のために、550万人のために、ともに前に進んでまいりましょう!

実態に基づき、地に足の着いた、そして前を向いた話し合いを

佐藤次期社長の回答と想いを受けて、西野委員長は次のように応えた。

西野委員長

ただいま会社から3つの柱にもとづいた人事制度変革と、その土台となるリソーセスとマネジメントのサポート強化について回答いただきました。

いずれも、労使協議会でお伝えしてきた組合員の声をしっかりと受け止めていただいたものと思っています。

「未来に向けて、人の力を高めたい。そのためにスピード感をもって、施策の具体化と実行を労使で進めていきたい」という強い想いもお聞きしました。

先ほど示された方向性、具体的な実施事項だけでなく、そこに込められた想いも含め、速やかに組合員に展開してまいります。

一方、今回の労使協議会では取り上げきれなかった課題や、今後も労使で議論が必要な課題も残っています。

特に業務職や技能職の声については、まだまだお伝えきれていないことも多くあります。

こうした点に関しましては、引き続き労使専門委員会などさまざまな労使の話し合いの場で、議論させていただきたいと思います。

本年の労使協議会を終えるにあたり、私からも一言申し上げます。

「本年は、これまでよりもさらに踏み込んだ本音の話し合いができた」と先回の労使協議会で申し上げました。

先ほど佐藤次期社長からも、「こうした話し合いができるのも労使共通の基盤と相互信頼があってこそ」と、その大切さについてお話がありました。

私自身、委員長就任以来、労使の話し合いのあり方、また、組合の活動をこれまでよりも大きく変えてくる中で、「組合としての役割がしっかりと果たせているだろうか」「職場の組合員の期待に応えられているだろうか」「グループや産業で働く仲間に本当に受け入れられているだろうか」と悩むこともありました。それでも一歩一歩、前に進めてきました。

今年の労使協議会の議論を振り返り、改めて、進んできた道が決して間違いではなかったと感じています。

何度も申し上げていますが、こうした話し合いができることは決して当たり前ではないということを肝に銘じて、今の状態に満足することなく労使で努力を重ねていきたいと思います。

最後になりますが、産業の未来のために、一歩前に踏み出せる職場にしていくために、各職場で、壁となっていることに関しては率直に話し合いたいと思います。

決してうわべのキレイごとに陥らず、より実態に基づいた、地に足の着いた、前を向いた話し合いを、この労使協議会を契機にあらゆる職場で徹底的に追求してまいりたいと思います。

最後に議長の河合満おやじが、今回の労使協を締めくくった。

河合おやじ

議長の私からも、一言申し上げます。

私はトヨタ技能者養成所に入って、今年で60年になります。

トヨタの中で、一人でなんでもできる人なんて、見たことがありません。

みんなが、クルマに関わる、それぞれの仕事で、それぞれの技能を高め、一つのクルマをお客様に届けてきました。

そして、労使の話し合いをはじめとして、耳の痛いことも、本音で話し合い、向き合って、改善し続けてきました。

そういった積み重ねが、いまのトヨタをつくっています。

この13年間、豊田社長の強いリーダーシップのもと、指針を示していただき、リーマンショックや品質問題、東日本大震災、そしてコロナ、数多くの危機を乗り越え、商品・地域軸の経営ができてきたのも、これもすべての人の力です。

モビリティ・カンパニーへの進化も、一人ひとりが行動を続けて、そこでぶつかる壁や、悩みに、みんなで向き合っていくこと。この積み重ねによって、たどりつけると思います。一緒にやっていきましょう。

そして、最後になりますが、「幸せ」というのは、本人が感じるものです。一人ひとり違います。

「会社が幸せにする」「上司が幸せにする」と言えるものではありません。

それでもトヨタには、「クルマづくり」に関わるたくさんの仲間がいます。

産業全体をフィールドにして、多様な仲間と一緒に働くことで、皆さん自身が、楽しさや、幸せを感じられる場所になっていけると嬉しいです。

本日が、年間を通じた労使関係のスタートになります。

私自身も、現場で、皆さんと話し合いながら、一緒に「クルマづくり」に関わっていくことを、楽しみにしています。

トヨタフィロソフィーに基づき、多様な人材が個性を活かして活躍できる職場にしていくこと。また、体制が変わっても本音の議論を続けていくことで認識を合わせ、2023年の労使協は幕を閉じた。

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