水素エンジンでの6年目の挑戦となった、2026年のスーパー耐久・富士24時間レース。今年は超電導技術を用いた世界初となる挑戦を行っていた。
超電導ポンプの2つの課題
伊東主査が話すように、超電導液体水素ポンプには大きな課題が2つ残されていた。
1つ目が耐久性の課題。
超電導技術は、輸送やエネルギー、医療などの幅広い分野で利用されているが、それらのほとんどが激しい振動などがない安定した環境ばかりで、レース車両のような激しい環境下で使用されている例はほとんどないのだ。
その難しさは、開発に協力している京都大学の中村武恒 特定教授が「レースカーに超電導ポンプを使うというのは、非常識にも程があるくらいの使い方」と表現するほど。
いざ取り入れてみると、ギヤに大きな負荷がかかってしまい、24時間レースに耐えられる耐久性を実現することができなかった。
さらに、ポンプをタンク内に搭載したため、負荷が大きい部分だけ交換することもできず、今回のレースではおよそ4時間かけてタンクごと交換する必要があった。
もう一つの課題が、ボイルオフの増大。
超電導ポンプのギヤとクランクの動きが液体水素をかき回すことに加え、タンクが急激に大型化したことでタンク内の液体水素が波打つスロッシングの挙動を抑え込むことが難しくなり、液体水素の温度が上昇し気化してしまうのだ。
それによって液体水素の搭載量は増えたものの、航続距離の上昇にはつながらなかった。
この課題の解決に向けて、伊東主査は「トヨタだけで解決はできない、次の挑戦に向けて仲間たちに協力いただきながら、開発を進めています」と話す。
仲間と取り組むリニア駆動型超電導モーターの開発
課題解決に向けて取り組んでいる新たな挑戦が、“リニア駆動型”の超電導モーターの開発。
これまでのギヤ/クランク機構を必要としていた回転型モーターを、磁気の力を用いて線状のモーターを動かすリニア型モーターへと改良を進めている。
実現することができれば、耐久性・ボイルオフの両方の課題の要因となっていたギヤが不要になり、大幅な改善が見込まれている。
中村特定教授はリニア駆動型の効果について、次のように話していた。
中村教授
リニア駆動型のモーターが実現できれば、耐久性やボイルオフの課題の解決だけでなく、これまで以上に強い力を発揮することができます。
実現には課題も多く、いろいろな方法を考えている最中ではありますが、超電導の力をいかんなく発揮できるシステムの実現を目指したいです。
そして、このリニア駆動型の開発から協力に加わったのが、鉄道総合技術研究所。
60年以上前から超電導技術の研究を行っていて、リニアモーターカーの開発でリニア型の知見も多く持つ、超電導技術の大先輩だ。
今回の協力について、富田優部長はその意気込みを次のように話していた。
富田部長
最初に協力のお話を伺った時は、とても驚きましたが、超電導技術の実装化の難しさはすごくわかりますし、我々の持っているノウハウで力になれることがあるかもしれないと思い、協力させていただくことにしました。
リニアモーターカーだけでなく、送電線などで実装化してきた実績もあるので、新たな技術の開発に向けて、幅広く協力していければと思います。
また、鉄道の開発と違い、トヨタがレースの現場を使って、失敗を恐れない思い切った技術開発に触れて、我々もこれまでになかった開発の仕方を学ぶことができ、逆に得るものも多く学びの場にもなっています。
新たな仲間も加えて始まった、次の挑戦。
伊東主査は、今後の水素エンジン車の進化の鍵を握るともいえる、このリニア駆動型モーターの開発について「日本の技術を結集して、クルマとしてもすごいものになるのではないかという肌感覚があります。」と仲間たちへの頼もしさを感じていた。
また、今年の24時間レースもドライバーとして出場して、75ラップを走破したモリゾウこと豊田章男会長も、「来年はさらにこの水素の進化をパートナーと共に共感したいし、多くの方に未来への期待値を持って欲しいと思います」と語っていた。
来年の富士24時間レースでは、水素エンジンGRカローラがどんな進化を見せてくれるのか。
今からその日が楽しみだ。