水素エンジンカローラが6年目の24時間耐久レースに挑んだ。そこで今年も自動車研究家の山本シンヤ氏に今回の挑戦について表現してもらった。
水素エンジンカローラが24時間耐久レースに参戦するようになって、2026年で6年目を迎えた。水素エンジン挑戦の歴史でもある。
この挑戦を最前線でずっと追いかけているのが、自動車研究家・山本シンヤ氏だ。トヨタイムズは、例年通り、いつもの場所でいつもの時間に山本氏にインタビューを敢行。そのたびに印象的な“山本シンヤ節”ともいえる的確な言葉で表現してくれる。定点観測も6年目だ。
1年目は、そのインパクトの大きさから「夢の扉を開けたエンジン」。
2年目は、BEV(電気自動車)偏重だった世間の風向きの変化を捉え「内燃機関はカーボンニュートラルの味方」。
3年目は、液体水素に挑戦し、カーボンニュートラルに向けた選択肢の一つとして存在感を高めるなか、スーパー耐久という場にメーカーの垣根を越えて仲間が増えたことについて「世界が本音を喋れるようになった」と表現。
この年の24時間耐久レースは、ル・マン24時間を主催するACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長が視察。ル・マンで水素エンジン車が走る未来を予感させた。
4年目は、ポンプとタンクの改善で航続距離を1.5倍に伸ばし、参戦する他のクルマと勝負できるようになったことで「うっすら頂上が見えてきた」。
5年目は自分の目で見て確認せずに、データだけで判断しようとしたエンジニアを見て、「白い巨塔が戻る瞬間を見てしまった」と表現。
6年目となった今年は、なんと山本氏自身も24時間レースにジェントルマンドライバーとして参加するという。
今年はサーキットの中からも見る水素カローラの挑戦をどんな言葉で表現してくれるのか。
いつもと同じ24時間耐久レース決勝の朝、富士スピードウェイ(静岡県小山町)のいつもと同じ場所からサーキットに視線を送る山本氏に、これまたいつもと同じスーツに身を包んだ森田京之介キャスターが声をかけた。
周りとバトルができる普通のクルマになった水素エンジン
森田
今年も行きます定点観測。山本シンヤさん、おはようございます。
山本
おはようございます。毎年毎年、ありがとうございます。
森田
何年目になったかわかります?
山本
5年目?
森田
あっ間違えてる。 6年目。もう間違えるくらいになりましたよ。
山本
ね。長いですね。
森田
毎年、水素エンジンが走る決勝の日の朝に、9時くらいにここに集合して、定点観測をして早6年目になりました。去年のレースなんですけど、走り切ったんだけど、霧があったり、雷雨があったりで、実質は多分15〜16時間くらいしか走れなかった。
なので、ちょっと周回数としてはそこまで伸びなかったんですけど、去年のレース振り返って、まず水素エンジンはどうですか?
山本
去年はもう普通になってしまった感じがありますよね。 今までは孤高の戦いだったのが、去年くらいから本当に戦いになっている。ちゃんと周りのクルマとバトルができるような感じになって、ある意味普通になった感じはありますよね。
森田
本当に最初はもう最下位が当たり前、完走できれば拍手みたいなところから、ちゃんと上のクラスと戦い合って、抜くシーンもある。
山本
予選もちゃんとみんなドキドキしながら見る。決勝も抜きつ抜かれつがある、給水素も他のガソリン車とほとんど変わらないっていうところで、本当に普通になっちゃった。
32号車水素カローラが出場しているST-Qクラスは、各メーカーが開発中のクルマをS耐に持ち込んで走らせることができるように設立されたクラスで、順位表彰がなく賞典外だが他のクラスと互角のバトルが繰り広げられた。
また頂上が上がった
市販化を頂上と例え、2021年からS耐の場で開発を続ける水素カローラを追ってきた2人。未知の領域への挑戦を続ける水素カローラの現在地について、このように話が進む。
森田
なるほど。去年のインタビューを見返したら(S耐2025年の)前半戦が終わって、終わったんだけど、「頂上が頂上じゃなかったかも」みたいな話をしていました。改めてそれを踏まえて、今年はどうでしょうか?
山本
また頂上が上がりましたよ。
森田
上がっちゃった?
山本
だって、また世界初の技術が入ってるじゃないですか。 今まではやっぱりポンプが大きすぎて、燃料がたくさん積めないっていう課題があった。それをどうしようかといろいろ悩んでいたところに超電導使えるねと。
超電導って、もともとリニアモーターカーとかに使ってるけど、あれはわざわざ冷やしてるんですよ、極低温環境に。
だけど、水素エンジンの燃料タンクの中の水素は、そもそもが極低温だから相性がいいよねっていう、その発想から生まれた。だけど相当難しい、誰もやったことがない挑戦が、また今年も始まる。
今年から、燃料ポンプに-253℃という液体水素の極低温下で電気抵抗が0になる「超電導」技術を採用。
この技術で、燃料をくみ上げるポンプのモーターをタンクの中に収納し、部品の小型化と小さな電流で同じ出力を得ることが可能となった。開発当初150Lだったタンク容量を300Lへ大幅にアップさせている。
森田
しかも聞いたら超電導の技術ってもっと静かな揺れとか少ない場所で使うものだとか。
山本
静かで振動もなく、あったとしても抑える方向。
森田
なのに、200km/hくらいで走って、ガンガンブレーキをかけて、Gがかかりまくるような環境で使う。これまた大きなチャレンジですね。
山本
だから、誰もやったことがないところにまた入ったので、そういう意味では、また頂が見えないところにあった、ただ何かおぼろげにはあるんですよ。
森田
でもそれは、やっぱりタンクが小さくて、この富士スピードウェイを30周走るのが限界だよとなると、市販化ってところにはちょっと距離がありましたもんね?
山本
大体それがメディアの質問から出るじゃないですか。「航続距離どうするんですか?」、「リアシートをどうするんですか?」みたいなところがあるけど、この技術がしっかり確立すると、本当にリアルになってくるかもしれない。
ニュルは卒業試験ではなく新しいスタートライン
2025年は、S耐24時間が5月31日、ニュルブルクリンク(ニュル)24時間レースが6月21日に開催されていたが、今年は5月16日にニュル24時間、S耐が6月6日とレースの順番が逆になった。
森田
去年はこの場がニュルブルクリンクよりも前にあって、実際にその後完走してだったんすけど、今年は順番が逆で、ニュルでチームはこの前悔しい思いをしたメンバーが、この富士に戻ってきて24時間レースに挑む。
ニュルでは完走できなかった悔しさ、なんかいろいろフィードバックされてるみたいですね。
山本
だから、ニュルが卒業試験じゃなくなったんですよ。 新しいスタートラインに変わったとも言えますよね。S耐とニュルをずっと回していく。もっといいクルマづくりに終わりはないって言ってるじゃないですか。 それが本当にリアルに動いているのがこのS耐とニュルの流れなのかなって気はします。
森田
そうか、去年はこっちがまだ入学試験すら受けてないかもねなんて言っていて、ニュルは卒業試験っていうと、一方通行の流れかなと思ったんですけど、
山本
だからニュルに行ったらもう終わりみたいな。
森田
違うんだ。
山本
今ちゃんと帰ってきて、ニュルで通用したのが日本で通用するのか、日本でまたできたものがニュルに行って通用するのかっていう、いいサイクルが、天使のサイクルですよね。
森田
天使のサイクル。
山本
はい。
森田
だから(ニュルとS耐で)両輪だなんて話をしていましたけど、もしかしたらサイクルなのかもしれないと?
山本
はい。
森田
という見え方をして、シンヤさんはいつもの同じ格好だし、眼鏡は変わったですか?
山本
眼鏡はいろいろマイナーチェンジをしています。
森田
マイナーチェンジくらいですよね。
山本
はい。
森田
でも聞いたところによると、今年はちょっとマイナーじゃないチェンジがあると、このS耐に向けては。
今年は取材する側から体験する側に
今年のS耐では、自らステアリングを握りジェントルマンドライバーとしてST-4クラスの290号車スズキ スイフトスポーツで出場する山本氏。
山本
ドライバーとしても参戦するんですよ。
森田
いやこれね、S耐という場はどんな場ですかとか、実証実験の場ですとか、いろいろ言ってきたけど、今度は乗る側にも入った?
山本
はい。やっぱりは今まで取材側で、見て聞いてきたんだけれども、やっぱり体験してないところが本当のリアルを知れなかった。
だけど、今回ドライバーとして入ることで、そういう意味では水素GRカローラの横を走ることで、もっとリアルを知れるかな、やっぱり体験って大事だなっていうところを、身近な取材としてやってきます。
森田
乗るクルマは?
山本
スズキのスイフトスポーツです。
森田
スイフトスポーツで、液体水素エンジンのカローラと抜きつ抜かれつがあるかもしれない。
山本
たまたま、昨日の予選のタイムを見ていたら、モリゾウさんと0.5秒しか変わらなかったんですよ。
森田
どっちが速い?
山本
僕が負けました(笑)。
森田
負けた〜。みんなモリゾウさんに負けてる。
山本
負けてしまったんですけど。ただ、同じくらいのペースで走ってるとこういう世界なんだっていうのが、すごいよくわかりましたね。
やっぱり65台出てるじゃないですか、65台の中で抜くクルマもあれば、抜かれるクルマもあるっていう、その一番微妙なポジションなんですよ。
あの中で、自分の居場所を見つけてタイムを出してるモリゾウさんって、マジすげえなって思いました。
森田
そうですね。
山本
あんなの道楽じゃできない。
森田
(笑)
山本
僕、初めて練習走行でその洗礼にあいましたもん、やっぱり。
森田
つまり今おっしゃったように、まさにもう普通にレースしちゃうわけですよ。
山本
はい。
初めて設定された目標周回数
今まで、1スティント(ピットインとピットインの間の走行)の周回目標は設定していたが、24時間の明確な目標周回数は設定したことがなかった水素カローラ。
森田
ドライバー・モリゾウさんに聞いたら「今年は初めて明確に目標を設定しました」と、500周という数字が出てきました。ここで目標が出てくるってどうですか。
山本
目標が出るということはやっぱりそれが課題になる。やっぱり悔しさも出るかもしれないし。
森田
確かに。
山本
ただ、今まではやっぱり航続距離っていうところに、みんなそこに引っかかってたじゃないすか、メディアの人は。
「どれぐらい走るんですか」、今度はそのタンクが進化した、燃料が進化したときに、「どれだけ増えますか?増えますか?増えますか?」っていうところの、今回はファクトをちゃんと見せようというところもあるのかなって気はします。
森田
そういう意味では、つくる側の発信姿勢もちょっと変化したんじゃないかというところがありますね。
そういうことを踏まえて、改めて2026年の液体水素エンジン、この挑戦、シンヤさんはどんなふうに見ていますか?
山本
いやぁ、本当にわからなくなってきた。今回、燃料タンクの交換もあるとはいえ、ただ速さ的には、ほぼそのST2とか、3、4くらいのところを走っている。予選見てる限りは、まったく何かいろんなことが起きてないじゃないですか?
森田
起きてないんですよね。なんか当たり前になっちゃってるのがちょっと怖いなという部分もありつつ。
山本
この場所も、何となくもうみんなが見慣れてしまった感もあるけれども、今回は目に見えない世界初の試みをやっているっていうところを皆さんに見て欲しいなっていう気はします。
森田
目に見えないけど見て欲しい。
山本
はい。
森田
目を凝らして。
山本
目を凝らして、今回ランプが点くじゃないですか。
あれがいつも点いているよっていうのを、やっぱりコースサイドでみんなが見守ってくれることが、何かすごい一緒に戦うところの要素にもなるのかなという気はします。
森田
超電導モーターが作動していますっていうランプが、クルマにつきましたから、それでちょっと見える化してくれているので。
山本
あれが点いていたら「あっ順調に走っているね」、何か違うコーションが出ていたら「何かあったぞ」みたいな。
森田
ということで最後に、シンヤさん、今年は24時間…?
山本
寝ません。寝ませんというか、マルチでタスクなので。
森田
そうですよね。
山本
取材もしながら、ドライバーもしながらなので、それはやっぱりね、70歳のモリゾウさんが頑張っているのに、50代がそんなのでへばっては駄目です。
森田
頑張りましょう。応援もします。
山本
ありがとうございます。
森田
もしかしたら、モリゾウさんと一緒に走る時間帯も?
山本
あるかもしれない。
森田
それは楽しみですね。
山本
そういうとこは一番身近なところで取材ができる強みなので、いろいろフィードバックをしていきたいなと思います。
森田
ついに横に並んで取材する時代になりましたか、進化していますね。
進化を続ける水素エンジン。液体水素カローラは、電気系のトラブルもあり、目標の500周には届かなかったものの、総周回数483周と過去最多を記録。
モリゾウも年齢と同じ周回数70周を目標に今年の24時間レースに挑み「おかわり走行」で目標を超える75周を達成した。
液体水素カローラの挑戦は、これからも続く。