スーパー耐久2025年シリーズの最終戦で、水素の1年間の進化が明かされた。水素社会の実現にどれだけ近づいたか? その進捗をサマリーする。
11月16日、スーパー耐久(S耐)シリーズ2025の最終戦が富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われ、液体水素を燃料とするGRカローラ(液体水素カローラ)が完走(4時間レース109周)を果たした。
液体水素カローラのS耐参戦は5月の富士24時間レース以来、半年ぶり。課題となっていた燃料ポンプの耐久性のめどが立ったことから、今回は最大出力で走り切った。
一方で、水素にまつわる取り組みは、これだけにとどまらない。サーキットの外でも、数々の進捗があった。今シーズン、水素社会の実現へどれだけ歩みを進めることができたのか? その挑戦をレポートする。
いいことずくめ!? 超電導技術
2023年5月に構想を発表して以来、注目を集めてきた超電導技術。
極低温の環境下で電気抵抗がゼロになり、電力損失なく電流が流せる革新的な技術で、輸送、エネルギー、医療など多岐にわたって応用されている。
液体水素カローラでは、-253℃という燃料の温度環境を利用し、燃料ポンプを動かすモーターにこの技術を適用した。
S耐最終戦の予選があった11月15日、超電導技術を使った液体水素カローラが初めてデモランを披露した。
ハンドルを握ったのは、TOYOTA GAZOO ROOKIE Racingの佐々木雅弘ドライバー。
軽快で、きびきびとした走りを見せ、「重心高がかなり改善されている。重心が下にあるので、乗り味はロールが限りなく少なくなっている印象があります」と仕上がりに言及した。
水素エンジンプロジェクトを統括するGR車両開発部の伊東直昭主査は「液体水素を搭載するクルマと超電導技術はとても親和性が高い。今後キーになってくる技術」として、3つポイントを挙げる。
①タンク上部にあったポンプの周辺機器がなくなる➡タンク容量が増やせる
②モーターをタンクに収納する➡(抵抗が少ない分、小型化でき)軽量・低重心化できる
③入熱源のフランジがなくなる➡気化して捨てていた水素を低減できる
さらに、開発に協力した京都大学の中村武恒 特定教授によれば「(この超電導モーターは)市販の超電導線でできている。単純に言うと、これで巻き線をつくるだけ。他に特別なことは基本的に必要ない。だけれどもすごく性能が上がる」という。
その他、モーターの駆動モードにあわせて自律的に抵抗を発生させたり、万一、タンク内の温度が室温相当まで上がってもフェールセーフ機能が働いたりもするという。
いいことずくめに聞こえる超電導技術。だが、乗り越えなければならない課題もある。
燃料の液体水素が少ないときには、超電導モーターが液面から顔を出し、モーターの温度が上昇。超電導性能が低下する。
もう一つは、金属部品の耐久性の問題。液体水素の極低温の環境下では、金属が熱収縮を起こすほか、オイル等の潤滑剤も使えない。
伊東主査は「日本の最先端の技術をお持ちの企業さんと連携をして、技術改良をしっかりやっていきたい。さらなる仲間づくりをしたい」と意欲を見せた。
水素エンジンHEVハイエース
次なる最新技術が水素エンジンハイブリッド車(HEV)。2024年11月、S耐2024年シーズンの最終戦で、同システムを積んだハイエースを初公開した。
当時は助手席スペースを潰した11人乗り仕様のクルマだったが、今回は12人乗りに改良。使い勝手は「普通のハイエース」になった。
CVカンパニーの太田博文チーフエンジニアはその意義をこう表現する。
「去年は初めて水素エンジンとHEVを組み合わせた1週間後に持ってきました。助手席には電動機器、計測機器などが置いてある開発車そのままでした。今回は普通のクルマにしています。商用車として、日常の仕事ができる“普通のクルマ”であること、これこそが大事です。進化は何かと聞かれたら、助手席が付いたことですが、そのための部品小型化や、裏にあるパワートレーンの性能開発を徹底的に進めてきました」
2023年、HEV化する前の水素エンジンハイエースは、豪州で実証実験を行い、クルマを鍛えてきた。
当時、課題の一つだった航続距離に対し、一つの解を示した水素エンジンHEVハイエースは、2026年、再び豪州の地で実証を予定している。