超電導液体水素ポンプを搭載した水素エンジンカローラが走ったS耐富士24時間レース。その会場で中嶋裕樹副社長らがメディアに、水素社会に向けた展望を語った。
2026年6月5日から7日にかけて富士モータースポーツフォレストで行われたスーパー耐久シリーズ(S耐)第3戦富士24時間レース。超電導液体水素ポンプを世界で初めて搭載した水素エンジンカローラが話題を呼んだ。
会場では、5年間にわたる水素の取り組みについて、中嶋裕樹 副社長らがメディアに向けて説明会を実施した。
拡がり、深まってきた水素の挑戦
説明会の様子を紹介する前に、水素をめぐる活動を簡単に振り返りたい。
2021年、モリゾウこと豊田章男会長(当時社長)が「カーボンニュートラルで未来をつくるのは、意志ある情熱と行動だと思います」として、水素エンジンでのモータースポーツ挑戦がスタート。
23年からは、燃料を気体水素から液体に変更し、1充填当たりの航続距離が飛躍的に向上。今回はポンプに超電導技術を採用し、過去最高の483周を達成した。
この5年間、モリゾウはドライバーとして、身をもって「水素=危険」のイメージを「水素=未来」に変えてきた。
同時にレースを通じた取り組みの中で、水素を「はこぶ」・「つかう」取り組みも進化してきた。
「はこぶ」分野では、従来の鉄製のカードルに対して自動車用の軽量な樹脂製タンクを用い運搬効率を高めた。また、水素充填に関しても、将来の大型トラックへの充填時間短縮に向け、大流量化とツインノズル化に挑戦した。
「つかう」分野でも、水素燃料電池で走る給食配送車やゴミ収集車を導入。さらに、水素グリル、サウナなど、モビリティ以外の領域にも拡がり、仲間を増やしてきた。
こうした活動が実を結び、国も動き始めている。
今年2月、資源エネルギー庁を中心として水素大動脈構想の検討が開始。同構想は、水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)や日本自動車工業会(自工会)など、産業界を横断した枠組みで進められてきた。6月4日には経済産業省主催で“水素大動脈構想実現会議”が開催されるなど、水素の社会実装に向けた活動は一層加速している。
水素大動脈構想とは
福島から東京、神奈川、愛知、兵庫などを経由し福岡に至る主要幹線道路に水素ステーションを設置し、FCEV(燃料電池車)大型トラックが走ることで持続可能な水素需要を創出する構想。自工会では、今後10年で水素トラック1,500台相当(水素消費7,500トン相当/年)を走らせ、水素ステーションを新たに30基加え、水素価格1キロあたり1,000円にすることを基準に示した。
「水素大動脈構想実現会議」までの道のり
こうした動きを踏まえて、改めて説明会に戻りたい。
この日、メディアからの質問に答えたのは、中嶋副社長のほか、水素ファクトリーの山形光正プレジデント、CVカンパニーの木全隆憲プレジデント、太田博文チーフエンジニア。
自工会で水素普及タスクフォースの担当でもある木全プレジデントは「水素大動脈構想実現会議」までの道のりを、こう振り返る。
木全プレジデント
皆さんやろうという気持ちはありながらも、自動車メーカー、物流事業者、水素ステーション事業者、それぞれに課題を抱え、3すくみの状況が続いていました。
クルマの値段が高い。水素が高い。そうすると使うのもためらわれる。水素の消費ニーズが生まれないのでステーションもできない。消費量が増えないと水素価格も下がらない。
これを打開するには自動車業界だけではなく、業界を超えた連携が必要です。
今回経済産業省が「水素大動脈構想実現会議」を立ち上げ、業界を超えた連携を後押ししていただけることになりました。諸外国、中国、ヨーロッパの水素社会構築が早く進んでおり、日本も一体となって進める必要があります。
水素社会の実現に向けては、自動車だけでなく、インフラや規制など、さまざまな団体の思いが絡まる。
山形プレジデントも「水素は社会を変える取り組み」であるとし、トヨタ1社ではできないと認識を示した。
太田チーフエンジニアは自身の体験を交えて、協力を呼び掛けた。
太田チーフエンジニア
FC車両の開発と平行して多くの評価をしてきました。そして声を聞いてきました。その中でも印象に残ったことが、我々が自らトラックを運転する中で、道路上で水素欠を起こしてしまいレッカーで運ばれたことです。
初期の話ではありますが、まだまだ広範囲では水素車両は使いづらい。自分自身で実感しました。
しかし(水素は)将来に向けたエネルギーという大きなテーマです。クルマ自身の商品力をさらに引き上げていくこと、そして、運行を支える水素インフラなど社会全体で整えること。この両輪をどう動かしていくのか、この5年間の一番の戦いであり、悩みながら進めてきました。
本日、トラック、バス、乗用車と、複数のFC車両を並べました。具体的な利活用を見据えることで、徐々に次の方向性も見えてきたと思います。水素大動脈構想のもと、我々OEMだけではなく、ユーザーの皆様、そして社会全体での取り組みとして、一緒に考え、チャレンジしていければと思います。
燃料電池は日本の技術の結晶
諸外国に対し、日本の優位性もある。山形プレジデントは燃料電池技術の耐久性を挙げる。
山形プレジデント
燃料電池の技術は、日本の50社ぐらいの方々と30年かけてつくり上げてきたもので、トヨタ単独でやってきたことではありません。本当に日本の技術の結晶です。
この技術を商用車に使おうとすると、耐久性が非常に重要になります。日本の技術による燃料電池の耐久性は、世界でもかなりレベルが高いと評価いただいています。
山形プレジデントによると、大型商用車向けの燃料電池システムを開発、生産、販売するセルセントリック社*と協業を検討しているという。「今回の協業は、日本の燃料電池の技術が世界で貢献できる大きなチャンスだと思っています。しっかり仕上げて、日本の技術が世界で羽ばたけるようにやっていきたいと思っています」と話した。
*ダイムラートラックとボルボが設立した合弁会社。トヨタは3月末、この2社とともにセルセントリック社に出資し、燃料電池の大型商用領域における協業に関する基本合意書を締結している。
中嶋副社長は、大量のFCEVトラックが走る中国について「我々の技術を鍛えていただける場」と考える。「(ヨーロッパや中国)それぞれの地域の特殊性を生かしながら、全体の底上げをやっていこうと思っている」と狙いを語った。